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17ラウンド目・機甲猟兵同士の戦い

遂に激突する長女、カテーナ。果たしてミライクはどうして戦うのか?



 高く澄み渡る青空に、白い雲が点々と見える晴天の日。


 広い平地の真ん中に、二体の【機甲猟兵(ゲパンツァード・イェーガー)】が向き合っています。片方は空より蒼い機体、そしてもう片方は燃え立つような紅い機体。両方とも待機状態で胸元の装甲板が開き、地面近くまで降ろされています。


 「う~ん、何回着ても……恥ずかしい格好だなぁ」


 ミライクこと郁美は、お約束の白いレオタード調の【護りの乙女】の正装ですが、しきりにお尻の辺りの食い込みを気にしています。前から思ってたけど、少し小さいんじゃないの?


 「……あれが【護りの乙女】の戦装束……何とも破廉恥な格好ね」


 対するカテーナは、黒いローブ状の戦場魔導士服に身を包み、高い襟元の奥から皮肉っぽい表情を覗かせます。


 二人は各々の搭乗機から離れると、勝負見届け人として名乗り出たツエイナー・ドェイム近衛兵団長を間に挟み、小さく礼をしました。


 「うむ、双方ともに正々堂々と戦ってほしい。但し、この勝負は【護りの乙女】選定を覆すような事は無いと、予め伝えておくが……不服は無いな?」


  ツエイナーの言葉にカテーナとミライクは頷きながら、踵を返して各々の搭乗機へと向かい、そして乗り込みます。


 「はい、ご心配なく。理解しています」


 ……なーんてしおらしく答えるカテーナでしたが、頭の中は真逆!


 (……何故にあんな脳筋がヘラヘラしてるのかしら? 私の方がもっと認められるべき私が私が私私私私私私私私私私私私きぃーーっ!!)


 ……長い間に【姉は一番キチンとしていないとダメ】教育で(つちか)った、表情一つ変えない状態を維持しながらイキり立ってんですね? 順調に拗らせて来た系かな?


 「それじゃー宜しくお願いします!!」


 ミライクこと郁美は元気良く声を上げ、上昇するハッチからヒラリと中に飛び乗って操作レバーを握りました。


 ガクン……とハッチが動いてピッタリと閉まり、直ぐに真っ暗だった機内が外の景色を写して明るく照らされます。


 (……さっきはイラッとしたな……別に誰に何を言われても腹立たないけど、アイツに脳筋って言われると無性に腹が立つんだよなぁ)


 どうしてそう思ったのか判らないまま、ミライクはレバーを握り締め、相手の機甲猟兵を眺めました。


 ……と、その時になって気付いたのです。色以外に自分と相手の機甲猟兵の違う点が有ることに。


 「ん? あっ、剣持ってる!!」


 漸く気付いたミライクでしたが、木刀みたいなモンだよな? 程度にしか考えませんでした。そりゃあ機甲猟兵は厚い鎧みたいな装甲に覆われてるけと、関節部分や昇降口の隙間に捩じ込まれたら……。


 「まー、いいか? 模擬試合だって言ってたし」


 気楽な口調で言うけれど、実際に機甲猟兵を使い一対一で戦うのは初めての彼女。況してや相手の口振りを聞く限り、自分とは違って実戦経験も豊富そう……ミライクは本当に大丈夫かな?


 (ん~、ようは凶器有りのデスマッチなんでしょ?)


 ……あ、全然気にしてないや。




 こうして二機の機甲猟兵同士が向き合い、間合いを保ちながら開始の合図を待ってます。


 と、大きな旗を持った近衛兵が訓練場の櫓の上に現れて、くるくる回しながら一旦止めて注目させました。


 「……双方、構えっ!!」


 ミライクは両手を胸元に、カテーナは腰に提げた長剣を抜いて両手で持ちながら、次の合図を待ちます。



 「……始めっ!!」


 バサリッ、と旗が降ろされ開始の合図となった瞬間、カテーナの乗機が矢のように走り出し、あっという間に剣の間合いへと入りました!!


 (どうせ機甲猟兵同士の戦いなんて、ろくに経験してないでしょう? ならば……初手で詰め切る!!)


 カテーナはミライクの動きを先制する為、踏み込むと同時に長剣を振り上げ、視覚転換機器が詰め込まれた頭部目掛けて振り下ろし……た、筈ですが?


 「なっ!? は、離せ……っ!!」


 振り下ろしかけた両腕部の肘の上を、ミライクの乗った機甲猟兵に掴まれてしまいました。このままでは剣が振れません。


 (だったら……逆手に持ち変えればっ!)


 でも……そんな握り方で出来る事は……背後から装甲の隙間を狙って射し込むしか手は無いし、そんな事をしたら操縦席のミライクが無事で済むかも判りません。


 クルリと手の中で剣を握り直し、切っ先を背中の中心に押し当てたカテーナは、そのまま真下に……下に……あれ?


 「な、何故動かないっ? 故障したの!?」


 カテーナは操縦レバーを握りながら、ガクガクと振り回してみたり色々と試しましたが……腕は微動だにしません。いや、それどころか突如動き出したミライクの機体に腕を持ち換えられて、下から持ち上げる形になったカテーナの機体が、逆に上へと上がっていきます!!


 やがてゴリッ、と嫌な音が肘関節から響き、ガクンと機体が揺れました。どうやら肘の機構が破壊されたようです。


 「くっ!!」


 短く叫びながら、カテーナはハッチを開けて外に出ようとしました。このまま乗っていても腕が壊れてはどうしようもありません。せめて降りて相手の機甲猟兵の動きを止める策を練った方が良い、そう判断しての降下でした。


 だがしかし、向き合って立っていた機甲猟兵同士のハッチが開き、自分が外に出た瞬間、目の前のハッチが同じように開き、ミライクも外に出ようとする姿に鉢合わせしてしまったのです!


 「な、何であなたまで外に出てるのよ!?」


 「……こんなモンに乗ったまんまじゃ、生身相手なんて無理だから……直接()()()()()()()()()()()!!」


 そう言われつつ、カテーナはハッチを降ろし、ミライクも同様に下へと降りてしまいます。……何だか話が違って来てない?


 「さあ、かかって来いやっ!!」


 「……脳筋、ここに極まれり……ね。呆れて物も言えないわ」


 すっかり肉弾戦のつもりで拳を握り掲げながら構えを取るミライクに、カテーナは溜め息混じりで向き合います。こうなっては諦めるしかないようです。


 (……とは言え、向こうはジレッテーナも(かな)わなかった相手、正攻法で戦っては私と言えど……)


 カテーナはそう考え、秘かに【身体強化】を重ね掛けし、相手の出方を窺います。ミライクは迎え撃とうというつもりなのか、自分から前には出ず、待ちの構えで動きません。


 「いいわ、付き合いましょう……但し、勝つのは私ですけれど!!」


 と、突如カテーナは拳を突き出し、ミライク目掛けて開きました。その瞬間、パッと(まばゆ)い光が(ほとばし)り、ミライクの視界を遮りました。


 「おおっ!? やるじゃん……目潰しか!!」


 まともに見てしまったミライクは、顔の前に手を上げて遅まきながら防御の姿勢を取りますが……がら空きになった鳩尾にカテーナの膝がめり込みます!


 「がふっ!? ……くそ……!!」


 「……まだまだよ!!」


 素早くミライクの背後に回ったカテーナは、そのまま首に腕を回して抱えながら、乱暴気味に背面投げ!!


 「つぅ!!」


 「……これで、終わりよ!!」


 肩から地面に倒れ込んだミライクの身体にのし掛かりつつ、カテーナが膝を首筋に乗せ、拳を振り上げました!


 「……相手に触れちまうと……こうなるわよっ!!」


 「……えっ!? きゃあっ!!」


 しかし、ミライクはまさかのブリッジ!! カテーナを身体に乗せたまま、綺麗なカーブを作り上げて彼女の身体を跳ね除けてしまいました! ……正に脳筋!!


 不意を突かれて転がり落ちるカテーナ、そしてブリッジから頭を下にして素早く後転しながら起き上がったミライクは、互いに距離を取りました。


 「……いやはや、目眩ましたぁ……なかなかやるじゃん!」


 「……信じられないタフさね……」


 二人はお互いの動きを見守りながら、仕切り直しに……って、機甲猟兵はどーなんのよ!?




それでは、次のお話をお楽しみに……

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