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12ラウンド目・どーしてこーなった?

なんとか毎日更新しています!



 二日後、近衛兵修練場の片隅に二人の姿が有りました。勿論、前回の続きをする為だったのですが……


 「おねぇ~さまぁ~っ!! 頑張ってぇ~っ!!」


 ヤンデルナの黄色い声援がジレッテーナの背中に突き刺さります。腕を組んで立ったままのジレッテーナは、答えず俯いたまま。


 「ミーラーイークーちゃ~ん!! 頑張れぇ~っ!!」


 近衛兵達の野太い声援がミライクの背中に叩き付けられます。腕を組んで立ったままのミライクも、同様に答えず俯いたまま。


 そして、二人は同時に心の中で呟きました。


 「「……どーしてこーなった?」」




 事の起こりは、舞台設営にヤンデルナ自身が名乗りを上げた事から始まりました。


 「近衛兵の皆様のお手を煩わせるような事は御座いません!」


 景気良く言いながら、地面を隆起させて作り出した舞台でしたが、その場所は修練場のど真ん中。直ぐ脇に観覧用の席が在ったのですが、気付けば近衛兵達が我も我もと押し掛けて席に陣取り始めてしまったのです。


 人が動けば波が立つように、近隣から噂を聞き付けた野次馬の一般人が、いつの間にか席の方々に座り、今か今かと待ち構える事態となり、ジレッテーナは中止しようかと迷いましたが、


 「まあ、たまには良かろう。普段なかなか地域の民と交流出来ない我々が、親睦を深める為に場を提供する事も大切だからな」


 現兵団長のツエイナー・ドエィムの一声に、ジレッテーナは渋々ながら承諾するしか有りません。因みに彼はヤレンナー君のお父様です。


 「ジレッテーナ、君程の実力者が一般人のミライク君と戦う事がどのような結果を招くのか……私から言えるのは、それだけだ」


 ツエイナーの言葉に(わざと負けよと申すのか? 冗談でしょ……)と苛立つジレッテーナでしたが、顔に出さずに舞台へと上がりました。


 あ、勿論今回もコーナーポストとロープは付けられましたよ?


 (余計なもんを付けやがって……)


 ミライクこと郁美は、久々の観客に多少は興奮しましたが、相手が相手です。この前のように挨拶代わりのドロップキックを応酬する気は無く、真正面から当たっていくつもりのようです。


 (まあ、自分を信じて前に出るのが、プロレスラーとしての心意気ってもんでしょ?)


 軽く柔軟で手足を伸ばした後、再び【護りの乙女】の礼装に着替えたミライクは、身軽にジャンプしてリズムを取ります。


 二人が相対しながら、中央まで歩み寄るとチャップマン翁が恭しく礼をしながら二人の間に割り込み、


 「では、双方とも名に恥じぬ戦いを心掛けてくだされ……」


 そう言って互いの拳を触れ合わせた後、舞台から降り、


 「……それでは、始めぃ!!」


 開始の合図を告げました!!


 「……力較べ、してみない?」


 ミライクこと郁美が、対峙するジレッテーナを挑発するように両手を掲げ、指先を開閉させながら、呟きます。


 「……後悔しても、知らんよ?」


 ジレッテーナは彼女の意図を察し、応じながらゆっくりと指先を近付けます。無論、【身体強化】の術式を発動させながら。


 じり、じり……と互いの指先が近付き、触れんばかりの距離まで到達した瞬間、


 がっし!! と双方の掌が組まれ、固く握り締め合います。


 ぎりぎり……と音が鳴りそうな程、各々の指が絡み合い、手の甲に向かって五指の先端が食い込み……やがて、互いの指先の色は血の気が薄まり、真っ白になる程の力較べが続きます。


 (……化け物め! 只の筋肉の力だけで……私と対等だと……?)


 ジレッテーナはミライクの力の底知れなさに驚愕し、歯を食い縛ります。


 (……【身体強化】か……確かに、強い……)


 ミライクこと郁美も、純粋な力と力のぶつかり合いを経て、ジレッテーナの腕力に舌を巻きます。しかし……その均衡はやがて、



 「なっ!? ば、バカな……っ!!」


 頭の上で組み合わされていた掌が、次第に側方へと開き、更に畳み込まれるように狭められていったのは……ジレッテーナの方。


 「……筋トレ……の、底力を……ナメるなよ……おおおぉっ!!」


 がしっ、と肘が脇まで付く程に畳み込まれたジレッテーナは、怒声を上げながら全身の筋力を総動員して締め上げて来るミライクの膂力に、


 「……そっちこそ……ナメるな、チビがあああああぁっ!!」


 遂に限界を迎え、力較べから脱する為に頭を反らせ、一気に振り込みます!!


 ……がつっ!! と、鈍い音が響き、頭突きを応酬して逃れようとしたジレッテーナでしたが……額から血を流してフラリと仰け反ったのは、ジレッテーナの方でした。


 「……バーカ!! 素人が……プロレスを……ナメるなっ!!」


 ミライクは叫びながら、お返しとばかりに頭を反らせ、同じように頭突きをしようと構えましたが、


 ぎゅっ、と足元を踏み締めたジレッテーナは瞬時に跳び、辛くも反撃の頭突きから逃れました。しかし、頭の一撃から逃れた筈の彼女のこめかみから、一筋の血が流れポタリと落ちます。


 「……暗器を仕込んでやがったのか? 汚い手を……」


 距離を取りながら、ジレッテーナは吐き捨てますが、


 「へっへぇ~♪ こーゆー時の為にプロってのは色々と準備しとくんだよ」


 ミライクが薄笑いしながら頭を振ると、カランと金属音を鳴らしながら、額の縁から地面に小さなコインのような物が落ちました。


 「……瓶の栓、か……いつの間に!!」


 「さぁねぇ? そんなもん、どこにあるのかな?」


 ミライクは両手の掌を軽く上げながら、小馬鹿にするように足を振り、栓を蹴り跳ばして舞台から落としてしまいます。


 「いいか? 反則ってのは……見つからなきゃあ、反則になんねぇんだぜ?」


 証拠隠滅しながら、ミライクは首をコキコキと鳴らしつつ、ジレッテーナに向かって手招きします。


 「さぁ、素人がプロレスラーと遊んで貰えるんだぜ? その気になって、立ち向かってきなよ?」


 「……騎士を愚弄するとは……只の脳筋と侮った私も悪いが、もう引き返せんぞ!!」



 互いの言葉が引き金となり、牽制も何も無いような乱打の応酬が始まりました。





次回も宜しくです!

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