第三十九話
夜が明けると、リオンは黒影と赤熊から数人ずつ選んだ兵を連れて、山林へと踏み入った。セイラも強引に付いて来ている。イルマ山岳で多くの任務をこなしたリオンには、現場の谷に心当たりがあった。
視野を優先して、兜は陣においてきていた。大きな戦も無いはずで、山岳の中でそれは必要のないものだった。
谷の底に直接通じる道を進んでいく。やがて、目的地へ行き着いた。切り立った崖に囲まれた、狭い谷間だった。
「ここで間違い無いか?」
リオンは、カイと行動を共にしていた兵にたずねた。
「どの場所かまでは厳密にはわかりませんが、位置を考えるとこの辺りで間違いありません」
「そうか、では、このあたりを捜索しよう」
リオンたちは手分けをして谷間でカイの姿を探した。しかし、誰の姿も見つからなかった。
「おかしいな。何も見つからないとは。あの高さから落ちたのなら、少なくとも痕跡は残るはずなんだが」
リオンが独り言を漏らした時、兵が彼を呼ぶ声が聞こえてきた。
「団長、こちらを見てください」
兵の声の方へ向かうと、何人かが寄り集まって、地面の大きな窪みを囲んでいた。
「ここだけが不自然にえぐれています。新しいもののように見えます」
「そうだな、ここで何かがあったことは間違いない」
リオンは頷く。
しかし、あたりには遺体はおろか、手がかりとなるようなものは何も落ちていなかった。
「誰かが落ちた兵たちを回収したのだとしても、血痕すら残らないというのは不自然ですね」
セイラも首をかしげる。
「とにかく捜索範囲を広げよう」
一同は谷間を抜けて、その先の山林へと進んだ。しかし、範囲を広げても、一向に新しい情報は得られなかった。
リオンの中に焦りが生まれて来たその時、セイラが魔石版を掲げて起動した。
「近くまで来ているのであれば、何かわかるかもしれません」
兵たちの注目を集めながら、セイラが操作を続ける。そして、魔石版が映す山の地形の中に、赤い斑点が見えた。
「これです! カイさんの魔力です」
「これが? どうして分かるんだ?」
「ええと……とにかく、間違いありません」
その魔道具の使い手にしかわからない何か繊細な見方があるのだろう。説明を諦めたセイラは、ただ断言する。
「罠という可能性はないのか?」
「魔力偽装といった高度な技を操る敵がいれば、ありえますが。可能性は低いでしょうね」
セイラの報告を受けたリオンが、すぐにその地点へ向かうことを決めた。赤熊の旅団の兵たちにも、明るい表情が浮かぶ。
「カイが無事でいることそのものが、奇跡に近いことなんだ。望んでいた結果ではあるが、不自然だとも言える。警戒は怠るなよ」
全員にそう言い含めると、リオンは先頭に立って歩き出した。




