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10ラウンド目・自宅警備ロボ?

十話越えましたが、通常営業。



 ミライクこと郁美にとって、庭の真ん中に鎮座している機甲猟兵(ゲパンツァード・イェーガー)は、岩灯籠(いわとうろう)と同じであった。


 わざわざ移動させる必要も無く、かといって急ぎ使う必要もない、まさに岩灯籠。ちなみに岩灯籠はよくお金持ちの家の庭に置いてある、石で出来たアレである。雪が降った際、情緒を求めてロウソクを入れて灯すか、力持ちな犯人が犠牲者を殴打する鈍器として使うか、の二択な存在。


 (……初めて動かせた時は興奮したけれど、庭の中を動かしても芝生が傷むだけだし)


 朝食の蒸した鶏ササミに塩を振ってから、刻んだ香草を散らして口へ入れて、良く噛み締めながら、郁美は何となく気になって窓の外の機甲猟兵を眺めていた。


 ……もきゅ、もきゅ、もきゅ。蒸しただけの鶏ササミは、ホタテの貝柱に似た食感。じゃあ、ホタテの貝柱は鶏ササミと同じかと言われれば、少しは似ているだろうけど。だったら鶏ササミに飽きたらホタテの貝柱を食べればいいよね。絶対にホタテの貝柱の方が美味しいし……でも、この世界にはホタテの貝柱は、たぶん無い。正確にはホタテ貝が居なくて、似たような貝を養殖して売っている人が居ない、って感じだよね。




 (……じゃあ、似たような貝を集めて養殖したら……儲かるんじゃない?)


 いや、確かにそーだけど、この話は悪役女子レスラーが転生して戦うお話だからね? 今から急に金儲けに奔走して、札束で相手をひっぱたくようなお話にはしないよ?




 (……ホタテの貝柱、食べたいなぁ……)


 そーそー、そんな感じの君が一番なんだ。大人しく鶏ササミ食べながら、ホタテの貝柱の事だけを考えてちょーだい。


 「うーん、一先ず……じぃやに相談してみるか」





 ミライクは朝食を食べ終えた後、じぃやことチャップマン翁に会って話をするべく彼を探した。勿論、すぐに見つかったのだけど、


 「ねぇ、じぃや。この近くで美味しい貝を食べられるお店って有る?」


 ……何か違っている気がする。


 「ふむぅ、貝を食べられるお店、ですかのぅ……河シジミが旨い店ならお屋敷から北の山が有る方に向かって……」


 ……何か違っている気がする。



 ミライクこと郁美は、聞くだけ聞いてはみたものの、シジミとホタテでは雲泥の差。流石に出向く気も湧きません。やっぱり海の方が出会える確率も高い気がします。だったら直接出向いてみる方が良いのかも。


 そう思った郁美は、ジョギングがてら出てみようとしましたが、一人で出歩けるような立場じゃありません。


 【ねぇ、じぃや。軽く海まで走ってきたい】


 【成る程、判りもうした。それではアインとツヴァイ、お供して参れ】


 あー、きっとお付きの人が二人は付いてきますね。まるで某長時間マラソンです。最後は中庭を一周してから感動のゴールインですねぇ。


 ……ふと、郁美の視線が窓辺を捉え、その視線は駐騎されている機甲猟兵へと移りました。




 「ねぇ、じぃや。しゃ……あのロボットって、どの位まで動いて行けるの?」


 まだ【しゃくれ丸】と呼ぶのは早い気がした郁美は、チャップマン翁に移動可能距離を尋ねました。


 「ろぼ……ああ、【機甲猟兵(ゲパンツァード・イェーガー)】ですかのぅ? あれはお屋敷の周りまでしか動けんのじゃ」


 「げっ!? そ、それじゃエヴ○以下じゃん!!」


 流石にコンセント差して電動で動いている訳ではないでしょうが、機甲猟兵の原動力はズバリ【魔力】だそうで。


 詳細は省きますが、機甲猟兵は電池みたいな場所に魔力を蓄えて動く仕組みだそうで、その電池みたいな場所は機体の中に少ししか無く、それより多い貯蔵量を求める時は、外部に溜めた魔力を小まめに供給しなければいけないとか。


 そうした貯蔵タンクみたいな物がお屋敷の庭の下に有って、それから魔力を供給されているから、機甲猟兵は二十四時間いつでも動かせるけど……お屋敷から一歩でも離れれば、外出怖い系な引きこもニート状態になるそうだ。


 「何だか強そうなのに、スゴく勿体無いなぁ……」


 「ふむ、ミライク様。もし機甲猟兵で稽古がしたいなら、城の近衛兵鍛錬場まで運べば出来ますぞぃ?」


 ミライクはそれを聞いて、ホタテの事はすっかり忘れ去ってチャップマン翁にお願いする事にしました。




 「……で、ミライク君。どーして僕まで連れて来られたのか全然判らないんだけど…」


 ここはお城の傍に在る、近衛兵駐屯地。


 その広大な敷地の傍らで、ヤレンナー君がミライクに訊ねます。そりゃそうだわな。


 「……流れ的に?」


 さらりと当然のように告げながら、ミライクこと郁美は運ばれて鎮座している【しゃくれ丸】の足元で操作盤を介していつものように搭乗準備を始めます。


 ヤレンナー君は、専用の運搬機(牛より早く人より遅い乗り物)で運び出されようとしていた【しゃくれ丸】に気付き、何事かと見に来た所をミライクに拉致されました。


 「そうだったのか……って、流れって何?」


 「うーん、そうだなぁ……曲げない意思とかと同じじゃないかな」


 本当に適当に答えながら、【しゃくれ丸】の昇降ハッチに飛び乗ったミライクは、勿論手を伸ばしてヤレンナー君を促します。


 「さ、早く乗って! 今日は今までとは違う【しゃくれ丸】の姿を御披露目するわよ♪」


 「うん、全然見たくない」


 男子たるもの、一度は抵抗するのも作法の内。ヤレンナー君もそうして背中を見せましたが襟首を掴まれ、哀れそのまま騎乗の人に。


 「うええぇ……やっぱり降ろしてぇーっ!!」


 嬉しそうに微笑みながら(郁美の脳内変換図)ヤレンナー君はミライクと共に【しゃくれ丸】の中に消えていきました。合掌。




 武器を持たぬ【機甲猟兵(ゲパンツァード・イェーガー)】が取るべき戦法は二つ。


 「どおおぉりゃあああぁーっ!!」


 ミライクの雄叫びと共に走り出した機甲猟兵が、目標の模擬猟兵(細い棒の先に付けられた標的)目掛けて体当たり。


 バラバラに崩れ去る模擬猟兵の破片を撒き散らしながら、続けて隣に置かれた標的に、


 「ふんぬうぅーっ!!」


 機体の軸を中心にしながらしゃがみ込み、立ち上がる勢いを乗せながら最もリーチの長い腕先を突き出して、標的の真ん中目掛けて拳に付けられた近接棘(スパイク)をぶち当てます。


 ごぱっ、という破裂音と共に模擬猟兵の頭部辺りが粉々に砕け、見物人の近衛兵達からどよめきが上がりました。


 「あれで素人なのかよ……」

 「いや、この前【護りの乙女】のヤンデルナ嬢を叩きのめしたらしい」

 「げっ!? じ、じゃあ……鬼みてぇな巨漢……いや巨乙女ってのか?」

 「さあ……判らんが、きっと凄い奴なんだろうな……」


 口々に囁き合いながら、まだ見ぬ搭乗者の姿を予測していた彼等でしたが……



 開いたハッチから、転がり出るようにしながらゲーゲーと嘔吐するヤレンナー君の姿を見た彼等は、一瞬固まります。


 (((……えっ? アイツが動かしてたのッ!?)))


 だがしかし、そのすぐ後に現れたミライクの姿は、白いタンクトップにショートパンツ。すらりとした手足ながら無駄な肉の無い均整の取れた肢体。そして少しだけ鋭い目元や顎のライン以外は、見るものを虜にしかねない調和の取れた美貌……で、金髪のショートカット。


 (((えええええぇーっ!? あの娘がああぁーっ!!?)))


 近衛兵達の間に、動揺と困惑、ついでにミライクの正体を知りたがる動きが即座に伝播し、兵団が始まって以来の大騒ぎ。我も我もと一目見ようと集まり出す男達の姿に、ミライクは軽いデジャブェを感じて走り出した。


 即座に動き出したミライクに男達は何事かと身構えたが、軽く手を挙げて近寄る姿に、手を合わせてくれるのかと胸を高鳴らせたのだが……


 「おりゃああぁーっ!! 闘魂注○ぅーーッ!!」


 びったぁーーんッ!! 「イブンカァッ!!」


 ばっちぃーーんッ!! 「カランバッ!!」


 軽く腰を捻って溜めを作り、背筋や腹筋全ての筋力をフル活用した重量感に溢れる一撃を繰り出す度に、鍛えられた肉体の男達が軽く浮き、奇妙な叫び声を上げながら次々と崩れ落ちていった。



 吐く物も無くなったヤレンナーがふと気がついた時には、粗方の男達を張り倒したミライクが鍛錬場の傍らで仁王立ちしていた……。




次回もよろしくです!

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