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13ラウンド目・プロレスラーって奴は!

毎日更新!



 がしゅっ、と鈍い音が響き、観衆からどよめきが上がります。


 「はぁ、はぁ……いい加減……に、倒れろっ!!」


 側頭部に回し蹴りを入れたジレッテーナの方が焦り、


 「……へっ、へへ……こんなん……温いわっ!!」


 痛打を浴びた筈のミライクこと郁美の方はと言えば、薄笑いを浮かべながら、憎まれ口を叩いて足を踏ん張ります……こんなやり取りが、もう数え切れない程続いているのです。




 その始まりは、ミライクの先制攻撃でした。距離を取ったジレッテーナに向かって飛び掛かり、両手を振り下ろし相手の両肩付け根に叩き込みます!


 ばちぃっ、と派手な音が響き、観客から歓声と悲鳴が舞台に届きます! すかさず前蹴りでミライクを引き離しながら、ジレッテーナは鎖骨辺りが折れていないかと我が身を調べますが、どうやら問題がなさそうです。


 「……音ばかりで効果も無いか……これの何処に恐れを抱けと言うのかい?」


 構えを取り直し、ミライクを睨むジレッテーナですが、相手は動きません。その場に構えながら、ジレッテーナの出方を待っているように見えます。


 「ならば、打って出るが正攻法かっ!!」


 ぐんっ、と踏み込む足が伸び切り、身長差のあるジレッテーナの動きも目を見張るものが有ります。更に【身体強化】で加えられた加速に物を言わせ、一気に距離を詰めると長い足が突き込むように弧を描き、ミライクの脇腹へと突き刺さりました!


 「がふっ!? ……くそっ、やるじゃねぇかよ……」


 先程までの様々なダメージを感じさせない一撃で、ミライクの身体が軽く浮き上がり、肺から空気を無理矢理吐き出されたミライクは苦悶の表情を浮かべましたが、直ぐに応戦!!


 がこっ、と鈍い音が舞台に響き、ミライクの右フックがジレッテーナの顎を掠めました。頭を揺らされたジレッテーナはふらりと身を屈め、倒れる寸前で何とか踏ん張ります。


 そこからは……双方の殴打と蹴りの応酬が交差し、弾ける汗と血が舞台に飛び散っていきました。


 ……しかし、ジレッテーナは気付きます。ミライクの攻撃は応打のみ。まるで打たれるのを待ってから反応しているようで、予定調和に等しい動きからは殺意を全く感じられなかったのです。



 (……さては、こちらが疲れてから反撃する算段か? それとも【身体強化】の効果が切れるのを待っているのか……)


 ジレッテーナは、自らに施した【身体強化】の術式があと僅かで失われるのを自覚し、ミライクの思考を読み解こうと慎重になります。しかし、そんな彼女の思惑を嘲笑うかのように、ミライクの殴打は際限無く続いていき、ジレッテーナは次第に思考力も失われていきます。


 右、左と腕を振り、互いの身体目掛けて拳が交差し、その度にどちらかの身体が揺らぎ、観衆の声を背中に受けて踏み留まります。


 (……こんな……泥試合に……付き合うつもりは……ない……が)


 次第に腕を振り上げるだけでも精神力は削られていき、苦痛に顔を歪めながらの消耗戦へと移り、ジレッテーナはミライクの姿がぼんやりと霞んで見えてきます。


 「……倒れろって、言ってんだよっ!!」


 ぐわっと目を開きながら、ジレッテーナは落ち込みかけた心を奮い立たせ、再び踏み込むと同時に足を開き、ミライクの足首を刈るような回し蹴りを見舞います!


 がつっ、と骨に響く音が鳴り、ミライクの身体が揺れて地面に片手を突き、倒れ伏すギリギリで身体を支えながら、ミライクは辛くも踏み留まりました。


 「はぁ、はぁ……さぁて、こっからが……プロレスラーの意地の……見せ所だな!!」


 しかし、彼女の闘志は揺らぐ事無く、更に燃え上がりながら構えを取り、ジレッテーナへと向けられた支線は鋭さを帯びて爛々と輝いていったのです!!


 「只の我慢較べじゃないか……この、脳筋があああぁっ!!」


 ばちぃっ!!


 ジレッテーナは形振り構わず、掌をミライクの頬に叩き付けました。乾いた殴打の音に観衆は息を呑み、打たれたミライクの頬は赤い紅葉のように染まりましたが……


 「上等だねぇ……張り合いは、嫌いじゃねぇっ!!」


 ばちいぃんっ!!


 下から突き上げるように繰り出されたミライクの掌は、ジレッテーナの頬に同じような手形を残しました。


 ばちいぃっ!!


 ばちいぃん!!


 手の届く距離に立ち、互いの頬を張り合う二人。やや背丈で上回るジレッテーナと、小さいながら鍛え抜かれた身体のミライクは、双方同じタイミングで叩き合い、意地を貫き通し続けました。


 ……見れば、ミライクは片方のレオタードの肩紐が落ちかけ、あわやポロリするかと観衆の視線を集め、ジレッテーナの方はと言えば、汗に濡れた衣服が肌に張り付き、うっすらと下着の線が見えているような……いや、そうじゃなくて! とにかく二人はボロボロの(てい)で我慢較べを繰り返していたのです!


 しかし、静まり返った群衆が見守る中、均衡は崩れます。殴打を繰り返し浴び続け、目も閉じ頬も腫れ上がった彼女の動きは単調で、ジレッテーナは時来たりと悟ったのです。今なら、異なる打撃さえ通れば、倒れるのでは……と。


 その張り手はミライクの頬を叩き、また同じ繰り返しになる筈の一撃……しかし、僅差で指先が空を切り、ミライクの眼前を通過したのですが、それこそが騙し手(ブラフ)


 ジレッテーナの右手は確かに空を切ったのですが、そこから半歩前に出た彼女の動きは更に続き、突き上げるように肘がミライクの顎目掛け、狙い澄ました(やじり)のように吸い込まれて行きました!!


 (これなら……避けられる筈が無いっ!!)


 その変化は一瞬。僅かの動きの差が生み出す結果は一撃必殺の威力を発揮するでしょう……当たりさえ、すれば。


 が、しかし……迫り来るトドメの肘打ちがミライクの頭部に直撃するかと思われた刹那、ミライクも今までとは違う動きを見せたのです。


 ジレッテーナの肘が顔に当たる瞬間、ミライクは頭を振り、打撃の衝撃を反らしながら半歩下がり、身体を回転させ背中を向けたままジレッテーナの脇へと肘を宛がい、相手の身体を突き飛ばすように身を預けます!


 その動きは一切の淀みも無く、ジレッテーナは思考が追い付かないままミライクに押されて宙に浮き上がりました。今まで見せていた単調な殴打の数々からは、全く予測出来ない練達の技に、ジレッテーナは為す術も有りません。


 と、宙に浮いたジレッテーナの足にミライクの足が器用に絡み付き、うつ伏せに倒れ込ませながら背後を取ったミライクの手がジレッテーナの手首をがっちりと掴みます!


 「……なっ!? 何をする……つもり……だっ!?」


 ジレッテーナはミライクの手を振りほどこうとしても背後から掴まれているが故に、力も入らず逃れられません。更に膝の裏から足を複雑に組み付かれ、関節をギリギリと締め上げられて遂に苦痛で顔を歪ませます。


 けれど、そんな技の最中にミライクは突如目覚めたように頭を振ると、ジレッテーナが愕然とするような事を口走ったのです!


 「……ありゃあ? 何だこりゃ……あ、もしかして気絶している内に関節技掛けてたんか?」




コメディーかな? とか思ってます。次回も宜しくです!

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