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[外伝]羽月家の姉弟 ~1日だけの恋人~

本編とは別の平行世界であったお話です。

本編3章である人物が語った出来事の詳細です。

羽月家の姉弟


~たった半日の恋人~




・家出




 俺の家は俗に言う金持ちで、俺の人生はすべて決められていた。


 自分の好きな事、やりたいこともままならい。


 だから、俺は両親への大きな反抗を決意した。


 それは、内緒で美大を受験すること。結果、合格した。


 そして、高校の卒業式の日と同時に姉さんがいない日に両親に家を出ると伝えた。




 俺は緊張しながら、厳格な父に話しかけた。


「父さん、話があります」


「なんだ」


 いつも通り、あまり機嫌がいいようには見えない。


「俺はこの家を出ます。勘当してくれてもかまいません」


 わずかな空白をはさみ父は、


「ふ、ふざけるな、そんなことは許さん。お前は私の跡取りなのだぞ。大体、大学はどうする気だ」


 俺の淡白な声とは正反対な父の大きな怒鳴り声が家中に響いた。


「あなたたちに内緒で自分のやりたいことが出来る大学に合格しました。学費は自分で何とかします」


 強気で言っているが、内心は初めて目の当たりにしている父の形相と怒声に怯えていた。


「…好きにしろ。そのかわり、私が生きている間は二度とこの家に入れない、生活援助もしないからな」


 父は部下を突き放すような言い方で俺を突き放した。


「当然です、もう、準備は出来ているから行きます。お世話になりました」


 社交辞令のような文句を並べ一礼をした。


 こんな短いやり取りのあと、俺は唯一の気がかりである、姉さんのことに後ろ髪を引かれながら家を出た。




 声にならない声で姉さんに謝りながら。




 後で聞いた話だが、両親は俺の決心を知っていたから大きな反対はせず、さっさと追い出したらしい。








1.朝




「う…ん」


 午前7時。


 嫌な夢で目覚め、今日1日はろくでもない日だと思った。


 今、大学は夏休み。しかも今日はバイトがないから1日寝ていようと思っていたのに、あの夢――家を出るときの夢――を見たら、もう一度眠る気にはなれなかった。


 この1年で変わったことといえば、気の会う友人とメル友が出来たのと、暮らす事の大変さとやりがいがわかったことが大きい。


 昨日はメル友とのメールの途中で寝てしまったんだった。来ていたメールは、




――へぇ、そんな所に住んでんだ。うちからは結構遠いなー。夏休み中にでも行くかな。そっちについたら、一日恋人やってもらうからね。




 そっか、住所教えたんだったな。返信文は、




――昨日は寝ちまった。すまん。恋人というのは突っ込みを入れたほうがいいのか?まぁ、来るなら連絡くれ。




 送信。


 さて、飯でも作るか。




 そんなこんなで朝食後洗濯をやったら9時近くになっていた。


 一息つこうとテレビをつけ、ニュースを見始めると、


 ピンポーン。


 だれだ?


 こんな時間にたずねる健康的な友人はいないはずだし、新聞とかの勧誘にしても早い気がする。少し考えてると、


 ピンピンピンピンピンピンピンポーン、ピンゴンピンピンゴンゴンゴンピンピピゴゴゴピピンポーン。


 ひでぇ。


 借金取りとかヤクザとかだと思い急いでドアに向かい恐る恐る見てみた。


 そこにいたのはそれよりたちの悪いもの。


 けど何より、誰より会いたかった人がいた。




 蛍姉さん。




「な…んで」


 俺の口は勝手に動き、手はドアを開けていた。


 姉さんは1年前より女性としての美しさに磨きがかかっていて、誰が見ても美人というような美しさだった。


 しかし、その美人がさっきのヤクザまがいなノックをして、そして第一声が、


「こっっっっっの、馬鹿愚弟がぁ」


 怒鳴られた。


 美人?美しさに磨きがかかった?前言撤回。昔のお転婆のまま、いや、お転婆より恐ろしくなった姉さんだった。


 呆然としていると、隣の住民のドアが開きそうになったので、回転が鈍い状態の頭で姉さんを急いで部屋に押し込んだ。


 急な来客に対応していない部屋は絵の具や、キャンパスなどが置いてあって、人が二人いるだけで狭かった。


 まだ自体が把握できていないのと急な来客で正常に頭が動いてない俺に向かって姉さんが、


「やっと、あんたが住所教えたから急いできたよ」


 は?ちょっとまて。


「俺姉さんと連絡を取った記憶がないんだけど」


 姉さんは大きな胸をはって


「ふっふっふ、気付いてなかったようね。私は1年位あなたと連絡取り合ってたわよ」


 寒気がした。


「もしかしなくても、もしかして」


 背中にだらだらと冷や汗が流れるのを感じながら姉さんを見ると、


「ピンポーン、君のメル友はあたしだよぉ」


 親指をグッと出して満面の笑顔で言った。


 突っ込む気力もなくした。


「ちょっと、何黙ってんのよ。最愛の姉が訪ねてきたんだからもてなしなさいよ」


 完璧女王様主義の姉さんに皮肉をこめて、


「えー、つまり、俺の住所を聞いてすぐに飛び出してきて、まだ朝食をたべてないから食い物出せって言う意味でいいのか」


「むっ、生意気な言い方ね」


「皮肉を込めてんだよ。はぁ、ちょっとまっとれ」


 盛大なため息をつきながら台所に向かった。


「早くて、安くて、うまいのね」


 ガサゴソガサゴソ。


「金とんないし、うちは某牛丼屋じゃねぇし、部屋の中を勝手にあさるな」


 ほんとにツッコミ満載な姉だ。


 ガサゴソガサゴソ。


「はぁ」


 あさるのやめないし。


 ため息をつきながら料理をしてると


「あーーー」


 姉さんうるさい。


「うるさい」


「あーーーーー」


 さっきより、


「うっせえ」


 背後から、


「変態、シスコン」


「何言ってんじゃ」


 良い具合でクルリと回転して突っ込みを入れた。


 が、


「あっ」


 やばい。


 姉さんの手の中には写真たて。中身はもちろん、


「あんた、いくらあたしが美人で気立てが良くて、とっつきやすいからって恋愛対象にしちゃいかんよ。いいかい、日本の法律では三親等以内とは子作りと結婚はいけないのよ」


 やばい。


 ここはなんとしてもごまかす。思考をフル回転しながら、


「こ、こらこら、なにを想像してるんだ。学校の課題で人物画を描いてんの。そこに架かってるのを見てみろ」


「あら、ほんとだ。つまんないの。でもなんであたしなの?」


 そうきたか。


「昔から見てて書きやすかったから」


「ほんとにそれだけぇ。例えば、禁じられた恋だから絵の中でだけでも独り占めしてあんなことやこんなことしてるんじゃないの」


 エロ親父みたいな顔をしている姉さんの頭を軽く菜箸でたたきながら、


「してねぇ」「あいた」


「まったく、積もる話は後でするからおとなしくまっとれ。いいか、おとなしくだぞ。意味はわかるか?」


「落ち着いていて物静か」


「わかればよろしい」


「ちっ」


 すごすごと姉さんが部屋に戻っていくのを見て少し残念に思った。


 それから、姉さんは散々飯に文句を言いながら食って茶を請求してきた。




 時間は10時半頃。


 姉さん乱入から1時間半が過ぎていた。


「さて、何から話そうか」


 突っ込み満載な姉さんはのん気に茶をすすって朝のワイドショーを見ている。


「うーん、そうねぇ、あっ、そうそう、あんた父さんにはここの場所とっくにばれてるわよ」


「やっぱり」


 ある程度予想通りだったから余り驚きはしなかった。


 なんたって、親父の会社は国でもトップクラスの収入だ。ガキの一人ぐらい簡単に見つけられるとは思っていた。


 とゆうことは、


「姉さん、もちろん家出みたいにここに来たのかな?」


「もち」


 さも当然と言いたげにデカイ胸まではりやがった。


「でも平気よ、地方に仕事があって、そのまま来たから、暫くは気づかないわ。今日はもともと休みだし、ビジネスホテルに泊まるって言ってあるからさ。それより、あんた今日は私の恋人だからね」


 いきなり、夜のメールに話を変えやがった。


「それは恋人と書いて観光案内係と読むんですか?」


 少し驚いた顔をしたように見えたが姉さんは満面の笑みで、


「ううん、恋人と書いて奴隷と読むわ」


 まじですか?さよなら、俺の平穏な休日。


「まぁ、案内はもうちょっと朝食を消化してからでいいから、あんたの1年を聞かせてよ」


 あぁ、今日1日は姉さんの言いなりかと、思いながら話し始める。


「そうだな、元から大学近くのここを借りてたから、路頭に迷わないですぐにここに来たね。そんで、春休みの間は1日中バイトして金稼いで、余裕があったら絵を描いてたな」


 お茶を口に含んで、一息ついてまた話し出した。


「学校が始まってからは―――」




「こんなところかな」


 気付いたら1時間以上話していた。


 姉さんは興味津々な顔で、時折質問しながら静かに聴いていてくれた。


「つらかったり、しんどかったりしたけど、やりがいもあるし、自分の力をメインで生きるのは本当に生きてる気がしたな」


 まるで、ドラマのように綺麗に話をまとめた。


 けど、姉さんはそのセリフにまで感動したらしく、


「いいな、私にはそれが出来なかったから尊敬するよ」


 今も、両親の会社で働いている姉さんの尊敬の念がこめられている目に見つめられ、赤くなったと思われる自分の顔をそらして、


「お、お茶のお代わりいるか?」


「もう、人がせっかく褒めてるのに。今度は紅茶ね」


「はいよっと」


 話をそらして台所に新しいお茶を入れに向かった。


 紅茶を入れている間、姉さんはのん気な昼のバラエティをみて爆笑してた。


 部屋に戻るときには昼のニュースがやっていて姉さんは興味のなさそうに机に突っ伏していた。


 が、最近話題になっている逃眠病とうみんびょうについてアナウンサーが喋りだしたとたんガバッとおきて食い入るように見だした。


 不思議に思い、


「どうした、姉さん」


 姉さんはハッとした顔で、


「う、ううん。その、母さんが逃眠病の疑いがあるから気になって」


「本当か?」


「うん」


 確かに、勘当された身だが、両親のことは心配になる。それに、逃民病は感染する疑いもあるって聞いていたから、姉さんのことも心配だ。


「そっか、何も出来ないけど、治るように祈りはするよ」


「うん、ありがと」


 ちょっと辛気臭くなってきたな。どうしようか。


 なるべく明るい声で、


「姉さん、これからどうする」


「そうね、この辺案内してよ」


 やっぱり、そうなるのかと思いながらも、姉さんとのデートで心が躍った。


「今日の夜花火があるからそれまではこの辺ふらふらしようか」


「うん、じゃあ、早くいこ。下に車置いてあるからさ」


「りょーかいっと」


 と、言うと姉さんは急に


「待って、せっかくのデートなんだから待ち合わせからしようよ」


「はっ?」


 多分俺は目が点だろう。


「だから待ち合わせ、ここから近い駅で待ち合わせね」


「い、良いけど場所わかるのか」


「車だからあんたより早いから探しながら行く」


「ん、わかった。また後でな」


「はーい」


 姉さんはさっさと立ち上がって部屋を出て行った。


 少しして、ブルルルルルルンンン。とすごいエンジン音が聞こえてきて、


「あの馬鹿姉、かっ飛ばしていきやがった」


 と、つぶやいた。




 この時12時25分。








2.昼




 俺もさっさと部屋に出て最寄の駅に向かった。


 ゆっくり歩いて15分もかからない場所で待ちあわせなんて意味がわからない。女心は


 複雑だとしみじみ思って歩いていった。


 駅に着くと姉さんは車に寄りかかって待っていた。


 こっちを見て笑顔になった姉さんに駆け寄って、


「お待たせ姉さん」


 と、言うと同時に、


 ゴス。


「グエ」


 腹を殴られた。


 どうして、と思い姉さんに顔を向けたら


「やりなおし、次の駅で待ってるからね」


 と、急に怒って線路の先を指差しながら、さっさと車に乗っていってしまった。


 取り残された俺は唖然とするしかなかった。




 それでも、惚れた弱みで次の駅まで走って向かった。


 次の駅は坂の上にあって、俺は息を切らしながら、何で姉さんが怒ったのかを考えながら必死に走っていた。


 そして、あることが思いあたった。




 今の俺と姉さんは姉弟ではなく、恋人なんだ。




 違うかもしれない、でもそれが正解なら俺は本当に無神経なやつだ。


 さっきより速度を上げて急で長い坂を必死になって走った。


 生まれて初めてかもしれないほど心臓はバクバクしてるし、息もゼハゼハ言ってる。


 それでも好きな女のために必死に走った。


 心の中で遅い青春だなと苦笑しながら走った。




 次の駅についたころには汗ビッショリで、しゃべれないほど息が切れてたけど、たった一言だけ姉さん、いや、蛍に伝えた。


「お待たせ蛍。ずいぶん待っただろ?」と。


 蛍は泣きそうな顔を一瞬だけ見せ、いつも通りの強気な笑顔で、


「遅い」


 と言いながら、汗だらけの俺に抱きついてきた。


「ちょ、ねえ―」


「また殴るわよ」


 俺が姉さんと言おうとしたら回りに聞こえないほどの小さく低い声で脅しかけてきた。


 俺は引きつった笑顔ながらも蛍と演技でも恋人関係になれるのが嬉しかった。


「さて、どこに案内してくれるの?」


 困った、この辺は案内するような立派な場所はないぞ。


 無言で考え込んでいると、


「ねえ、もしかして案内するところが思いつかないの?」


 図星をつかれ、


「ああ」


 としか返せなかった。


 後ろから盛大なため息と共に、


「しょうがない、これから花火まであてもなくふらふらしようか?」


「ごめんな、蛍」


 今度はしっかりと名前で呼んで謝った。


 蛍は満足な顔で、


「気にするな」


 と言ったあと、


「じゃあ、ありきたりだけど、ドライブしましょうか?」


 という意見に俺は、


「賛成」


 と、頷き、助手席に座った。




 それから少しして。


「なあ、蛍、法定速度って言葉知ってるか?」


「ん?知ってるよ。だって、教習所で習ったし」


 と、言いながら片田舎の山道を百キロ近い速さで走っている。道路には四十キロと書かれ、カーブの前には『速度落せ』の看板。


 けれど、蛍は鼻歌を歌いながら調子よく、ギューン、ブーンと車を走らせる。


「じゃあ、なんで、それに従わないのさ?」


「だって、早い方が楽しいじゃん。それに、センターラインを越えるようなへまはしないから安全でしょ?さらに、この辺警察居ないっぽいしね」


 即答だった。俺はがっくりと肩を落し、死なない事を祈りながら車に揺られるしかなかった。


 暫くして、見晴らしのいい高台に着いた。


「それにしても、本当に何も無いところね」


 蛍は感心してるのか、呆れてるのかわからない声で言った。


「落ち着いて話したりするならこういう場所の方がいいだろ?」


「あら、人気の無いところにきたから、もうそういう雰囲気?」


 蛍は相変わらずオヤジくさい事を言った。昼間の駅の出来事なんざもう嘘みたいだ。


「違うって、今度は蛍の一年を聞かせてくれよ」


「えー」


「えー、じゃない。そこの自販機でジュース買ってくるからそれまでに考えとけよ」


 俺は背を向け自販機にむかう


「ちょっと、すぐそこじゃない。考えられないって。あ、私紅茶」


 俺の背に声をかけ、俺は手を軽く挙げて了解の意を返した。


 後ろで何となくブツブツ言ってる蛍の姿を想像できるのはかなり面白かった。


 自分のコーヒーと蛍の紅茶の缶を持って戻ると、もう話す準備はできているようだった。


「じゃ、話すね。私はあんたも知っての通り、大学院卒業後に入った父さんの会社のレディスファッションの部署でこの一年間も同じ仕事をしてたわ」


 ………。


 ん?


「おわり?」


「うん。あんたが出てく前と大して変わった仕事してないもの」


 うわ、蛍って空気読めてないよ。せっかく、時間をつぶせるチャンスだったのに、一分もかからずに終わっちまった。


「そういえばさ、花火やるって事はお祭りじゃないの?」


 げっ、気付かれた。


「そ、そうだな…」


 ヤバイ、この流れは。


「じゃあ、こんな所でふらふらしてるよりそっちに行った方が楽しいんじゃない?」


 やっぱ、そうなるよな。学校の知り合いが沢山いるから避けてたんだけど。


「行きたいのか?」


「もち」


 あぁ、この流れは強制連行だ。


 しょうがない、腹をくくるか。




 それから、また絶叫マシーンに乗っているような運転で山を下り、祭りの会場につく頃には三時を過ぎていた。


 祭りの会場の中心には大きなやぐら。それを囲むような様々な屋台、そして、綺麗な浴衣を着た人、元気な子供、カップル、不良のように様々な人であふれていた。


「うっわー、アタシ、こういうの久しぶり~~~。感激だわ~~~」


 蛍は子供のように目を輝かせながら色んな屋台に目移りしていた。


 一方俺は、学校の知り合いがいないか挙動不審になっている。


「あっれー、四方じゃん?もしかして、隣のはいつも描いてる絵画の彼女?」


 あぁ、出会っちゃった。しかも、余計な事まで口走ってやがる。


「ん、ああ、蛍ってんだ」


「どーもー、蛍です。いつもうちのがお世話になってます。ところで、絵画の彼女ってなんです?」


 もう、しっかり蛍は質問してる。


「えっと、俺が説明してもいいのかな?」


 友人は俺をチラチラみながらそう聞いている。


 俺は潔く首を縦に振った。


「実はですね、四方って人物画の時に必ずある女性を描くんですよ。で、それがあなたにものすごく似てるんです。だから、うちの科の中じゃ絵画の彼女って呼んでるんです。今まで、四方に聞いても『俺の大事な人』ってしか教えてくれなかったですからね。会えて結構光栄ですよ」


 多分、俺は今ものすごく真っ赤だろう。何となく肌が暖かいのが分かるし、心臓もかなりドクドクいってる。


「では、邪魔すると悪いんで行きますね。四方、ガンバ」


 友人はそう言って去っていった。


 蛍は嬉しそうに微笑んでいる。そんな顔を見ると、(まっ、コレはコレでいっか)と思えるのは惚れた弱みだろう。


 なんて思っていると蛍は嬉しそうに、


「あんたがアタシの絵を描いてるのは家にある一枚だけじゃなかったんだ。何でいつもアタシなの?」


 俺は、覚悟を決してこう言った。


「お前が好きだからに決まってるだろ」


 蛍は嬉しそうに、


「うふふ、合格」


 と言って、照れたように足早で行ってしまった。


「本気…だったんだけどな」


 俺はそう呟いて蛍に追いついた。


「まてよ、ったく、迷子になるぞ」


 蛍は少し赤くなった顔で、


「ごめん、ごめん」


 と、言ったあと、本当に恋人みたいに腕を組んできた。


 顔には、(さっきの仕返しだ)みたいな色が浮かび、俺を困らせる作戦なんだろうが、俺はもう照れずに、蛍を受け入れていた。


 その態度にふてくされるかと思ったが、満足そうな笑みを浮かべて、


「お腹すいたー」


 と、言ってきた。


 その後、俺たちはカップルのように腕を組みながら屋台を回り、食べ物をつまんで、遊んで、常に笑いあいながら花火を見るために俺の部屋まで戻っていった。


 俺の部屋についたとき時計は午後七時を過ぎていた。








3.夜


「へえ、この窓から花火が見えるんだ?」


「ああ、結構綺麗だぞ」


 蛍は窓の正面に陣を取り花火が始まるのを今か今かと待ち構えている。


 対して俺は、軽食と飲み物の準備をして花火を待ちながら、今日の事について考える。


(もう、蛍が来襲して半日近く立つのか…。蛍とこんなにはしゃいだのなんて久しぶりだな。なんつーか、昔と全然変わってなくて、楽しかった。わがまま言えばここで一緒に暮らしたいけど、親父たちと争って勝てるわけない。この、僅かな時間だけは精一杯楽しもう)


「おーい、そろそろ始まるんじゃない?」


 考え事にふけっていると、時計は八時を指すところだった。


 俺は蛍の前にあるテーブルに軽食と飲み物をおいて、自分は蛍の隣に座った。




 ドーン。




 こうして、花火が始まった。


 何の変哲もない花火。どこの祭りでも見かけるような量産的な風景。感慨深いものがあるわけじゃない。


 それでも、蛍と見れる景色ってだけで特別だった。


 しばらくして、花火を見ながら蛍が口を開いた。


俺はこれが、一日の最後のイベントになるような気がしていた


「ねえ、迷惑じゃなかった?」


 いまさら何をと思ったが、本音をぶつけていく。


「蛍は大切な人が久しぶりに現れたのを迷惑だって感じたり、仮に感じたとしても、本気で迷惑だと感じた相手に朝から晩まで付き合うか?」


「…もう演技しなくてもいいんだよ。今日は嬉しかった。いくつか無理やり作ってるような場所もあったけど、本当に楽しかったよ」


 うっすらと、はかない笑顔を見せる蛍。


 さっきの言葉は演技だと思われたらしい。確かに演技っぽいセリフだった。


 俺は一回深呼吸して言葉を吐き出す。


「あー、もう、わかったよ、カッコなんてつけてらんねー。いいか、ちゃんと聞けよ」


「う、うん」


 蛍は目をパチクリさせて頷いた。


「俺は羽月蛍の事を愛してるんだよ。世間一般では姉弟の関係だけど関係ない。俺は蛍が好きなんだ」


 俺は顔を真っ赤にしながら、本当の思いをぶつけた。二十年間ため続けていた思いをぶつけた。


「あ、ははは、本当に演技しなくていいんだよ?」


 蛍は波駄目になりながらも、まだ信じない。


 もう実力行使だ。


 ガバッ。


 俺は抱きしめた。力いっぱい抱きしめた。


「まだ疑うのか?」


 僅かな空白。


「…ううん。ありがとう」


 そういって、蛍も俺の背中に手を回してきた。


 それから、腰を下ろし、手を繋ぎ、何気ない会話をしながら花火を見ていた。


 この時が、この最高の時がずっと続くと信じて。




 そして、花火が終わった。


「花火、終わっちゃったね」


「ああ」


「…」


「…」


 静かだった。後十数分もすれば祭り帰りの人で少し騒がしくなるだろう。


 今はその静かな余韻に浸っていたかった。




 トゥルルルルルル。




 けど、一本の電話が全てを壊した。


「もしもし、羽月ですが」


「茶番は済んだか、若造」


 この声。


「親父」


 父の声が受話器から聞こえてきた。


「貴様に父と呼ばれる筋合いなどないわ。まったく、嫁入り前の娘を誑かしおって。これは立派な犯罪だぞ」


 この男は、ここに必ず来る。俺は電話を切り、急いで蛍と共に外に出ようとした。


 が、


「まったく、若造の考えている事ぐらいすぐに想像がつく」


 男はドアの前で両脇にSPを携え立っていた。


「くっ、どけ」


 俺のタックルごときに物おじしないSPは俺を床に這いつくばらせ、もう一人のSPが蛍を連れて行った。


「――、――」


「私が生きている間は決して蛍とは交流は持たせん」


 蛍は必死に俺の名前を呼ぶが俺は部屋に放り投げられ、意識が段々と途絶えていった。




つまり、俺は無力だった。




 こうして、俺と蛍のたった半日の関係は後悔しか残らないまま終わっていった。




 そして、次に蛍とあったのがあの男の葬儀のときだった。


 蛍は多分一生で一番綺麗な格好で俺の前に現れた。


 あの姿を忘れる事なんて一生出来ないだろう。








~そして、狂人へ~




 それから、一ヶ月しない内に羽月カンパニーが自己解散し、社員全員に退職金が払われ、残りの財産は羽月家の財産となる、と言うニュースが流れ、その一週間後くらいに母から手紙が来た。


 内容は、




――


お久しぶりです。この一年連絡もなく、この間の蛍の事もあの人に聞きました。


さて、本題ですが、ニュースを見ての通り、羽月カンパニーは解散しました。


 その理由は、社長の死です。あなたが出て行く少し前に悪性のガンが見つかりここまで生きてこれたのが奇跡でした。


 最後にあなたとケンカをしたのだって、自分が死んでも悲しまないようにする配慮だったのかもしれません。


 積もる話は、本家に戻ってからします。あの人が死んだ今、家の敷居をまたぐための制限はないので帰ってきてください。


 そして、せめて、線香のひとつでも上げてください。




 葬儀の日時は○月○日からなので、最低でも前日にはいてください。


――




「一年会わないだけで、ずいぶんよそよそしくなっちまったな」


 俺はポツリと呟き、早速帰省の準備をした。


 こう言っちゃ本当に親不孝者だけど、俺は蛍に会えるのが楽しみだった。だから急いで支度をし、その日のうちに実家に戻った。


そして、まだ、日は沈まないうちに実家に着いた。




「ただいま」


 珍しくお手伝いではなく、母さんが出てきた。


「お帰りなさい、早かったのね」


 そういえば、母さんは逃眠病にかかってるって聞いたな。


「ただいま、母さん、大丈夫?」


 母さんはキョトンとし、何が?と訪ねた。


「え?逃民病に罹ってるって聞いたんだけど」


 母さんは酷く悲しそうな顔をして。


「平気よ。さあ、父さんに顔を見せてきなさい。蛍もそこにいるわよ」


 俺は、少し思い足取りで仏間に向かった。


 部屋に入った瞬間、最悪なものを見た。




 部屋には二人いた。蛍と父さん。


 けど、両方とも、生きてなかった。


 隣どおしに並べられた棺の中で横になっていた。




「う…そだろ…」


 俺は床に崩れ落ちた。立てなかった。そんな力なんか出てこなかった。


 母さんは泣きながら、


「本当よ、あの人が亡くなる数時間前に蛍と話してたの。その後蛍は何かを決心してあなたのところへ向かった。けど、そこで悲劇は起こったの。さっき、四方は私が逃眠病じゃないかって言ったわね。逃眠病に罹っていたのは蛍よ。そして、こんな事は言いたくないけど、精神病としての観点から見ると、あなたが出て行ったのが原因だわ。」


 その言葉はさらに俺を叩きのめした。


「話がずれたわね。そして、蛍は交通事故に合って死亡したわ。相手ともども。原因は信号機のない十字路でどっちが悪いのかも分からない。」


 つまりはこうだ。


 蛍は俺のせいで逃眠病になり、俺に会いに行こうとして死んだ。


 そうだ、俺が殺したんだ。




 その後、母さんはこの事件がきっかけで逃眠病を発症し、目覚めなくなった。


俺は父の遺産を継ぎ、蛍と話したあの山を自分の土地にした。


そして、猛勉強をし、逃眠病の医者になった。


 様々な実験に近い医療。人々は俺の事を狂人と呼んで蔑んだ。




 後悔はしていない。


 地獄など、とうの昔に見ているのだから。



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