修学旅行
今は帰る途中である。
いつも使っている私鉄の池上線を使い、最寄りの駅で降りた後の夜道だ。
前に見覚えのある面影を見つけた。きっとあいつだ。そう思った瞬間、足が動き小刻みに速度を上げていく。
「待ってくれ…」そう叫ぶと彼女は俺の方を振り返った。
「俺は…」
これは中一の移動教室の時の話だ。
移動教室といえば、誰もが楽しみとしている、みんなと寝泊まりして、いろいろなことをしてみんなとの親睦を深める場である。
「なあお前の幼馴染あやちゃんだろ、いいなあ」
「俺あんな可愛い子が幼馴染だったら毎日幸せだなあ」
「まあ幼馴染ではあるけど、そんなに話してないし」
「そんでも羨ましいぞこのやろう」
あやちゃんとは平野絢のことだ。よくある恋愛物語出ててくる、とても可愛らしい容姿で、勉強もある程度できて、みんなからとても信頼を寄せられているようなやつだ。だが、別に俺はよくある恋愛物語を信じはしない。いや現実そんな物は存在しないのだ。
そんなものばっかり信じているから、すぐ人を信じてしまって、裏切られた時のダメージは大きい。
だから俺はそんなもの絶対に信じない。
「なあ」「おーい」「聞こえてるかー?」
ハッと顔を上げ直哉の方を見た。直哉は俺の顔を覗き見るように見てきた。
さっきから絢のことを可愛いといっているこいつが直哉だ。俺とこいつはなぜつるんでるのかわからないくらいに対象の人間だ。直哉はスポーツ万能、容姿もかなり良い、というかかなり良い、それは周りの女子の反応を見てれば一目瞭然だ。
今だにこいつがなぜに俺にくっつくのかがわからない。
「いくぞそろそろキャンプファイアの時間だぞ」
「ああ、そうだな」そう答えた俺は直哉と一緒にキャンプファイアの行われる場所に移動した。
そこはまだ夏のまっしぐらなので夜空の中をキラキラと光る虫がいた。とても綺麗だ。空気が綺麗だ、景色がとてもいい、周りのしゃべり声がなかったらなお落ち着くだろう。だが俺はこういう所が好きだ。
「さあキャンプファイアを始めるわよ」その言葉に生徒全員が歓声を発した。
そしてキャンプファイアは始まり、クラスごとに出し物をし、そのあとみんなで炎の周りを回った。
最後に花火をみんなでやった。やっていた。
「なあ俺あやちゃんと花火一緒にしたいんだけど、誘ってきてくれない?」そう言われた俺は一度ためらったものの、こいつは一回言ったことは引かない。こればっかりはしょうがないと思った俺はいくことを選択した。
「わかった、ちょっと待ってて」
「おっけー」そいつの言葉はかなりウキウキしてる感じだった。
歩いて絢がいら所に向かった。周りには女子のグループや男子のグループがいた。その中を掻き分けながら行って絢の前に立った。
「絢そのー、直哉が一緒に花火をしたいって行ってるんだけどいいかな?」
彼女は肩にかかるくらいの髪をサラっと横に動かし、聞いてきた。
「なんで?」別に俺のことが嫌いとかではなく、単純に気になったらしい。
「キャンプファイアの思い出に絢と花火をしたいんじゃない?」別に俺は読んできてと言われただけだから、なんとも言えないが、なんとなくはわかる。
「うん、いいよ。」
「でももちろんあんたもいるんでしょうね?」
「そりゃあまあ」
「それなら良し」
なぜこんなにニコニコしてるのか全然わからない。
まあきてくれるならば別にいいけれど。そしてさっき直哉といたところに行って、直哉と会った。
直哉は俺の方を一目置いてから、絢の方を見た。
「あやちゃんありがとう!わざわざきてくれて」
「うん別にいいよ」少し微笑み花火を一緒にやった。特に何かがあったわけでもなく、他愛もない話を少ししてその場は終わった。
絢はすこしこちらを見て、こっちに来いと言わんばかりに、手を使って呼び出した。