表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/18

5ラウンド目・白いリングで会いましょう。

書き貯め? 三話目で尽きましたよ? 毎日フレッシュな作品をお届けしております。



 (……あれ? 私、どーしてこんな所に居るんだろう?)


 ミライクこと郁美は、真っ白なリングのやや中央寄りの場所に立ちながら、そんな事を今更ながら考えていました。


 お馴染みの四角いマットの上で、顎に指先を当てながら暫く考えてみましたが、面倒になったので考えるのを諦めました。






 ミライクこと郁美の、筋トレとヤレンナー君をこねくり回す日々は、何故か婚礼の日取りを決める予定日の後も続いていました。


 実際、その御披露目の日を目前に控えたある日、ドエィム家から【延期はしないが少しだけ猶予が欲しい】と土壇場になって報せが届き、ミライクの生家のアルフロード一族はちょっとした騒ぎになりましたが……


 「まあ、先方のヤレンナー君も最近は体調が安定していないと聞いているし、まだ二人とも若いのだから急ぐ事も無いだろう」


 家長のハックルバックの鶴の一声に、集まった面々は仕方なく納得し、ともかく三ヶ月位は様子をみよう、と曖昧な様子見に落ち着きました。


 しかし、そんなもん一切気にしていない郁美は、今日もヤレンナー君を鍛えようと無駄な努力に勤しんでいました。


 「くぇ~っ!! お、折れる折れる折れる折れるぅ~っ!?」


 みじみじ……と背中の筋が断裂寸前まで引き延ばされたヤレンナー君が、この世の終わりのような叫び声を上げますが、


 「もー! こんなん初歩の初歩じゃないの?」


 背中に載せたヤレンナー君の額を片手で掴み、太股辺りに巻き付けた腕に力を籠めながら、ミライクが彼を担いだままユサユサと揺らしてあげているだけなんですが、まあ、そんな感じの通常営業ですね。


 あががが……と呻きながら海老反りになって苦痛に耐えるヤレンナー君ですが、イヤなら来なきゃいーだろうに懲りずに今日も許嫁(いいなずけ)の屋敷に踏み入って、憐れな餌食と化してます。


 ミライクこと郁美にとって、ヤレンナー君は手頃な重さのバーベル替わり。多少柔らかくて勝手に動きますが、背負ったり担いだりに適した大きさで、彼女には格好の負荷装置として活躍していましたが……その日は違いました。



 傍目から見れば一方的な虐待ですが、本人同士が同意の元に行ってます。屋敷の人々にとっては、ヤレンナー君の悲鳴が止んだら「あ、そろそろお茶のお代わりをお持ちする時間ですね」とか「お帰りの時間になりますかね、ドエィム家の方々に使いを出しましょうか」等と仕事の区切りの目安になっていた位です。




 しかし、遂にそんな二人を静観出来ぬ者が現れたのです。


 (……全く! 私という者が居るのに……ドエィム家の方々は全然見る目が有りません!!)


 屋敷の門前に、五人の侍女を引き連れながらツカツカと近付く一人の少女が現れました。彼女は心の中で呟きながら、そのままプンスカと怒りつつ門を抜け、玄関前までやって来てお連れの侍女に扉を開けさせると、道場破りさながらの大声で叫んだのです。


 「ミライクさんっ!! ヤレンナー様っ!! 今日という今日は白黒付けさせて頂きますわよ!!」


 その豪奢な巻き髪スタイルの見るからに気の強そうな少女は、現れたアルフロード家の侍従の者達に宣言したのです。


 「このヤンデルナ・ハラグローリィこそ、ヤレンナー様に相応しい【護りの乙女】なのです!! 典範に従い、自ら改訂を乞うべく参上いたしましたわ!!」


 ……えーっと、つまり【私の方が【護りの乙女】っぽいから譲れよカス】と言ったと思ってください。


 そんな彼女の声は、汗臭くならないように部屋の扉を全開にしていたミライクにも丸聞こえ。彼女は毎度ながらその意味は全然判っていなかったのですが、↑みたいな意味に聞こえたようで、


 「ふあ○ぁーっく!! 何処のどいつが私の筋トレの邪魔しに来やがったんじゃーいっ!?」


 と、淑女気質皆無な伏せ字必須の雄叫びと共に、肩に担いだヤレンナー君を載せたまま、部屋から飛び出し廊下を駆けて屋敷の階段端まで辿り着くと、中央の踊り場まで一気に跳躍し、


 「どっせええぇ~っい!!」


 ひゅーん、どがちゃん! とヤレンナー君に変形型バックブリーカーを極め、ポイと投げ捨ててから仁王立ち。


 「……で、えっと……あんた誰?」


 それからお約束の言葉を吐いてから、相手の反応を待ちました。






 「……っきゃあああはああぁ~っ!! ヤ、ヤレンナー様がああぁ~っ!?」


 ええ、勿論彼女はゴロゴロと階段を転がり落ちるヤレンナー君(ボロぞうきん)に駆け寄って、壊れ物を扱うようにそっと抱き抱えたのです。


 「な、なんて酷い事をするんですかぁ~っ!! ああ、ヤレンナー様……このヤンデルナがお守り出来なかったせいで、こんな痛ましいお姿に……」


 と、腕の中で軽く痙攣しているヤレンナー君の頬に手を当て、目を潤ませながら呟いていたのですが、


 (……美味しいわぁ……この素敵なやられっぷり!! キチンと介抱すればワタシのポジションガン上がりじゃない!? う、うふふ、うふふふふふふふふふ)


 内心ではキーンと計算を終えて、バッチリほくそ笑んでいたのです。ヤレンナー君の周りはこんな奴ばかりですよ? 可哀想に。


 「で、そのヤンデル何とかさん、何の用?」


 「きいいいぃ~っ!? 最後のナぐらいちゃんとはぐらかさずに認識しなさいよ! この脳筋!!」


 「いやぁ、そんな誉め方されたら照れちゃうじゃん……」


 「全っ然誉めてないからっ!!」


 随分と温度差の有る二人は言い合いながら、互いの力量を探り合います。


 ミライクこと郁美は(……見た目は派手だけど、筋肉は無いわね。ま、私の敵じゃないわ)と思い、


 対するヤンデルナの方は(……魔力の欠片も感じないわね。ま、それを考慮しても私の足元にも及ばないけど)と思いました。


 そんな心中を隠しながら、ミライクはヤンデルナに質問します。


 「で、何の用でうちに来たの?」


 「何の用で……ですって!? ちゃんと説明したでしょ話を聞いてなかったの!!」


 勿論まともに聞いていなかったミライクは、全然判りません。結局、【護りの乙女】とはヤレンナー君と婚約する者に与えられる役割であり、その使命は国の未来を担う前途有る若者を、様々な困難に会おうと共に乗り越えるパートナーとして認められた者のみが勝ち得る……みたいな呼び名だと判ったのは……


 「……はぁ、はぁ……だーかーらっ!! あんたみたいな脳筋無魔力な女には似合わないって散々言ってるでしょーが!!」


 と、ヤンデルナが息も絶え絶えになりかけながら必死に訴えて、相当な時間を費やした後なんですが。


 「ふーん、つまり【護りの乙女】ってのは、魔導だか魔法だかが使える者だけがなれるって訳?」


 ミライクはそう答えてから、ヤンデルナの持っていた杖にやっと気付きました。


 「そうよ!! 私みたいな天賦の才に恵まれた特別な者が最も相応しいの!! ……ま、この国に生まれて【魔導】が使えない女なんて、一人も居ないけれどね?」


 その杖を振り回しながら、ヤンデルナはさも当然のように言いましたが、ミライクはそこで初めて知ったのです。


 「……女なら誰でも魔法が使えるの?」


 ええ、そーなんですが……ミライクの中の人、郁美はそんな事は全く知りませんでしたし、試しに魔法で火が出やしないかと念じてみましたが……残念ながら何にも起きません。


 「……あら? ミライクさんったら、【魔導】を使えないのですかぁ~? まあ! 大変!! ただの脳筋だと思ったら魔導の素質も無い脳筋だったんですか~!」


 わーざとらしく驚きながら、のほほほと笑いつつ、ヤンデルナは言い放ちました。


 「……でしたら、【護りの乙女】の候補者として、ヤレンナー様のお傍に居るに相応しくない存在ですわね。ならば【序列改訂】の勝負を挑ませていただきましょう!」


 そう言うと指先をクイッと曲げながら、ミライクを誘います。


 「……さあ、お出でなさい。私が直々に【護りの乙女】とは、どのような者が成るに相応しいか、教えて差し上げますわよ?」




 それから庭先に出たヤンデルナは、ミライクが見守る前で杖を振り上げて【魔導】の詠唱を始め、芝生に覆われた庭の真ん中に真っ白な舞台を構築したのです。


 「……はぁ、はぁ……わ、私のように才能有る魔導士に掛かれば……こんな事は、朝飯前で御座いますわ……」


 そう言いつつも、すっかり息の上がったヤンデルナはちょっと休憩するわよと言いながら、舞台の端っこにちょこんと座り、


 「ひぃ、ふぅ……あー、しんどいわぁ。ちょっと待ってなさい、暫くしたら……どちらが相応しいか、白黒つけて……」


 そんな感じで体力魔力を回復させていたのですが、ミライクは舞台の端に足を掛けるとサッと飛び上がり、


 「へぇ~、結構ちゃんとしてるのね~。スゴい便利ね~魔導って!!」


 感心しながらぴょんぴょんとジャンプし足場を確かめて、(いやー、こんな簡単にリングが設営出来たら、興行が楽だよな~)と下世話な事を考えてました。



 ……但し、本来の理由をすっかり忘れ去っていたので、その舞台の真ん中から少し外れた場所で腕組みしながら、


 (……あれ? どーして私、リングの上に居るんだろう?)


 と、頭の中で考えていたんです。




 因みに、全ての元凶のヤレンナー君は、屋敷の中でソファーに寝かされてました。勿論、白目を剥いたまま。




そんな訳で次回のタイトルは未定です!


ではまた次回も宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ