第九話
「それで、今回はどうだった?」
唐突に真面目な表情になり、カイは山岳での任務の結果を気にする。
「四十七人だ」
リオンがこどもの数を端的に答えた。
「そうか。大人は……また全員殺したのか?」
「命令だからな」
迷わずリオンは頷く。
「積極的に助けてやれとは言わないが、逃げるものを、わざわざ斬らなくてもいいんじゃないか?」
釈然としない表情でカイはリオンを責めた。
「そうやって、逃したやつらが、またこどもを国中からさらっていく。賊徒どもは、剣を持っていなくても、市民にとって脅威なんだ。いや、剣を持った分かりやすい相手よりたちが悪い。兵たちが迷うからな」
リオンが持論を展開する。
「殺すんじゃなくて、守ればいい。警備の兵を増やせばいいだろう」
「そんな兵力がどこにある。国境沿いはともかく、内地の辺境の村まではとても兵を配備しきれないだろう」
親友といえる二人だが、この点での議論はいつも平行線をたどった。
イルマ山岳地帯にいたこどもは、帝国領土内からさらわれたものだという。賊徒は親を殺してさらったこどもを、自分の子として育てる。どうしてそのようなことをするのか分からないが、昔から続いてきた悪習らしい。
リオンはそんなこどもたちを奪還してきた。帝国の領土は広く、警戒の厳しい帝都ではなく、辺境の村が主に狙われるとのことだった。そのためリオンもどれだけの数のこどもがさらわれているのか、知る由はなかった。それでも一人でも多くのこどもを救うため剣をふるってきた。
保護されたこどもたちは、これからタリル養育寮と呼ばれる、軍の施設で育っていくことになる。矯正が可能なうちに保護しなければ、帝国で生まれたこどもたちが成長し賊徒となる。それだけは避けなければならなかった。
一定の歳を超えると、誘拐されたこどもは保護の対象から外れる。以前、保護した青年を同じようにタリル養育寮で育てたことがあった。その後、青年はタリル旅団の兵士として生きていたが、実は賊徒の密偵となっていた。襲撃情報を密かに賊徒へ伝え、山奥へと逃していた。その青年にとっては、帝国こそが、育ての親を殺した仇だったのだろう。それ以来、十歳をこえると賊徒としてみなし対処することになった。
「賊徒が全員消えれば、問題は解決する。やつらは広い山岳に散らばってしぶとく生き延びているから、根絶は難しいが。賊徒を減らすほど、より多くのこどもを救えるんだ」
それがリオンの変わらぬ信念だった。