転生の炎
穏やかで優しく肌を撫でゆく風が温泉で温まった体に心地よい。
今年の厳しい暑さも移ろう季節の前に、抗いながらももう日暮れにはその猛威は振るえぬ時期になってきた。
長男であるホムラはその身に宿した寵愛ゆえに暑さにはめっぽう強い様だが、そのカラクリは見破ってしまえば微笑ましいものではある。
愛しい夫はそんなに暑かったか?と首を傾げているがそれは言わないでおこう。
今日という日も無事に終わりを迎えようとしているのが、何よりも嬉しい。
昨年生まれたばかりの双子たちにも体に障らぬようにと、そっと掛け布団を掛ける。まだ赤子もいいところではあるが、その容姿は私たちの生き写しのようにそっくりでとても愛おしい。
よく眠っている双子をそっと撫でて夫と長男がじゃれ合っているベッドの縁に腰掛ける。
「こら、だめでしょうホムラ。もう眠る時間なのだから暴れないの」
夫の袖を引き、ぶんぶんと振り回している長男の頭をポンポンと撫でつける。平時なら僅かに赤みを帯びた白い髪が、今は橙色の静かな明かりの下でも分かるほど赤みが強くなっている。
今日はあまり運動をしなかったから元気が有り余っているのだろう、既にその若き奔流は夫にはかなり厳しい様である。
「えぇ~!母様、俺まだ眠くないよ!」
影にありながらあたかも陽光の下であるかのように暖かな光を湛える美しい琥珀色の瞳を、優しく見つめながらその額に口付けをしてあやす様に頭と肩をポンポンと叩く。
「そうね、じゃあ今日は私がおばあさまから聞いた昔話をしてあげる。」
未知の展開にきょとんとする長男と少し残念なような、ほっとしたような夫にも薄い掛け布団を掛けつつ、私もその隣に落ち着いた。
「ホムラも持っている火にまつわるお話。私たちが生まれる前よりも、ずっと、ずぅーっと前の気高き火のお話。それは―――。」