策士
囲碁にしても将棋にしても、一対一のサシの勝負事というのは素の性格が出やすい。対戦して分かったことは
手加減なしの真面目な性格ということだ。ただし、こちらが格下ということもあったのだろうが、あまり奇抜な手は指してこなかった。
「指導とまではいかなかったが、悪いやつじゃなさそうだ。」
これが僕の印象だ。
「将棋部は昨年、部員の不祥事で廃部の危機にあったところを、会長の強化推薦で一年間猶予を与えられている。ハブの入部で戦績を残し、今年無事、復活したそうだ。」
マリから毎日、新情報が送られてくる。マリの留学中の兄が開発したという通信アプリで、内容は学校にばれる心配はなかった。子供ながら鋭い世相批判をコミカルに配信する彼女が、10万ユーザーを抱える人気者になったのも兄の影響だった。優秀な兄貴が家庭教師としてついている彼女はわざわざ学校の退屈な授業を受ける必要がなかった。
童顔で知的なソウタは2、3年の女子に人気があった。
「かっこいい弟って感じかな。」
僕はマリの部屋で対策を練った。学校でも街中でも監視カメラだらけ。ここが最も安全な場所だったのだ。
「こいつらは、談合坂の手下だ。女子の浮動票を確保する当て馬だな。これで、お前の票は一年男子だけだ。それも大半は談合坂に抑えられている。」
「負け戦じゃないか。」
僕は改めてエレンの無謀な言動を思い出し放心状態に陥った。
「そう、嘆くな。君には僕がついている。まず、考えてもみろ。力で押さえつけられている連中には少なからず不満というものがある。その不満を救い上げられれば、反撃の芽はある。僕のユーザーに選管のやつがいる。そいつにアンケートを頼んだ。明日、全校生徒にアンケートが配られる。選挙戦開始日に結果は放送委員会から配信される。その結果を入手して公約決めをしよう。」
僕は改めて、こいつが敵じゃなくてよかったと心底思った。