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11ラウンド目・似た者同士。

今日も更新……書き貯め分、消滅!



 ヤンデルナが屋敷に現れてから、一週間が過ぎました。


 【……彼は、この国の中で最も稀少で、最も扱い難い存在。たぶん、世界で唯一の【退魔】の素質を持った者よ】


 彼女が残した意味深な単語の中で、一番郁美が気になったのは【退魔】の素質、という言葉でした。


 ま、この世界に来たばかりの彼女には、ぜーんぜん判らない言葉でしたので、そのうちチャップマン翁に聞けば判るかな~、位にしか考えていませんが。


 それよりも気になるのは、ヤンデルナが【護りの乙女】の候補の一人であり、自分以外にも候補者が存在したという事実でした。郁美は暫く考えて、結論を出しました。


 (……それってつまり……デスマッチって事かな?)


 ……かなり違うけど。




 まあ、どうせ全員ぶっ倒せば完結するんですから、悩んだって仕方ないのです。バーンって殴ってグギッと極めちゃえば終わり終わり!! さ、そろそろ次の相手がやってくるよ?


 「ミライクお嬢様、お客様が参られました……」


 小柄なミライクより、少し背の低い色黒な侍女のカルナが、静かに扉を開けながら報告しにやって来ました……が、


 「あー、お客さん? ちょっと待って……」


 グンッ、グンッ、と大きな鉄の塊を棒で繋げた重りを両手に持ち、はち切れそうな二の腕を更に力ませながら、ミライクがカルナを出迎えました。ただ、何と言えばよいのか……


 「……お嬢様、器用で御座いますね……」


 「……そぉ? まあ、バランス取るのにコツはあるけど……」


 ミライクは肩幅位の板の上に乗り、その板の下に円柱状のパイプが有りまして……その上でバランスを取りながら、左右の重りを交互に上げ下げしています。腕の筋肉と同時に体幹が鍛えられて……って、欲張り過ぎでしょ?


 「……よっと! さて、お客さんにはちょっと待ってって、言ってきて。流石に汗位は拭きたいからねぇ」


 ミライクは不安定な板の上から軽々と降り立ち、両手に持った重りをごどん、と下に置きました。ずっしりとした重りが、床の上に敷かれた板をぎしりと鳴らしながらめり込みます。


 (……お嬢様ったら、どれだけ鍛えたら【完了!!】ってなるのかしら……)


 カルナは心の中で呟きながら、仕舞われていたタオルをミライクに手渡すと、彼女は受け取りながら尋ねます。


 「ねぇ、そのお客さんって、どーゆーヒト?」


 「お客様ですか? ハラグローリィ家のジレッテーナ様で御座います」




 通された応接間で、ミライクはジレッテーナという娘と顔を合わせました。見た感じの印象は……ヤンデルナが鍛えられて髪型を変えてイメチェンした感じ、って所でしょうか。短く編んだ髪の毛はコンパクトに纏められ、キリッとした顔立ちに鋭い眼光。一目見た瞬間、ミライクこと郁美は悟りました。


 (……ご同業、って感じかな?)


 「……アポ無しでお邪魔して悪かったね。妹のヤンデルナが世話になったって聞いたから、後れ馳せながら挨拶にって、思ってさ」


 ジレッテーナはソファから立ち上がると、ややハスキーな低い声でそう言いながら、ミライクの姿をじっと見つめた後、静かに告げたのです。



 「……で、準備は出来てるのかい? 【護りの乙女】さん」





 前回の対決はあっという間に広まっていて、また何か始まらないかと野次馬がお屋敷の周囲をうろついていましたが、流石に警備された門をくぐり抜けて中に入る不埒者は居ないようです。


 「まあ、流石に公衆の面前で見世物するつもりは無いけど……此処でやるのかい?」


 ジレッテーナは白い舞台の端に取り付き、アルフロート家の召し使い達が見守る姿を一瞥しましたが、


 「……で、なんだいこりゃ?」


 彼女は舞台の四隅に立てられた支柱と、その支柱からぐるりと回された三本のロープを眺め、手を伸ばしてロープを掴んでみました。


 そのロープは意外にも弾力があり、彼女が体重を掛けると若干伸縮しながら元の長さに戻ります。


 「見ての通り、コーナーポストとロープだよ?」


 「そうじゃなくて、何の為に付けたのかって意味さ」


 郁美にとって、玄関に扉を、風呂場に蛇口を付けるのと同じ位に当たり前の事でしたが、ジレッテーナには必要性が感じられません。


 「まー、いいか。舞台に穴掘ったりしてなけりゃ、別に構わないし」


 しかし、ジレッテーナはそう言うと、着ていた上着を脱ぎ捨てながら舞台の(そで)に載り、ロープを飛び越して中へとやって来ました。


 ジレッテーナは乗馬服に似た格好にブーツ。動き易そうな姿のまま、舞台の中央まで進みます。ミライクは今回、前に着た【護りの乙女】のレオタードは身に付けず、多少生地の厚めなシャツとショートパンツ姿。


 「それじゃあ、始めようか。ルールは知ってるだろう?」


 「……舞台から落ちるか、敗けを認めたら終わりでしょ?」


 それで合ってるよ、と言いつつジレッテーナが構えます。


 「じゃあ、始めようか……」

 「いーわよ、いつでもね」


 今回も見届け人のチャップマン翁が舞台の下から見上げつつ、宣言しました。


 「……双方、名に恥じぬ戦いをしてくだされ。では……始め!」


 ぐんっ、と勢い良く飛び出したミライクは、悠然と立つジレッテーナの姿を捉えつつ、遠慮せず跳躍し両足を揃えて飛び込みます!!


 「どおおぉりゃあああぁーッ!!」


 綺麗に両足が伸び切ったドロップキックが、ジレッテーナ目掛けて放たれます!


 「……ふんっ!!」


 が、しかし迎え撃つ側のジレッテーナは、交差させた両腕で受け止めるとそのままの姿勢で耐え、弾き返しました!!


 「ちっ! ならば……ぶっ倒す!!」


 ミライクこと郁美は宙返りしながら着地し、そのまま立ち上がりながら前転し、浴びせ蹴りに変化!!


 ジレッテーナはまたも両腕を交差させて頭上から降り下ろされる踵を受け止めながら、ミライクの動きに注視しつつ再び押し返しました。


 「力は有るみたいだね……でも、それだけじゃあ……勝てないねっ!!」


 距離を取ったジレッテーナは、不意に身体の周りから陽炎のような揺らぎを湧き立たせ、見覚えのある紋様を足元から発しました!


 「お嬢様っ!! それは【身体強化】の術式ですぞぃ!! お気をつけなされぇ!!」


 思わずチャップマン翁がミライクに忠告しますが、本人は気にしてません。


 「どーせ、速くなったり強くなったりするんだろ? まあ、頑張って欲しいよね~♪」


 対するジレッテーナは、自らに施した【身体強化】に絶対的な自信を持っていた。若くして近衛兵筆頭騎士の地位に着き、数々の武勲も勝ち得て来たのです。


 「じゃあ、こっちから行くとするか……ッ!!」


 だんっ、と足場を蹴って突進し、あっという間に間合いを詰めたジレッテーナは、ミライクとの至近距離に到達すると、渾身の力で……


 「うにゃっ!?」

 「なんとっ!?」


 二人同時に躓いたのだけど、理由は一目瞭然。舞台の中心が波打ち、ぐにゃりと窪んでしまっていたのです。


 「あー、期限切れか……一週間位で舞台は形が崩れるらしいからな」


 ジレッテーナはそう言うと、ひとまず仕切り直ししないか? とミライクに持ち掛けて、彼女も同意しました。


 一週間後、再び拳を交える約束をし、二人は判れたのです。





 

それではまた次回も宜しくです!

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