第二部自称魔王から自他ともに認められた魔王になり異世界生活します
「人間界は神界と違い禍々しい邪気が漂っているな」
「無駄口を叩く暇があるならさっさと魔王と呼ばれているアズラエル・ソロモンを探し出すぞヘパイストス。それにしても人間と人外の者たちの暮らす世界では魔力を消している奴を見つけるのがかなり難しいな、ここは人間を私の『神力』で操り探させるか」
「だがよ~アレス、ただの人間を操っても意味はないぜ~。せめて魔力を持っている人間を操って襲わせちまおうぜ」
「そうだな……では奴らを使おう」
アレスは軍服を着た十二人のテンペスト帝国の残党兵の目の前に白い翼を羽ばたかせ降り立った。
神軍編第一章 神の使徒
俺は自室でカップに注がれたロイヤルミルクティを口に運んでいた。するとフィオナが自室の扉を開けてやってきた。
「どうした、何かあったのか」
「アズラエル様に会って話したいという方が扉の前に名をフレイヤと名乗っていました」
「フレイヤだと・・・・・・」
俺は内心で驚いていた。神であるフレイヤが人間界に降り立ってきたということが、降りてきただけならばわからなくはないがまさかこちらに接触してくるとは思わなかったな。
「通せ、通した後はフィオナ、君は自分の仕事に戻って構わない。フレイヤと二人だけで話がある彼女との話が終わるまで自室に誰も近づかないように伝えておいてくれ」
「は、畏まりました」
フレイヤが俺の自室にやってきた。
「久しぶりだね、フレイヤ」
「ええ、本当に久しぶりね。とは言っても私は神界からあなたを見ていたからそんな感じはしないのよね」
「そうなのか、ところで何で急に訪れてきたんだ」
「そうね、その話をしないといけなかったわね・・・・・・、実は今神界では貴方のことで最高神ゼウスが貴方の強大な力を危惧し二人の男神を仕向け抹殺するように仕向けたの」
「一つ聞きたいのだが、神界にいる神々が人間界にいる生物をそう軽々しく抹殺しに来るものなのか?」
「普通はそんなことありえないわ。本来神々は人間界の生物に余程のことがない限りは干渉することを固く禁じているの。でも今回魔王を倒し魔王になった転生者の力が神界に干渉しうるほどの魔力を持っているとゼウスが判断し、神界に責められる前に消すことを決定したの。そ・こ・でわざわざ私が転生させた人間を殺されるのはとても不愉快だからこの事をあなたに教えて迎え撃ってもらった方がいいと思ってね。そうなれば私は愉快だからね」
「話の内容は分かった。で、その神々は強いのか?」
「ええ、とても強いわ、今のあなたの倍以上はね」
(倍とはな)
「わかった、じゃあ……」
俺がフレイヤに次のことを言おうとしたその瞬間、ドンッとソロモン帝国の門がある場所から大きな音がした。
すぐに門のもとに向かうと門は破壊され地面には光の杭のようなものが刺さっていた。
(これは魔法、それもただの魔法じゃない、魔法で創られた光属性の杭に光り輝くオーラが纏われている)
(この光は……【真実之瞳】)
俺が魔眼【真実之瞳】で槍を見て解析すると『神力』と瞳に表記された。
(神力……聞いたことない言葉だ、字面からして神に関する何らかの力だと推測するべきだろうな)
そんなことを考えていると背後からやってくるフレイヤに声を掛けられた。
「この神力の性質は……奴が来たのね」
「奴ってのは?」
「アレスよ。神軍の特攻隊長をしていて光槍の使い手で神界の一、二を争う光の魔法に神力を練り合わせた神聖魔法と槍の使い手よ」
「神聖魔法か」
壊された門から十二人の軍服を着た男たちが続々とソロモン帝国に踏み入ってきた。
「我々は神の使い使徒である。アズラエル・ソロモン貴様を消滅させる」
「初対面の筈なんだが、物騒なことを言うな。しかも人の国の門を断りもなくぶっ壊しやがってその付けは払ってもらうがな、今ここで。瑠璃色之業火!」
俺は瑠璃色之業火を放った。しかし敵は光の魔法で防壁を作り退けた。だが俺はそのまま瑠璃色之業火を放ちながら漆黒色之業炎に変換させ防壁を焼き尽くした。だがしかし神力だけは完全には燃やし尽くすことができていなかった。
その後十二人中一人を残し全てを瑠璃色之業火で焼き払った。生き残った一人は逃がし操っている者のところまで泳がせた。逃がした男は近くにある森に入っていった。逃げた男の先には二人の赤髪と青髪男が立っていた。
「神よ、私達は失敗しました奴を殺すどころか返り討ちに合い・・・・・・」
「そうか使えぬな」
赤髪の男がそう言うと逃げ出した男は彼により放たれた素早い拳により頭を潰された。
「あ~あ、やっちゃたよ。あまり人間を殺すと神界の死者精算委員会に叱責されますよ」
「極力殺さなければいいだけのことだ。それより見よヘパイストス、目的のものが釣れたぞ」
「あん」
赤髪の男がそう言うとこちらを見てきた。
「俺に何か用か?」
「俺達は貴様を抹殺する指令を最高神ゼウスに命じられここへ来た。故に今ここで死んでもらう」
赤髪の男は槍を構え名乗りだした。
「我が名はアレス!神軍特攻隊長一番槍である。いざ参る!」
アレス神速の速さで俺に近づき神魔法を纏わせた槍で突き込んできた。しかし俺は真実之瞳でアレスの未来の動きを先読みし躱した。そして隙をついて漆黒色之業火を纏あせた掌で槍を掴んだ。しかし神力を練り合わせた神聖魔法を燃やし尽くすことはできなかった。だから俺は槍を引き寄せアレスの体も一緒に引き寄せて触れた。
「分解」
俺はアレスの中にあった神力を肉体から切り離し自身に混合させた。すると漆黒の1㎝程の幅の線状の痣か顔から体全体に広がっていき力が漲り漆黒色之業火に神力が無意識に流れていき無属性魔法から神聖魔法へ変質した。その所為かアレスの槍に纏っていた神聖魔法を燃やし尽くし瑠璃色之業火に変換させて槍を燃やし尽くした。燃えた槍からすぐに手を離したアレスは数歩下がり俺から距離をとった。
「くっ、我が槍をよくも破壊してくれたな!それにその力はまるで……」
「引くぞ、アレス」
青髪の男ヘパイストスがアレスを連れ空間を移動し消えていった。
「騒がしい連中だったな。それにしてもこの痣は一体……」
俺は城に戻り自室で神力を使いこなすため様々なことを試した。混合させた神力を魔法に通したり、【魔剣業炎剣】に纏わせるなどしてみた結果使い方はほとんど魔法を使うのと大差ないやり方だった。そして体全体に神力を纏わせると漆黒の痣が体全体に広がっていく。すると肉体の握力、筋力、速力、投力が約通常時の十倍簡単にわかりやすく言うと、指一本を弾くことで生じる人差し指の勢いで一軒家を木っ端微塵にできる。もっと言えば拳圧だけで巨大な岩を粉末にできるレベルだ。
様々なことを試した後、ソロモンリングを預かり、神力を注ぎ込んだ。するとすべてのソロモンリングが黄金に輝き、埋め込まれた魔石以外の部分が黄金に染まった。黄金に染まったリングを真実之瞳で観て見るとそこには【群青色之氷籠手・雨氷/絶対零度領域】、【翠樹之剣・紅樹】、【絶対投擲雷槍・紫電】、【光獅子・一式陽光/二式妖光輝/終式耿耿絢爛】、【治癒桜杖・薄墨桜】、【水龍打突・蛟】、【支配人形之魔笛・蘇生人形】、【呪殺片眼鏡&反射外套・呪印/魔鏡】、【無色武器・無圏/無圏掌握】と瞳に表記された。
「これはすごいな、能力値が異常に上がり、新技もあるようだ」
俺は指輪を持ち主であるフィオナ、フェリス、シウとラン、シャーリー、サファイア、アマデウス、サリエリ、アリス、に帰し魔力を通し形状変化をさせた。すると以前よりもかなり形状が変わっていた。
【群青色の(ア)氷籠手・雨氷・絶対零度領域】
雨氷、氷で創られた透き通るほど美しい翼が生え、その翼は数千万の氷の羽を勢いよく降らせる。絶対零度領域、自身の周囲を零度以下にできる。そして自身の体を氷結に変化させてあらゆる物理攻撃と炎属性以外の魔法攻撃を無効にすることができる。そして炎属性魔法の耐性がレベルMAX。
【翠樹の(ブレ)剣・紅樹】
刀身が翠色の剣と刀身が紅色の短剣、円形の中心に緑色の魔石が嵌め込まれた紅色の盾。盾に嵌め込まれた魔石から光を放ち対象を樹木に変質させる。刀を地面にさすことで、堅牢な樹木で生成されたゴーレムを二万体まで出すことができる。そのゴーレムは光合成をすることで顔の部分に浮き出ている魔石に太陽のエネルギーを吸収し灼熱の破壊光線を放つことができる。紅色の短剣は魔力を注ぎ込むことにより紅色の大鎌へと形状を変化させ、切った相手の魂と神力を狩り取ることができる。もちろん肉体にも傷を負わすことは可能。魂を狩られた対象は肉体の硬直から始まり亡くなる。
【絶対投擲雷槍・紫電/紫電槍】
金の槍が一本と五本の紫電を帯びた紫色の槍。紫電を帯びた槍で刺されたものは灰すら残らない。紫電槍は槍そのものが紫電となり物理攻撃、魔法、環境によって及ばされる影響を無効とする。
【光の(ニング)獅子・一式陽光/二式妖光/終式耿耿絢爛】
光の獅子があらゆる銃器に形状変化するようになる。さらに、一式陽光の能力では陽の光と同様の熱量の弾丸を生成できる。二式妖光は光の屈折と反射をさせあたかも弾丸が一瞬で目の前に現れ着弾させたかのように相手の認識を利用する技。終式耿耿絢爛は獅子の姿のまま光り輝き太陽と同様の熱量を維持しさらには灼熱の咆哮を放つ。咆哮にあてられた敵は肉体が解けて蒸発する。
【治癒桜杖・薄墨桜】
桃色の1760㎝の杖。杖の先には黄金の桜が飾られている。薄墨桜は魔力を通すことで空中に無数の桜の花弁が舞い墨色の雨を降らせ町や村一個体の負傷者を治癒することができる。
【水龍打突・蛟】
打突に纏っている水が蛟になり打突が当たった部分に噛みつき肉を引きちぎる。そして傷口にランダムで様々な毒を注入する。毒の種類は毒死系、しびれ薬、内側から肉体を溶解させる、溶解液。
【操り人形魔笛・蘇生人形】
死んだ人間を一時的に蘇生させ操ることができる。操られた死体は操られているという自覚がないまま利用することができる。操っている者からの命令信号を自分の意志と錯覚させ行動させる。
【呪殺片眼鏡と(&)反射外套・呪印/魔鏡】
呪印は遠隔操作で呪殺することが可能。名前と顔さえ分かっていれば呪印を植え付け何時でも呪印を発動させ暗殺することができる。そして呪殺片眼鏡は魔力を注ぎ込むことで遠方のものを空間を超えて視ることができる。ただしそれには相手の顔や何があるか明確にイメージしなければ覗くことができない。魔鏡は相手の魔法をただまっすぐ反射するだけでなく軌道操作を加えることができる。
【無色武器・無圏/無圏掌握】
使用者の周囲に無数の無色透明の変幻自在の武器、そして背後に六本の腕が身を守るように配置されている。無圏は範囲指定なし究極遠隔範囲攻撃可能状態を意味する。無圏は魔力が続く限り発動可能。無圏掌握は無圏の状態の時だけ発動可能、空間を掌握しそこに生物がいた場合は圧し潰され木っ端微塵になる。つまりは即死させることができる。一度に六か所に使用可能。
フィオナ、シャーリー、フェリス、ラン、シウ、サファイア、アマデウス、サリエリ、アリスに魔力を通してもらったことで分かったことは武器の姿かたちが変わる者もあれば、変わらずに能力値が異常に向上するものもいた。
「魔王十一勇士見伝えなければならないことがある。おそらくだが近々ここに神軍といった神の軍勢がここにやってくるかもしれない。故にそれまでに各々新しい能力を使いこなせるようにしておいてくれ」
「「「「「「「「「「「畏まりました」」」」」」」」」」」
神界にあるゼウスの住まう神殿
「「父上ただいま戻りました」」
アレスとヘパイストスが神界に戻りゼウスのもとへ向かうとゼウスは噴水の水面に顔を覗かせていた。
「失敗したみたいだな」
「はい、申し訳ありません。そのうえ神力まで奪われました」
「ああ、知っている水面からそちらの様子は見ていたからな。それにしてもまさかフレイヤが向こうに付くとはな、予想していなかったわけではないが……」
「フレイヤが向こうにいたっスカ?神力を感じなかったですよ」
「神力をごく最小にまで留めていたんだろう。そうなると我々では感じ取れないのもうなずける」
「それよりもアレス貴様から奪った神力を使用したときにアズラエル・ソロモンに浮かび上がった痣のことだが、あれは人間が神力を使用したときに浮かび上がってくるものだ。だがすべての人間に浮かび上がるものではない、現に貴様が神力を注ぎ込んで操った兵士たちには浮かび上がらなかったであろう」
「はい、確かに。それに私が操った兵士よりもはるかに力が上がっていました。同様に神力を注ぎ込んだあの兵たちとの違いは一体?」
「それはもともとの力の差もあるだろうが、一番の理由は神力と肉体の相性が異常にいいことと神に昇華する素質があるということだろう。この神界には人間として死してから神に昇華した者もいる。だが彼は生存しながらにして神に昇華しようとしているのだろうと考えられる」
「なっ!なだって、そんなことが可能なのですか?可能だとしても肉体がそれに耐えられないでしょう」
「いや、アズラエル・ソロモン……ここでは魔王と呼称しよう。魔王の肉体は転生時不老不死の肉体に加え再生能力も有している。例え崩壊したとしても崩壊した個所から再生が始まるだろう。そしてやがて肉体が神と同様の物になる」
「なんて恐ろしい奴なんだ」
「故にアレス、ヘパイストス今からオリュンポス十二神軍、二神軍団隊長から十一神軍団隊長に出撃の準備をさせよ」
「「はっ直ちに」」
神軍編第二章 開戦と蠢く闇
一
「あなたに訊きたいことがあるの」
俺はそうフレイヤに言われ執務室で話すことにした。
「あなた炎魔法に契約した最上位悪魔を合わせたの?私の神眼であなたの炎魔法を見たら漆黒の魂が宿っていたのよ」
そう言われても俺には心当たりがない。どうやらフレイヤは俺の混合分解の能力を理解しこういったのだろう。これは詳しく聞いてみるべきか。
「心当たりがない。悪魔の魂とはどういうことか詳しく聞きかせてもらおうか」
「今あなたの体の中には六つの六色の魂があるわ。あなたの魂を入れると七つになるのだけれど。本来人間の肉体には一つの魂しかないものなの。でも悪魔と契約した人間はその身に悪魔を宿すから肉体には二つの魂があることになるの。でも戦闘時は悪魔を肉体から離して戦うこともあるからアレスとの戦闘時は肉体にある六つの魂と炎に宿った一つの魂が見えたの」
「そうか、だが俺は悪魔を呼び出したことは一度もないが、この炎の魔法は対象の魂を糧に成長するから、それが何か関係しているのかもしれんな」
「魂を糧に……」
そう言うとフレイヤは神眼を使用し俺をじっと見始めた。しばらくじっと見ていると驚きの表情を見せた。
「あなたの六色の炎の魔法の能力の所為ね」
「どういうことだ」
「あなたの魔法は魂を糧に成長し幾つもの魔族、人間問わず屠ってきたのでしょう。魔王も含めて。この世界にいた魔王は純血の最上位悪魔よ。そんな強大な力を持った魂を糧にしたのならば意思を持ったとしてもおかしくはないわ」
「純潔の悪魔というのはどういう意味だ」
「この世界の魔族はねほとんどが混じっているのよ。例えばゴブリンなんかは他種族の雌を孕み袋として扱い同族を増やす。そして鬼族は他種族と愛し合い子孫を残すことができる。もちろん同族とも可能だけど鬼族は他種族の特性を持った子孫を望む傾向がある。故にこの世界は混じっているものが多いのよ。そう言った混じった魔族のことを半魔と呼んでいたの。でもそれは昔の話で今ではゴブリンと鬼族の半魔はただの魔族として認識されているのよ。それで純血の悪魔っていうのは同族だけで子孫を作る魔族のこと、それとその血が色濃く出た強大な力を持った魔族のことを言うのよ。簡単に純潔の悪魔と呼ばれる条件は同族の血が色濃く強大な力として現れた魔族のことを言うの」
「なるほどな」
「それで炎の話に戻るけど、あなたの魔法は魔王や他の魔族の魂を糧に成長した所為で自然な流れで悪魔の魂を生成し意思疎通ができるようになったのね」
「なるほどな。俺も何で意思疎通ができるようになったのか少し不思議に思っていたんだ。そうだ、話は変わるが神力のことで訊きたいことがあるんだ。神力を使いこなすためにいろいろなことを試しているのだが、最近は神力が体に馴染んでいくような感覚になるんだ。それに痣がくっきりと浮かび上がるようにもなってきたんだ。何か知っているか?」
「私はあまり神力のことには詳しくないんだけど推測ならできるわ。本来神力はアレスのように神力を使って人間を操ったり魔力に練り上げて敵に放ったりして使ったり、死亡した人間の善行を多く積んだ清らかで真っ白な魂に神力を注ぎ込み神格化させるために使用されるの。今回あなたがやったように生きた人間が神力をその身に吸収するっていうケースは聞いたことがないの。だからおそらくだけど肉体が滅びるんじゃないかしら。でもあなたは不老不死の体と再生能力を持っているから死ぬことはないはずよ。現に今も普通に生きているしね。問題は肉体に馴染んできた神力がどのように作用されるかよ。例えばさっき言ったように神格化するかただ単に身体能力と魔力が向上して、魔法の威力が上がるだけかもしれない。今は世様子を見るしかないわね」
「わかった。もう少しいろいろ試してみる」
「ゼウスはすぐに来るかもしれないわ。だから戦うなら情報が必要よ。だから作戦会議をしましょう」
「ああ、そうだな。魔王十一勇士をここに呼んでから始めよう」
作戦会議をした日から二度夜が明けた。
天空の雲が裂き青空には神々しく眩しくもり暖かな光が地に降り注いだ。光の中からは金髪青眼の歳は四十歳後半といった筋肉質で精悍な顔つき、先端に青い水晶を装飾した大きな杖を持った男が現れた。
男は背後に明らかに巨大な魔力を放つ十ニ人の男女を引き連れてきた。
金髪青眼の男が口を開く。
「貴様がアズラエル・ソロモンだな」
「そうだ。あんたがゼウスか?」
「そうだ。いかにも私が最高神ゼウスだ。魔王アズラエル・ソロモン貴様を抹殺しに来た。世界の調和のために」
「世界の調和か、それは随分と過大評価をしてもらえているようで」
「謙遜する必要はない貴様の力はこの世界にいた魔王フォルス・ロギアを遥かに超えている」
「そうか、もう無駄話はこれくらいにして開戦と行こうじゃないか」
「血気盛んだな、魔王よ」
「この後の予定がびっしりと詰まっているのでな、面倒事は早急に終わらせたいんだ」
「そうか、その意見には同意する。私も面倒事は嫌いな主義でね。ところで貴様は我々とたったの十二人で戦うつもりか?」
「ああ、そうだ。なにぶん人手が足りないものでな」
ゼウスは魔王十一勇士を一目見た。
「これは……こちらも気は抜けないようだな」
「そうだ、戦う場所は俺が用意した。ここでは国に被害が及ぶからな」
「ほう、魔王と名乗っている割にはそう言ったことを考えるのだな」
「大事な国のことだからな」
俺は門を開いてゼウス達を俺が創った闘技場に案内した。
「ここは?」
「ここは異空間に創った闘技場だよ。その名も「血の(ッド)闘技場」この闘技場はかなり広く作られているワールドマップだ。今回のために特別に作ったんだ。ここならばどんな被害が出ても帝国の方には被害が及ばなくなる」
異空間の中は広大な平らな地に多くの岩や滝のある【地表地帯】や自然が多い【森林地帯】、そして火山から溶岩があふれている【火山地帯】と氷山が聳える【氷雪地帯】が広がっていた。そして天空には藍色の天蓋が装飾された大理石で作られた浮遊した塔【天空塔】が美しく存在感を際立たせていた。
「ほう、これを貴様が創ったとはな」
「では開戦と行こうかゼウス」
「よかろう」
「開始の合図と判定を出すのはフレイヤに頼んである」
「ルールなどはあるのか?」
「一応考えてはある、まず一つはサドンデスバトル、同数のプレイヤーを用意して一対一で戦い先に七勝した方が勝利とする。二つ目は、WarGame、簡単に言えばお互いのチームで王を一人決め、王を倒すもしくは降参させた方の勝利とする。このどちらか二つのルールで戦うこととする。ルールを選ぶ権利はそちらに譲ろう」
「わかった。それならば……WarGameの方を選択させてもらう」
「わかった。フレイヤ、合図と判定を頼む。ゼウスこれから俺たち2チームはこのフィールドの各地帯にランダムで転送されることになっている。送られたと同時に試合開始の合図が空中に見えるようになっている」
「うむ。加減はせんぞ、覚悟せよ」
「こっちもだ」
「それではこれより魔王軍VSオリュンポス十二神軍によるWarGameを開始するわ」
2チームのリーダーが話し終え、フレイヤが試合の対戦カードを発表すると2チーム同時に転送された。
ソロモン帝国の城付近にある洞窟
「ク、ク、ク行ったな……ようやくこの時が来た」
ニ
ゼウスの軍勢は火山地帯、俺たちの方は氷雪地帯に転移した。火山地帯と氷雪地帯は対面するような形である。地表地帯と森林地帯も同様に対面する形をとっている。
空に目をやると試合開始の合図に使われる大きな花火が五種類上空に発射された。
「開戦の合図だ。皆行こう」
「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」
「あれが合図か、皆の者魔王を打ち滅ぼすぞ!」
「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」」」」」」」」」」」」
互いの軍が出陣をした。
火山地帯と氷雪地帯の隣接部分、そこにいたのは神軍三番隊隊長槍使いアレスと五番隊隊長太陽神アポロンそれに対するは魔王十一勇士のフィオナとフェリス、火山地帯では四番隊隊長アフロディーテと六番隊隊長アテナ対するはシウとラン、氷雪地帯では、七番隊隊長アルテミス、八番隊隊長デメテル、九番隊隊長ヘパイストス、十番隊隊長ヘルメス対するはサファイア、アマデウス、サリエリ、アリス、地表地帯では十二番隊隊長ヘスティア対するはシャーリー。
俺はというと空中に浮遊している【天空塔】にて、一番隊隊長ゼウス、二番隊隊長ヘラと睨み合っていた。
「さて下ではもう開戦している。俺達も戦おうではないか」
「よかろう、こちらは二人だが問題ないだろう?」
「ああ、構わない何人いようと今の俺の敵ではない」
俺は右手に神力を纏った瑠璃色の(ファ)業炎を出し、ゼウスとヘラに拡散させ放った。ゼウスとヘラ二手に避けてゼウスは雷魔法【雷龍】を、ヘラは重力魔法【重力圧縮】を放ってきた。だが俺は漆黒色の(ー)業炎を自分の周囲に放ち身を守る【漆黒炎城壁】で二神の攻撃を防いだ。【漆黒炎城壁】は触れた魔法を一瞬にして漆黒の炎で燃やし尽くした。城壁故に背後、上空、正面、真下からの攻撃からも身を守ることができる。
攻撃を防いだ後に神力を身体に纏わせた。すると身体全体に漆黒の痣が広がり瞳に四つの小さな勾玉浮きでた。その状態でヘラのもとへ瞬間移動し瑠璃色の(ファ)業炎を纏わせた手で手刀を繰り出し心臓を貫いた。次にゼウスの方に移動し手刀を真上から振り下ろした。だがゼウスは間一髪躱して頭部を免れ左腕を切り落を犠牲にした。躱してすぐに後方へ移動した。その速さは雷のように早かった。
「ふっ、油断した。まさか片腕を持ってかれるとはな。反応が遅れ【雷動】で躱すのが遅れてしまった」
心臓を貫かれたヘラは光の粒子となり消えていった。
「まずは一人」
「まさかあの一瞬で我妻ヘラを消滅させるとは恐れ入った。本来ならば神界に送還されるのだが神力を纏った魔法で刺し貫かれ、しかも魂を炎に喰わせたとあっては、送還は不可能。しかもあの一瞬でヘラの神力を奪うとは驚いたものだ」
「この前会った神アレスから神力を奪ってから俺の手のひらに痣が浮き出た。その痣が広がっている状態の時でしか神力を吸収することはできない。貴様に訊こう、この痣は何だ?」
「ただ人ではいられなくなった証よ。それは【神呪】という、人間が神の力を行使したときに浮き出るものだ。そしてそれは神に昇華する素質を持った者に浮かび上がってくるものだ」
「そうか、ならば今俺は神格化することが可能ということか」
「否、そうさせないためにも私がここで貴様を抹殺する」
「なら、やってみな」
ゼウスはどこからか杖を出現させ頭上に掲げ大量の魔力と神力を杖に注ぎ込んだ杖は自壊し、形状を変化させながらゼウスの体に纏わりついた。すると杖が金色の神々しい光を放つ黄金の鎧兜と剣となった。
「雷魔法【天雷武装】」
「ようやく本気を出してきたか。ならば此方も全力で貴様を消してやろう」
その頃真下では。
「絶対零度領域」
アレスは防戦一方になり左腕を片から切り落とされ、右腕で槍揮い氷結状態の
フィオナに無意味な攻撃を繰り出していた。
「な、なぜ我が槍術がすり抜け空を切る!」
「私の絶対零度領域の範囲内にいるものは凍結していくそしてこれを発動しているときの私の体は氷結状態になり物理攻撃が無意味になる。これで話は終わりです。さようなら」
フィオナはそう言ってアレスを真っ二つに両断した。切断面は凍結され血飛沫が舞うことはなく鮮やかに敵を仕留めた。
「【陽間】」
フェリスはアポロンと対峙していた。アポロンは自身の周囲5mの温度を極限まで上げ環境に影響を与えフェリスの絶対投擲雷槍を熱で溶解させようとしていた。
「さぁ、この熱の中でその槍と君の体が無事でいられるかな」
アポロンはじりじりとにじり寄りフェリスの肉体をもとかして戦闘不能にしようと考えていた。しかしフェリスは絶対投擲雷槍に乗って宙を浮き遠距離から紫電を放つ。
「絶対投擲雷槍・紫電槍」
アポロン貼っていたとばかりににやりと口元を吊り上げた。紫電槍はまっすぐアポロンの頭部に目にもとまらぬほど一瞬でアポロンの頭蓋を刺し貫いた。
「な、なに……なぜだ」
そう口にしてアポロンは倒れた。
「魔法の効果を受けないから。さて寒いし他の誰かの援護に向かおうかな」
フェリスはそう呟いてどこかへと消えていった。
火山地帯では、アフロディーテとアテナそしてシウとランが戦っていた。ランが先頭に立ちシウが後方で援護という形をとっていた。アテナとアフロディーテもアフロディーテが先頭に立ちアテナが後方で作戦の指揮を執っていた。どちらも最高のコンビと言えよう。
「光の(ニング)獅子一式陽光」
ランは自動式拳銃に変化させた光の(ニング)獅子で一式陽光を放った。球の速さについてこれなかったアフロディーテは躱すことができずに足を撃ち抜かれた。
「くっ!」
「アフロディーテっ!」
「大丈夫だこれくらい。それよりもあの弾丸早すぎて捉えることはできない」
「策が思いつかないわ、それにほかにどんな能力があるかもわからなし、後方にいる娘は回復薬でしょうね、先ほどから見ていてもこちらに攻撃してくる気配がまるでない。もしくは私と同じように策士の可能性もあるわ」
「ま、要人に越したこと和ないってことね」
「ええ」
アフロディーテは棍棒をランに突き出してきただがそれを銃で止めた。
「隙あり、光の(ニング)獅子・二式妖光」
棍棒を止めた方とは反対の手に持っていた拳銃が音を発した。
「な、なんで私に」
撃たれたのはアフロディーテではなくアテナの方だった。アテナは右の胸に手を当て消滅していった。
「アテナ!チッやってくれたわね」
「光の(ニング)獅子・終式耿耿絢爛】
アフロディーテが怒りに任せ棍棒を振り下ろそうとした。だがその棍棒が振り下ろされることはなかった。なぜなら彼女の腕が遥か左に両腕とも吹っ飛んでいたからだ。
「ガルルー、グガァァァァァァァァ」
アテナが腕を飛ばされた方の逆の右側に目を向けると2.5mはあろうかという獅子が彼女の腕を爪で切り離した後の姿だった。獅子の右前足は赤く染まっていた。
「い、いやあああああああああああああああああああああぁぁぁぁ」
アフロディーテが自身の両腕と光の(ニング)獅子を交互に見ていると。
「グガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
光の(ニング)獅子が咆哮を発した。
どろどろとアフロディーテの体は溶解していき跡形もなくなった。
「やっと終わった」
「そうだね、皆のところに応援に行こうか」
「そうだね」
氷雪地帯では、アルテミス、デメテル、ヘパイストス、ヘルメスそれに対するはサファイア、アマデウス、サリエリ、アリスだ。
アルテミスは後方で神力を練り込ませた弓と矢で味方を援護し、デメテルは穀物を生成し料理を作り食料の補給を担っている。ヘルメスは神獣を使い周囲の戦況をゼウスや他の神に伝令する役割を持っている。先頭ではヘパイストスが鍛冶スキルでいくつもの剣を無限に生成し炎魔法とともにそれを操り、敵を翻弄している。それに対しサファイアは水龍打突・蛟でヘパイストスの剣を弾き応戦、アマデウスは魔力を操り人形魔笛に注ぎ機会をうかがっている、サリエリは敵の後方を呪殺片眼鏡と(&)反射外套・呪印/魔鏡で覗くための位置を探っている、アリスは無色武器でサファイアとともに剣を躱している。互いに膠着状態を続く中先に動きを見せたのは魔王軍だ。アマデウスは操り人形魔笛の笛の音でヘパイストスを操り敵の後方に攻撃を仕掛けさせ敵の位置を炙り出した。攻撃を仕掛けられたアルテミス、デメテル、ヘルメスは先頭に出てきて状況把握を行おうとした。だがしかし呪殺片眼鏡と(&)反射外套・呪印/魔鏡で覗かれ呪殺されて消えていった。奴られ体の自由が利かないヘパイストスはアリスの無色武器・無圏/無圏掌握によって両方の手で押しつぶされた。
地表地帯ではヘスティアとシャーリーの二人が戦闘を行っていた。ヘスティアは炉を建造し、様々な武器を作りシャーリーの翠樹の(ブレ)剣・紅樹に対抗している。
「なかなかやりますね」
「そうですか、まさか神様にそう言って貰えるとは思わなかったわ。でもそろそろ決着をつけましょうか」
「えっ?」
シャーリーは翠樹の(ブレ)剣・紅樹の能力を使用し短剣を大鎌に変化させ胴体を素早く狩り取った。するとヘスティアはすぐさま消えていった。
「これでよし」
魔王十一勇士の戦いが終わる頃、アズラエルとゼウスはと言うと。
神軍編終章 終戦と戦禍
「統一儀式」
俺がそう口にすると六色の炎が彼の背後で混ざり合い、右翼が黒、左翼が白の六枚羽を生やし、螺旋状の大きな角を生やした漆黒のフロックコートを纏い黄金のアクセサリーを複数身に着けた骸骨が現れた。
「我が主、我が名は【虹色の(ナ)業炎】。魂の複合によりここに召喚されました七色の炎を司る地獄の悪魔でございます。私はアズラエル様に作り出されたアズラエル様の力でございます。私をお好きなようにお使いください」
俺は虹色の(ナ)業炎の問いに簡素に答えた。
「虹色の(ナ)業炎、力を示せ」
「御意」
そう言って虹色の(ナ)業炎が指を鳴らすと俺の服装が漆黒のテールコートに変化した。そして虹色の(ナ)業炎が二度目に指を鳴らすと七色の炎がゼウスに発火し焼き尽くしていく。
「なっ!」
ゼウスは悶えながらその場に倒れた。すると虹色の(ナ)業炎はもう一度指を鳴らしゼウスを焼いていた炎を消した。
「これでよろしいでしょうか」
「ああ、十分だ。ここから先、遊びは終わりだ。奴を燃やし尽くす」
「はっ、仰せのままに主よ」
ゼウスは起き上がり荒く息を吐き、アズラエルを睨みつけ、同時にその目に恐怖の色を宿した。
「何という力だ。炎そのものが悪魔になり神力を宿しているとは厄介な」
「驚くのはまだ早いぞ、見せてやろう虹色の(ナ)業炎の真の能力を」
「ほう、発火が能力というわけではないとは思っていたが、こちらも全力で、手を抜かずに迎え撃とうではないか。雷魔法【天雷武装】」
魔法を発動させたゼウスは一瞬にして俺の背後を獲り「【天雷武装・攻式鳴神】」雷を纏わせた拳を放ってきた。
「虹色の(ナ)業炎・宵の明星」
「ぐはっ、これは(ラウとの戦闘時に見せた魔法)」
「何を驚いているんだ。この技はまだお前に見せたことはないはずだが」
「ハァー、ハァー、テンペストの皇帝との戦闘は見ていたからな。だがまさかその炎で出してくるとは予想外であった」
「虹色の(ナ)業炎は【瑠璃色の(ファ)業炎】【漆黒色の(ー)業炎】【黄緑色の(モ)業炎】【無色の(マエ)業炎】【紅色の(ル)業炎】【紫色の(モデ)業炎】の全ての能力を統一させた炎だ。つまり一つの炎ですべての能力が出せる故に炎を切り替えるタイムラグがなくなったというわけだ。そして虹色の(ナ)業炎には複数の固有能力がある。それの一端を今から見せてやる」
俺が「魔纏」と呟く、すると虹色の(ナ)業炎は粒子となりテールコートに沁み込まれた。コートの背中の部分から七色の翼が六枚、そして黄金のネックレスと複数の装飾品が飾り付けられた。
俺は人差し指でゼウスを指し、「魔神王之裁」と唱えた。その瞬間ゼウスの足元から無数の炎でできた手が彼の足を鷲掴みにし、その後巨大な腕が彼を握り覆い隠し燃やしていく。
「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁ」
「魔神王之裁は一度指定した相手を焼き尽くすまで放さない。固有能力のうちの一つだ」
「わ、私を倒したからと言って安心しないことだ。私が死ぬということは今まで保たれていた世界の均衡が崩れるということだ。私の死に気が付いた邪神と冥王が世界の総取りにかかるだろう」
「邪神だろうと冥王だろうと関係ない。俺が焼き尽くせばいいだけのことだ」
「傲りが過ぎるな、痛い目を見るがいい貴様の大切なものが消えていく様を指を咥えて見ているがいい。フハハハハハㇵㇵㇵㇵㇵ」
笑いながらゼウスは消えていった。これにて神々との戦いは終わりを告げた。そして俺達は城に戻った。戻った先に広がっていた景色は森を焼くいくつもの炎の渦だった。
冥王神編序章 魔王VS冥王神
一
「ク、ク、ク……ようやく逝きやがったかゼウスのジジイ。これで現世を俺のものにしてやるぜ」
「そうはいかぬぞ、悪神ロキ」
「テメェは冥王ハデス、テメェもゼウスが死んだことに気がついてここにきたわけか」
「そうだ。誰に倒されたかはわからぬのが奇妙だがな。だがこれで現世を手に入れられるというものだ」
「オイオイ、そうはいかねえな。やりたければ俺を倒さないことにはそれはできないな!」
「そうか、ならば消え失せよ冥導魔法【屍姫】」
ハデスがそう唱えると、彼の背後から巨大な穴が開きそこから禍々しい叫び声が響き、紅蓮のドレスを着た腐肉した體の女が出てきた。
「ケッ、気色の悪い魔法だな」
「黙れ下郎、邪神風情が我が姫クラリスに拝謁できることを光栄に思い、黙って跪き首を垂れていればいいのだ」
「ふざけんじゃねぇよ。テメェが格下だ」
ロキは左手から緑色の炎をハデスに向け放った。しかし彼はそれを難なく躱しクラリスに何かを命じた。するとクラリスは悲鳴にも似た雄叫びをソロモン国全土に響き渡らせた。すると地面から大量のアンデッドが湧き出てロキを包囲した。
「これで終わりだ」
アンデッドはロキを襲い四肢をもぎ、地中へ消えていった。
「かはっ、テメェは絶対に殺す。俺たち神は死ぬことはないからな後で殺しに戻ってくるから首洗って待っていろよ」
「そうか、だがその必要はない。ここで貴様は消滅するのだからのう」
ハデスはロキの心臓部に腕を差し込み漆黒の神々しい光の球体を抜き出した。
「そ、それは俺の神力の源『神臓』!返せ、それは俺のだ」
「これは今から私が貰う」
そう言ってハデスがロキの神臓を自身の胸にあてると、それが彼の胸の中に吸い込まれるように入っていった。するとハデスの中から神力が満ち溢れてきた。
「今の私の力がどの程度のものか見てみるか」
そう言ってハデスは自身のステータスを見た。そこには種族が冥王から冥王神と表記されていた。それを確認したハデスは腕を横薙ぎにする動作をした。すると幾つもの真紅の炎の渦が森を焼き尽くし始めた。
「これは、なかなか」
「俺の力が……消えて……」
「これで貴様の不死の能力は失われた。さぁ、消滅えてくれ」
ハデスは漆黒の光を綯交ぜにした白い光の小さな球体をロキに向けて放った。するとロキは光とともに塵になり消滅した。
「これで邪魔はなくなった。この世界を手に入れる準備に取り掛かろう。先ずはこの魔王が納めている国から取り掛かろう」
ハデスは頭上に巨大な火球を作り、爆発させ多くの火の粉を周囲に飛ばし口の端を吊り上げ笑みを浮かべた。
ニ
城の周りは燃え盛っていた。辺りからは悲鳴が鳴り響いていた。
「これは、奴の言っていた冥王か邪神の仕業か?禍々しい魔力を感じる。皆、村の人々を城に作った異空間に避難させろ、死体も速やかに回収するんだ」
俺は魔王十一勇士に指示を出し向かわせた。その後、俺は魔力を感じる場所に向かった。そこには黒色の髪の背の高い男が立っていた。
「ん?この魔力は!」
こちらを振り向いた男は左目が金色と銀色の半々で、顔の左半面に黒白の縞々の縦線がはいっていた。
「お前は誰だ?」
「我は冥王神ハデス。この世界を手に入れる者だ。今は手始めにこの国を滅ぼし、手に入れる予定なんだ」
俺はそれを聞いてとてつもない怒りがふつふつとわいてきた。これを憤怒というのだろうか、今までこんな気持ちになったことはなかった。
「そうか。だが、その予定はたった今キャンセルになった。この国の王としてその行為は万死に値する」
「そうか。ならば、止めてみるのだな。二重魔法『爆風の(トュス)渦』」
そう言うなり左手に風の上位魔法と右手に火の上位魔法の球体を作り同時に放ってきた。すると二つの魔法は重なり合い爆風の渦となり襲い掛かってきた。俺はそれを【虹色の(ナ)業炎】で防いで、魔剣業炎剣で魔力の斬撃を放ちハデスの右腕を切り離した。
「なっ、やるではないか」
「これでもうその二重魔法は撃てないだろう」
「ふっそれはどうかな。二重魔法秘義【闇と光の(ニンング)咆哮】」
ハデスは口を開き、口元に強大な光と闇の性質を持つ魔力を練り合わせ、広範囲の魔力砲を放ってきた。
「【虹色の(ナ)業炎】、『灼花盾』」
俺は手を前に突き出しそう口にすると大輪の虹色の花がハデスの放った【闇と光の(ニンング)咆哮】を受け止め、そのそばから燃やし尽くしていく。
「ほう、その炎は魔法を燃やすのか。厄介だ。これは時間をかけて倒すというわけにはいかないようだ。だからこれで終わらせる神の力を手に入れた新魔法、冥導神魔法【屍神姫】神力を宿したこの魔法までは焼き尽くせまい『屍神の破壊』」
ハデスは冥界から巨大な漆黒のドレスを身にまとった血の気の引いた肌の女を呼び出し両腕の拳に巨大な魔力を圧縮させ、それを俺に振り下ろしてきた。
「焼き尽くせないこともないが、それではつまらんな。そちらが拳で来るならば、こちらはこの剣でそれ断つ」
俺は魔剣業炎剣に神力・魔力・【虹色の(ナ)業炎】を吸収させた。すると剣は禍々しくも神々しい漆黒のオーラを帯びた二振りの漆黒の刀身をもつ剣と大剣が姿を見せた。
「そう、この魔神剣虚無と絶無でな『絶無』」
俺は常人の目では止まらる神速で虚無を縦に、絶無を横に振った。すると拳を振り下ろしてきていた【屍神姫】の動きが止まり、一瞬にして木っ端微塵となった。それを見てハデスは狼狽し始めた。
「な、そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁ。有り得ん、有り得てたまるこのようなことっ!」
「次はお前の番だ。『虚絶』」
俺はハデスの前に近づき、虚無を一振りし、彼を一刀両断した。すると断面の空間が歪みそこから蝕まれるようにして空間の歪みへと消滅していった。
「これで終わったか。さて帰るとするか」
おれは急ぎ城へ戻り魔王十一勇士たちと合流しあれた国の部分を回復させ、亡くなった人たちを蘇生させた。