4話
4話を見ようとここまで来てくれた方、ありがとうございます。今回、いつもより長いので読み疲れてしまうかと思いますが、それでもいいと言ってくれる方、本当にありがとうございます。4話をどうか楽しんでくださいませ。
「どこから話せばいいかしら。」
クロエは首を傾げ、頭の中を整理する。
そして少し間を開けて、その小さな口でゆっくりとこれまでの事を語り始めた。
「全ての始まりは5000年前、私の一族、フール家は当時で言う奇跡を研究をしていたの。」
「奇跡?」
「まぁ今で言う・・・魔法・・・の事ね。当時は魔法なんてもの存在しなかったから、たまに人間の中で人を超えた力を扱える人が出てくるのよ。その力の事を奇跡と呼んでいたみたい。」
なるほど、この時はまだ魔法はなかったのか。
俺が頷いているとクロエはまた話し出す。
「その奇跡を研究することで一部の人だけではなく、全ての人が奇跡の力を使えるようにするのが目的だったらしいわ。」
「中でもその研究に熱心だったのがそこに眠っている私の先祖、グロウ=フール。彼はフール家の中でも稀代の天才だった。」
そうして俺はすぐ側で棺桶の中で眠っている青年に目を落とす。
「子供の頃から奇跡が使え、物心ついた頃には奇跡について自分の身体で実験してたみたい。」
自分の身体でって・・・、解剖でもしてたってか?
まぁそんな冗談を言えるような空気ではないので、俺は黙って頷いた。
「大人になった彼は自分の研究室を持ち、更に研究にのめり込んだ。」
「そんな時、彼は出会ったの。もう一人の天才に」
「もう一人の天才?」
「そう、その時代、天才は二人いたの。その男の名前はウィーク=セージ。彼もまた奇跡について研究していたの。」
「けれど彼はグロウと違い奇跡を使えなかった。その代わり彼の体内には大量の魔力があった。」
「魔力はあるのに魔法は使えなかったんですか?」
そう言うとクロエは少し驚いた様子でこちらを見た。
「あなた、魔法の原理って知ってる?」
ここで見栄を張ってもしょうがないので正直に言う。
「すいません。知らないです。」
「そうだろうと思った。この都市じゃ子供でも知ってるようなことを聞くんだもの。」
そりゃ俺はこの世界に来てまだ一日も経ってないんだ。
この世界の常識なんて知る由もない。
日数で言えば今日が俺の誕生日みたいなもんだ。
しかしぼやいていてもしょうがないので黙る。
「まぁいいわ、そこから説明してあげる。まず魔法ていうのは人の中にある魔力を形を変えて外に放出するの。魔力は人によって量は違うけど魔力を持ってない人はいない、だから魔法は誰でも使えるの。理論上はね。」
なるほど、ということは俺も理論上では魔法を使うことが出来るのか・・・
「あなた、今自分も魔法が使えるかもって思ったでしょ。」
「え!」
心の中を読まれ思わず声が出る。
すると彼女はふふっと笑う。
「じゃあ今、魔法使ってみてよ。」
「え?!いやそれは・・・」
理論上は可能なのだろうが今まで俺は魔法を使ったことがない。
突然やれと言われても成功する自信が無かった。
「別に失敗しても私、笑わないわよ?それに今この場には私とあなたしかいないわけだし・・・一応グロウもいるけど。私見たいなー、あなたの魔法を使ってるかっこいいところ。」
確かに試して見て駄目でも彼女しか見てないわけだし・・・そこまで言われて逃げるなんて男がすたる!
「まぁ、やるだけやってみます。」
俺は台座から離れ、意識を身体の内側に集中させる。
「はあぁぁぁ・・・」
右手に力を入れ魔力を右手に集める。
そして思いっきり右手を天井に掲げて
『いでよ!!!深淵からいでし闇!!!!!』
沈黙。
無音。
てゆうか無だった。
何も出てきていない。
いや、もしかして俺は今ブラックホールの中にいるのか?
そのくらい静かだった。
空気が凍りついている。
しかしその空気はすぐに破られた。
彼女の笑い声で。
「あっはははははははは!!!!なに今のっ!ブラックホールだってwwwあんな思いっきり右手を上げて!あっはははははおっかしい!!」
「うわあああああああああああああ!!!!!!」
死にたい、女の子に草生やされた。
ちなみにさっき言ったのは中学時代考えた俺なりにかっこいいと思っていた必殺技で、この技を使えば、世界を闇に引きずり込むことが出来るという究極奥義だったりする。
てゆーか今考えたら、いでよの後に深淵からもう一回いでてるし。
ルビだったからよかったものの、漢字の方を読んでたら更に笑われてたぞ。
てゆーか笑わないって言ったじゃん!!!
俺はあまりの羞恥心に耐えきれずその場に崩れ落ちる。
その後、彼女はひとしきり笑うと話を戻した。
「とにかく、今あなた魔法使えなかったでしょ?理論上は使える筈なのに。」
そうだ、理論上は可能な筈なのだ。
それなのになんで使えなかったんだ?
「理由は単純。皆魔力を外に放出する方法を知らなかったから。グロウの様に感覚で出来る人は本当に稀なの。」
なるほど、魔法にもコツとかやり方があるのか。
「だからグロウはそこに目を付けた。知らないのなら知ってる奴に聞けばいい。」
「知ってる奴?」
そんな奴がいるなら是非ともご教授願いたいね。
「彼が考えたのは言葉によって自然や精霊の力を借りて体内にある魔力を制御するという方法だった。その言葉を呪文と名付けた。」
なるほど、人間じゃなくて精霊の力を借りるのか。
精霊ってのが本当にいるのか知らんが。
「呪文を編み出したグロウは世間に発表、瞬く間に呪法は広まりグロウは一躍時の人となった。」
「グロウはさらに他の生物や、鉱石の魔力から人間だけではありえない量の魔力を生成することに成功し、物に魔力を込めたり、他人に魔力を渡す方法も確立した。そうやって出来たのが呪法ってわけ。」
なるほど、確かに聞く限りじゃ呪法は相当万能な力だな、でも。
「でもなんで今は呪法じゃなくて魔法が浸透してるんですか?」
そう言うとクロエからさっきまでの笑顔が消え、代わりに不機嫌な表情へと変わった。
うわ、また俺地雷踏んだか?と思ったが、クロエはそのまま語り始めた。
「さっき話したでしょ?天才はもう一人いたって。」
ああ、そう言えばそうだった。ウィーク=セージって奴か。
「ウィーク=セージ。彼は奇跡を使えなかったけど、グロウのおかげで自分の中の魔力を発散させることができるようになったの。」
「ウィークはグロウに感謝した。私の命を救ってくれてありがとうって。」
「良かったですね。」
そう言うと彼女は少し悲しそうな目をして遠くを見つめた。
「そこで終わればね。」
その言葉でまだこの話には続きがあることを察した。
「でもその反面、ウィークはグロウに嫉妬した。自分が何年かけても成し得なかったことを自分より年下のグロウに先を越されたから。」
まぁ確かに、俺だってずっと頑張って来たことを軽々と超えられたら、いい気分ではいられないかもしれない。
「だからウィークは何をしてでもグロウよりも功績を挙げたかった。そう何をしてでも。」
何をしてでも、彼女はその言葉を強調するように言う。
「ウィークは自分の魔力を使って自然や精霊の魔力を制御し、一時的にだけど皆が呪文を唱えても呪法を使えないようにしたの。」
「それって、一人の人間が出来ることなんですか?」
「普通に考えたらありえないわよ。自然や精霊の力を借りることは出来ても、制御し、自分の思いのままにするなんて。だから彼は天才だったのよ、呪法のね。」
なるほど、ウィークは研究者としてではなく、呪法使いとしての天才だったってことか。
「でもなんでそんな事を?」
「当時、世界は呪法によって変わった。呪法はありとあらゆる場所で使われ、もはや呪法無しでは生活もままならなかった。」
クロエは俺を見つめる。
「そんな時、急に呪法が使えなくなったら、あなたならどうする?」
クロエは俺を見つめる。俺を試すように。
「僕なら・・・代わりになるものを使います。」
その答えを聞いて、クロエはまた悲しそうな目をした。
「そう・・・よね。その通りだわ。私だってそうしたかもしれないもの。」
クロエは少しの間沈黙したが、すぐにまた語り始めた。
「実際、あなたが言った通り皆は、世界は新しい、代わりになるものを求めた。」
ここまで聞いて俺はやっと気づいた。
「それが・・・魔法・・・!」
「そう、ウィークは呪法の他に新しい魔力制御の方法を用意していたの。それが魔法だった。」
魔法。
それが遂に生まれたのか。
「ウィークが考案したのは呪文を必要とせずに、且つ自然や精霊の魔力を必要としない方法だった。」
「それって・・・呪法よりもす・・・」
すごいと言いかけて俺は慌てて自分の口を塞いだ。
しかし少し遅かったようだ。明らかに彼女の機嫌が悪くなるのが分かる。
「・・・」
「でもその方法って・・・?」
気まずくなって俺は話をすり替えた。
「彼は呪文の代わりに『杖』を作ったの。」
杖。俺の世界で言う魔法使いの必須アイテムだ。
「杖を使うことで杖に魔力を送り込み、杖の中で魔力を変換、杖を経由して奇跡を起こす事に成功したの。」
なるほど、こっちの世界で言う魔力は俺の世界で言う電気のようなものなのか。
ウィークは火力発電のような技術を編み出したということか。
俺は勝手に自分の解釈に置き換えた。
「この杖が世界中に渡った頃にはもう呪法は忘れられてた。世界は『呪法』ではなく『魔法』を選んだの。」
沈黙、今度は俺が生み出した空気よりも更に重い空気。
俺が何も言えないでいると、クロエは震えた声で話し始めた。
「この杖はウィークの発明じゃない。グロウの発明よ。」
「え?」
俺はクロエの声がはっきり聞こえたのに聞き返した。
「さっきも言ったけど、グロウは物に魔力を込めたり、他の人に魔力を渡す方法も発明したの。その研究の延長で開発されたのが杖よ。」
驚愕、戦慄。
今の俺の心境を表すならこの2つで充分だった。
「ウィークはグロウの研究を盗んだの、それが真実。」
そう言うとクロエは拳を震える程強く握る。
「その後フール家はみるみる衰退していった。かつてあれだけの名誉があったにも関わらず。」
そしてクロエは棺桶に眠っているグロウの顔を見つめながら彼の頬を優しく撫でた。
「グロウはこの地下室にこもって研究した。もう誰とも関わらないように、一人で生きていくために。」
それが真実。
魔法の裏に隠された、忘れられた文明。
魔法にすべてを奪われた、哀れな産物。
それでいて、魔法よりも優れた概念。
階段でクロエが言っていた言葉を俺はやっと理解した。
その言葉だけじゃない。
俺と会った時、クロエは呪法を魔法と間違えるなと怒っていた。
俺が魔法が盛んに使われていると言って、クロエは泣いていた。
クロエがグロウの話をする時はどこか誇らしげだった。
クロエは、呪法が大好きなのだ。
だからクロエはあんな看板を立てて、少しでも呪法を広めようとしていたのだ。
最初はとんでもない子だと思ったけど、なんてことはない。
怒ったり、泣いたり、笑ったり、喜んだりする、普通の女の子だった。
俺は呪法について色々知った。
俺はクロエのことを色々知った。
しかし、まだ一つだけ疑問があった。
「なんで、俺にこんな大事な事話したの?」
そう、それだけが分からなかった。
俺と彼女には何の接点もない。
呪法なんて知らなかったし、ましてや魔法でさえ何も知らない、そんな俺になぜ彼女はこんな重大な事を話してくれたのか。
「あなた、謝ってくれたじゃない。」
「え?」
「いや、あの時あなた、私が泣いちゃったこと、謝ってくれたじゃない。あれ、結構嬉しかったの。いつもは異端者なんて呼ばれて追いかけ回されるか、怯えられて逃げられちゃうかの2つだったから。この人は私の話をちゃんと聞いてくれるかもって。」
「それ・・・だけ?」
「それだけ。」
それだけ。
ただ、それだけ。
「・・・ぷっあっはははははははは!!!!」
「なっなによ!別にいいじゃない!嬉しかったのは本当なんだから!!」
思わず吹き出してしまった。
けれど仕方ないだろう。
あの時俺、あんたに怯えてたんだぜ?
殺されると思ってたんだぜ?
それが嬉しかった?
可笑しいにも程があるよ。
そんな事聞いたら、助けてやりたくなるじゃないか。
「そっそれで、あなたにはこんなフール家の重大な秘密をしってしまった責任が・・・!」
俺はひとしきり笑うと呼吸を整えてその言葉を遮るように言う。
「あーもういいや。敬語で話すのも面倒くさくなったわ。」
今まで被っていた猫を脱ぎ捨てる。
「それで?そんな重要な事を聞いちゃったからには、俺はあんたの言うことに従わないと殺されちゃうんだろーなー。死にたくないから言うことを聞くのはしょうがないもんなー。」
我ながらなんて棒演技、しかしこれでいい。
今は、今だけは、この演技で正解なのだ。
「そっそう!あなたは私の言うことを聞くしかないの!いいわね!」
「あーそうですねー。仕方ないですからー。それで?俺は何をすればいいんですか?」
答えなんて聞かなくても分かってる。
それでも会えて俺は聞いた。
あくまでもこれは無理やり言うことを聞いたことなのだから。
「あなたは、私の弟子になってくれませんか?」
「・・・なりたいです。」
・・・その言い方は、ずるい。
やっと弟子になれました。タイトル詐欺ですいません。このグロウとウィークの話は回想のように書こうかなと思ったのですが、あくまで2人の馴れ初めを書きたかったので今回、こういう形で書かせていただきました。次も出来次第なるべく早めに投稿しますのでよければ読んでくれると幸いです。