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開いたガラスの自動ドアを通過して、私は歩道に出た。平日なので人通りは少ない。時々車道を車が通るぐらいだ。その通りを一台の乗用車が通過した後だった。反対側から信号を渡って来る若い学生風の青年の姿が目に入る。
退屈な日常は、この瞬間終わりを告げた。
嘘だろ……?
時が止まった。身体と思考の動きがその瞬間だけ封じられる。
私は目を見開いてその場から動けなくなった。目がその横顔を捉え、瞬きを忘れる。開きっぱなしになった口が、何も紡げずに数秒が経過した。
行ってしまう――!?
次の瞬間、私は虚空に手を伸ばし、その背中に向かって叫んでいた。
そんなわけない。何故ならそれは“若い日の彼”だったから……
「ジョゼ!?」
人気の少ない通りに、その声が響いた。大きな声に通行人が何事かというように振り向く。声をかけた相手もこちらを向いた。
「……」
「……」
視線がぶつかる。彼を見る私の目と、私を見る彼の目が。
細身で長身。ココア色の髪。遠目からでもわかる美しさ。あれは……
もっと近くで見たい。
私は彼のもとへと駆け寄った。
「すみません!」と声をかけると彼はそこで立ち止まってくれた。
「?」
疑問符を浮かべた顔で私を見ている。当然だろう。彼と私はこれが初対面なのだから。だが近くで見るとより“彼”に似ていることがわかった。出逢ったばかりの十代の頃のジョゼに近い。他人の空似とは思えないほどよく似ていた。いや、もはや他人とは思えなかった。
「あの……」
その続きを言う前に彼は言った。
「もしかしてあなた、“ダリル”さん?」
「え?……」
予想外の言葉に思考が追い付かない。なぜ私の名前を……
さらに彼はこう続けた。
「なんで僕を“ジョゼ”と?」
「それはその……君が」
ジョゼに見えたから――
頭の中が混乱して私は泣きそうになる。嘘だ。嘘みたいだこんなこと。彼はきっとジョゼと繋がっている。でなければ私の名前が出てくるわけがない。ジョゼに会えるかもしれない! 感動して私は、嬉しいはずなのに頭を振ってそれを否定した。
ジョゼに生き写しのその青年は、悟ったように微笑した。
「“父”と間違えましたか?」
――to be contined――