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イスタニア戦記 -黒影の魔法剣士と白銀の女軍師-  作者: 梅木学
第1章:黒影の旅団長・リオン
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第八話

「噂をすれば、現れたぞ」

 リオンが指し示した先では、一人の大柄な男が立ってこちらを見ていた。


 男は、威厳ある赤の鎧を着て、背中には身の丈ほどもある大太刀を背負っている。赤い短髪は荒々しく天を向き、燃え盛る炎のようだ。ちょうど噂をされていた、タリル第三旅団の団長、カイだった。


 リオンとカイは幼少の頃からの仲だ。そのためリオンは、カイの赤い頭髪が、元はくすんだ茶髪で、旅団に入ってから律儀に団色に染め上げられたことも、よく知っていた。


「よう、今回は早い帰りだったな」

 カイは大きく腕を振って、リオンたちを迎え入れる。

「出迎えがいないと聞いてな、かわいそうに思って待っててやったんだ」

 恩着せがましく余計なことを付け加えた。

「いらんお世話だよ」

 リオンは心底迷惑そうな表情をする。


「俺が任務から戻る時なんかは、市民も団員も、大勢が城壁で迎えてくれるもんだけどな。人望の差、ってやつだな」

 カイが誇らしげに胸を張った。

「お前らは人気者じゃなくて便利屋扱いされているだけだ。仲良くしておけば、いざという時に、迷子の飼い猫を見つけてもらえるからな」

 皮肉で返し、リオンはカイの胸を軽く叩く。

「それでもいいさ。実際、この前も団員総出で、子猫を見つけて返してやったら、飼い主の女の子もすごく喜んでくれてな。軍人冥利につきるってもんだ。まあ、関係ない野良猫まで間違えてたくさん集めてしまって、飼ってくれる市民を探すのは一苦労だったけどな」

 当たり前のようにカイは言う。


 呆れてリオンは次の言葉を継ぐことができなかった。誇張された話だと思い冗談で言ったつもりだったが、どうやら本当の話であったらしい。カイは、軍人を何だと考えているのか。リオンの考えと大きくかけ離れていることは間違いなかった。


 赤熊の旅団として市民に親しまれる、タリル第三旅団は、確かに市民から絶大な人気を誇っている。豪快で気のいい団長の人柄に引っ張られ、団員もみな見事なお人好しに育っていた。市民は、黒の鎧を着た兵士を見ても声をかけることはほとんど無いが、赤の鎧を見かけると親しげに声かけ、売り物の果物を無料でやることもあった。


 軍も、タリル旅団に対する市民の印象を良くするために、赤熊の旅団の姿勢を良しとしていた。災害時の、近隣の街への救援といった任務を、優先的に赤熊に割り当てているようだった。カイの前任者は苛烈な男で、タリル第三旅団も以前は赤血の旅団などと呼ばれていたが、団長が変わってからは、評価も通称も変わっていた。


 帝都内の反乱分子の排除などなにかと恨みを買いやすい任務を与えられる黒影と、赤熊とは、真反対の存在だった。リオンなりの信念を貫いて今の旅団を築きあげたので、後悔はないが、カイに対し心の奥底では少し羨ましさを感じることもあった。

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