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4ラウンド目・ミライク、大地から立ち上がらせる。

今回は少しだけ短めです。



 ヤレンナー・ドエィムは、実は何度も何度もミライクの元を訪れていたのだが、暫くの間は彼女に全く認知されていなかった。


 王位継承権第何位だかの高貴な出自だが、その性質は虚弱そのもの。ミライクこと郁美の食事に同席しても、鳥のササミや胸肉、大豆たんぱく質主体のプロテイン系な食事風景(但し量はハンパない)に胃痙攣を起こし、三日間流動的な食べ物しか受け付けなくなったり、全身から湯気を上げながらサンドバッグを叩き続けるミライクの姿に思わず失禁したり、弱々しい限り。


 それでもヤレンナーは諦めなかった。久し振りに赴いた際、何故か自分より少しだけ背の低かったミライクの一撃でぶっ飛ばされたり、驚かせようと後ろから忍び寄った際、何故か自分より少しだけ背の低かったミライクに、一瞬で関節を極められ投げ飛ばされたり……どうしてそうされるのか全く判らなかったが、しかしヤレンナーは諦めなかった。


 ヤレンナーにとって、ミライクは永遠の憧れ、心の太陽だったからである。


 だがしかし、その太陽は彼の記憶の中の姿から随分と様変わりし、結構破壊的で徹底的に冷徹な対応をされちゃってますが。



 「……ねぇミライク君、それ楽しいの?」


 今日もヤレンナー君は懲りずにミライクの部屋を尋ねて、特等席で訓練風景を眺めています。


 郁美としても、ミライクの中から眺めるヤレンナー君はつまらないモヤシっ子、ではありますが、人畜無害なので放置する事に決めました。


 「ん? うーん、楽しいけど?」


 ミライクがそう答えると、ヤレンナーは嬉しそうに笑いながら彼女の訓練観察に戻りました。




 ……だがしかし、ヤレンナー君の興味は訓練ではありません。


 (はああああぁ!! ミライクちゃんの髪の匂い! 汗の匂い!! すげー!! はあはあはあはぁあはははははは~♪)


 うん、色々な乙女の匂いで半狂乱になりながら、引き締まったお尻の辺りやチラチラ見えるおへその周辺を見ているだけで、ヤレンナー君は大満足。ついでに気紛れでミライクに「退屈だろーからキックミット持って立ってて」などと言われたら、それだけで辛抱たまらん状態。その後はお待ちかね、ずっしんずっしんと骨に響く強烈なミドルキックをキックミット越しに受けただけでも軽く……まあ、察したまえ。


 そんな動くリビドー状態のヤレンナー君は、何かと理由を付けてはミライクの部屋に押し掛け、ミライクも相手を異性と認識していなかった為、気安く部屋に入れていたのです。


 そんな二人を周囲は(婚約前から仲の良い二人で……)と噂していましたが、勿論郁美は全く気にせず、ヤレンナー君は()()()()()()()()。こうして日々は過ぎていきました。



 そして遂に、その日がやって来ました。


 警護とハッタリの意図で庭先に置かれていた機甲猟兵(ゲパンツァード・イェーガー)の足元にやって来たミライクは、慣れた手付きで操作盤を叩き、胸元のハッチを降下させます。


 「ねえ、ミライク君、バレたら怒られるよ……」


 既に怒られたみたいに顔を真っ青にしながら、ヤレンナー君が怖々と訴えますが、


 「ん~? 平気じゃない? 別にイヤなら屋敷の中から見てればいーじゃん」


 ミライクこと郁美は気にせず、降りてきた装甲板にひらりと飛び乗ります。


 「あっ! ぼ、僕も乗るよ!!」


 一人で取り残されても不安だったので、ヤレンナー君も慌ててハッチの上によじ登りました。


 人間の重さを感知したハッチが、自動的に上へと揚がり、操縦席まで来ると接合部に連結されて、ゆっくりと閉まっていきます。


 二人は目の前の窓から見える景色を眺めながら、ミライクはレバーを握り、ヤレンナー君は邪魔にならないよう隅へと身を寄せます。


 「さーて、今度こそ動いてちょうだい……」


 ミライクは呟きながら、レバーを握り締め、力を籠めます。


 ……ぐ、ぐぐぐ……


 今までびくとも動かなかったレバーが徐々に動き、カチンと軽い音が鳴った瞬間、突如周囲の壁が消え失せて、明るく視野が広がり見えなかった背後のお屋敷まで見通せるようになりました。


 「やったぁ!! ほら見てヤレンナー君! 動くよこれ!!」


 ミライクはレバーを握ったまま、立ち上がって歩くようにイメージさせると、レバーを伝達して機甲猟兵がゆっくりと立ち上がり、庭の真ん中をガシュガシュと歩き始めました。


 「す、凄いね……でも僕、気持ち悪くなりそう……」


 喜びはしゃぐミライクとは対照的に、揺れる視界と足元が動く感触でヤレンナー君は限界寸前です。


 「しょーがないなぁ……ほら、これ使って」


 ミライクは予め用意していた紙袋を手渡してから、チャップマン翁に聞いていた操縦法を思い出しながら、機甲猟兵を使って格闘の動きを練習しました。



 「もう限界……し、死んじゃいそう……」


 降りてきたハッチの上から土気色になった顔でヤレンナー君が転がり出ると、白いランニングとショートパンツ姿のミライクが軽やかに降り立ちました。


 「も~、君は少し弱々し過ぎるんだよ。もっとお肉食べて身体を強くしなきゃダメだよ?」


 芝生の上に四つん這いになり、今にも気絶しそうなヤレンナー君を見下ろしつつ、ミライクは目の前の機甲猟兵を見上げます。


 (それにしても、こんなでっかいロボットが必要な世界なんだよね、ここ……)


 平和で平穏な暮らしをしてきたミライクこと郁美は、(ようや)く動かせるようになった機甲猟兵に思いを馳せます。


 そして、何故に自分がこの世界に導かれたのか考えてみましたが、やっぱり良く判りません。ただ、これだけは判ります。


 ……【選ばれし騎士】なんかじゃなくても、沢山筋トレすれば機甲猟兵を動かせるようになるんだ、って。




 うーん、それは確かにそうなんだけど、郁美さんみたいに1日14時間もぶっ通しで筋トレ出来る奴なんて、あんまり居ないと思う。


 「あ、そーだ。ヤレンナー君も私と一緒に筋トレすればいーんじゃない?」


 「ひっ!? そ、それだけは勘弁してえっ!!」


 因みに、ヤレンナー君は筋トレ開始五分後、すーっと意識を失いました。



それでは次回……は、まだ書けてません!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤレンナー君は主人公に負けず劣らず濃ゆいキャラだった……!! この割れ鍋に綴じ蓋感……!! あ、毎回楽しみに読ませて頂いてます!! プロレス&巨大ロボなんてご褒美すぎてもうたまりませんねw…
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