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死にたがりのサラリーマン  作者: コカトリス
2/3

中編

やばい、終わらなかった……。

死にたがりのサラリーマン


帰宅途中に一件のメールが俺の携帯に届いた。


『お仕事お疲れ様です。

今日の合コンの日取りについての連絡です。

場所 アルテラ

時間 十九時三十分頃

ps早めに来て下さい。』



と記されていた、倉本からのメールだ。

アルテラか、確か最近できたばかりの居酒屋だったけ?

味の方は結構美味しいとの評判なので少し楽しみだ。まぁ、女の子がいると言うだけでテンションは少し下がっているのだけれど。

「はぁ、仕方ない」

現在時刻は十八時二十三分。

確かここからアルテラまで歩いて十分とかからない筈だ。家に着いてから少し待てば丁度いい頃合いだろう。


自宅に着いた俺は、前日に買っておいたビールには手をつけず、テレビをつけ時間を潰すことにした。


柿ピーを一つ口に投げ入れ、ポリポリと食べた。

後引く辛味がとても上手い。

好物の一つだ。


さてと、そろそろいい時間帯だ。

時計を見ると十九時少し過ぎくらいだ。

今から歩いていけば十五分程度前には着けるだろう。

普段着では駄目だろうから少し高かった洋服を着ることにした。値段は覚えていないが、まあまあいい値段はしたものだ。

ささっと着替えを済ませ、錆びた扉を開け家を出た。


夏の終わりの今の時期にはもう蝉も鳴かない。

若干物悲しい気持ちをぐっと抑える。蛍光灯からちらほらと付き始める頃、あたりはほんのり薄暗くなって行く。

蛍光灯の周りには蛾が飛び回り鱗粉を降らす。



残暑のせいかまだ暑い夜道を、しっかりとした足取りで、早歩きに現場へと向かう。

数分ほど歩くとアルテラと書かれた看板が目に入る。

閑散な住宅街の下に位置するアルテラと呼ばれる居酒屋の玄関口には倉本と、一つ年下の牧田がいた。

二人ともタバコをふかし、携帯をいじっている。

「悪い、遅れた」

俺が声をかけると、二人ともチラリと俺を見ると、小さく手を振った。

「待ってましたよ! 遅かったじゃないですか」

「そんなことないだろ。時間にはまだ早い筈だろ?」

牧田はやれやれと首をふり、分かってないなーみたいな顔をした。

「秋宮さん、分かってないですね〜こういう時は作戦会議をするものなんですよ。そうですよね、倉本さん!」

べったりするように牧田は倉本に寄り添い、ツンツンと肩を突いた。

それを倉本は片手で払い、頭を抑えていた。

「牧田、それだとバイって勘違いされるぞ!

やめた方が身のためだ」

さっと身を引き、怯えるように震える牧田は、え? 何勘違いしてるんですか? キモい〜みたいな顔をして、その後に茶化すようにヘラヘラと笑った。

楽しそうで何よりだ……俺は心の中でそう呟くが、声には出さなかった……。


「おっ、そろそろ時間ですね。店の中に入りましょうか? 女の子たちも準備出来てるらしいので、あ、そういえば秋宮さん。お金ってどれくらい持って来ていますか?」


倉本さんに言われるがまま財布の中を見ると十万程度しか入っていなかった。

全額言うと何故か危なそうなので半額を伝えることにした。酔っ払ってしまって家に帰れなくなってしまったら大変なのもあるが。


「えっと、五万程度かな?」

「結構持ってきてますね。俺たちもそこそこは持ち合わせていますんで、仲良く割り勘で支払いましょうね」

店先で倉本はいう。


俺と牧田もそれに頷き、店の中へと入っていった。


お店の中は意外としっかりとした作だ。

テーブルが三つ、カウンター席が十三個と大きくはないがこじんまりとした雰囲気でとても落ち着けそうだ。

奥のテーブルに目をやれば、三人ばかり女の子たちが座っている。

誰も見たことがなく、まったく初対面だろう。


「ささ、行きますよ。秋宮さん。今夜は勝負です。誰がどの子を落とせるかのね」

若干キメ顔の倉本、そして、どこか落ち着かない牧田、そして、どうでもいいやという顔をした俺の三人トリオはいざ戦場にへと向かって行ったのであった……。





「では、軽く自己紹介から始めましょうか」

倉本幹事で開催された合コンパーティは恙無く勧められた。


女の子たちの名前は、次の通りだ。

一人目……宮崎薫

二人目……篠田麻里子

三人目……沖田真弓だ。


三人とも俺が務めている会社の受付嬢や、他部署の後輩や、同僚と言った所だ。

顔はまあまあで、性格もいいらしい。

あくまで、本人たちが言うにはではあるが。


自己紹介が俺の番になった。


「俺の名前は秋宮です。趣味とかは音楽鑑賞とか、映画を少し齧るくらいです」


俺が自己紹介を終えると、倉本が乾杯の音頭をとった。

「それで話はみなさん。今夜は呑んで、話して楽しみましょ!! それでは、乾杯!!」


それぞれ色々なカクテルやビール、焼酎などの器を当て合う。

飲み会の始まりだ!!


各々に趣味や、休日の過ごし方。

好きなタイプなどをはじめの頃話していたりもしたし、酒が進むと卑猥な話も出てくる。

途中席替えなんかもして皆で楽しんだ。

終わりがけ、最後の席替えだ。

俺の横にひとりの女の子が座った。

顔を赤くし、べろべろに酔った彼女は俺に抱きついてきた。甘い言葉で俺を誘惑する。俺は少しばかり酒に覚えがあり少し呑んだだけでは酒に呑まれない。唯一の取り柄といってもいい。

その後、合コンは解散し牧田と倉本にもそれぞれ女の子がついた。皆一様に酔っ払っていてお金を碌に出せそうになかったので仕方なく俺が金を出しておいた。無論、請求書は倉本の財布の中と俺が確認のために二つ切ってもらった。

「秋元さん〜い、今って〜彼女さんとか居るんですか?」

「いませんよ。出会いがなかなか……」

「じゃあ、私と付き合って見ませんか〜私、前から秋宮さんの事気になってたんですよ〜」


回らない呂律で必死に声を紡ぎ出し、彼女。沖田真弓は必死に言った。


このままの流れだとホテルに行ってしまいそうだ。それだけはなんとしても防がねばならない。なんというか自身の中の正義感というか抵抗感というか罪悪感みたいなものが俺を襲い、ホテルに行ってはならないと警報を頭の中で鳴らしていた。


「えっと、付き合って云々はさて置き。お家はどこですか?」

「えへへ、私の家は〜ここを左に曲がって突き当たりの家で〜っす」

ダメだ、完全に酔っていやがる。

彼女の肩に腕を回す。甘くて優しい匂いが鼻腔をくすぐる。劣情に身を任せたくなる衝動を感情で抑え込む。

風がなびけば、長くで黒い美しい髪が俺の頬を優しく撫でる。柔らかい肌は下半身を熱くする。けれど、俺の息子はピクリともしなかった。


家に着くと、妹さんだろうか? 真弓よりも一回り小さな女の子が玄関で待っていた。

その顔はまさに鬼の形相。後ろからは何かおぞましいものが見える気がした。

「うちの姉がご迷惑をお掛けしました。姉が何かそそをしませんでしたか? あ、現在進行形で迷惑かけてますね……ごめんなさい。普段は出来る女っぽく振る舞ってるんですけど、お酒を飲むとこう、壊れるというかなんというか〜」


慌てはためく妹さんをよそ目に、俺は真弓さんをとりあえず妹さんに渡し、そそくさと帰宅するのであった。

後ろから真弓さんの待って〜と言う声が聞こえてくるが

妹さんの「静かにしなさい。真夜中なんだから」という声にかき消され、家の中に引きずり込まれていくのを陰ながら見守った。

玄関をしめるとき、一瞬手を振られた気がしたが気のせいだとくくりつけその場を後にした。




翌る日、会社に着くや否や沖田さんが私のディスクに立っていた。


「あの、なんで昨日襲わなかったんですか?」

第一発声がそれか……頭がズキズキする。会社早退しようかな?

「あの、言っておきますけど。私そこそこ可愛いですし人気もあるんですよ!! それなのにお酒の勢いでドーンって何故行かなかったの? あり得ない。まぁ、誠実さは認めるけど……妹もそこらへんは一様褒めてたし……一概には無くは無いけど……もぅ、知らない!」


頬を膨らまし、沖田さんは自身の部署へと戻っていった。

倉本と牧田はと目を凝らすと、顔に包帯を巻いた倉本と欠席して居る牧田の事が書かれたプレートが前に出されていた。


聞き耳を立てると、どうやら倉本は夜の遊びをやろうとしてホテルに行ったのはいいが、相手の女性が酔いが覚めてしまい。正気に戻ったそうだ。あとは察してやろう。

続いて牧田の方は酔っ払って階段から転げ落ち今は病院で療養中とのこと……全治一週間ほどらしい。

全くあいつらは何をして居るのやら?

かくいう俺も朝っぱらから女子社員に罵声を浴びせられるというよくわからない罰を受けたばかりなので、あまり締まらないのはあまり触れないで欲しかった。


周りの同じ部署のやつからは、なぜか白い目で見られていた。

「な、なんだよ」

聞こえるようにそう言ってやると、最初から見てませんよみたいなそぶりで仕事をやり始めた。

まだ就業の鐘なってないんだけどな……。

そして、珍しく部長も来ていた。

部長も朝のやり取りが気になって居るらしく、チラチラと俺を見てくる。鬱陶しい……。

「はぁ、死にたい……」

憂鬱に思うこの気持ちを許してください……。





一通り仕事を終わらせ帰る準備をしていると、階段から猛烈なスピードで走ってくる一人の女性が視界に入った。

何かと思い、仕切りから顔を出してみれば沖田さんが泣きべそかきながら怒っている顔で、走ってきた。

え? 怖いんだけど……。


よくわからない恐怖にかられ、身を縮めていると……

「秋宮さん……今日の夜お時間空いてますでしょうか?」

ニコッと笑みを浮かべた沖田さんが俺の後ろにいた。

でも俺には喉元にナイフを突きつけられ脅されているようにも感じた。実際にはそんな事ないのだけど、それくらいの迫力が何故かあった。


「な、無いですよ……?」

その言葉を聞くと沖田さんは胸を撫で下ろし、落ち着いた表情で縮こまっている私に手を差し伸べた。その手を取ると逃げられまいというくらいの強い力で強引に引き寄せられた。


女の子って強いんだ……率直な感想感想としてはこれが一番しっくりくる。


辺りからは上司の生暖かい視線と、若手社員たちの呪いに満ちた表情で俺を見ていた。

沖田さんは普通にかわいい部類に入る女性だ。


どうでもいいけど。


その夜、俺と沖田さんは食事をした。

特にその日は何もなく、お互いに綺麗な体で帰っていった。なぜか沖田さんは不満げな顔をしていたが、特に気にせず俺は帰路に着いた。



次の日、俺は部長に呼び出しを食らった。

何事かと思えば、課長が昨日の晩に不正が発覚しクビになってしまうという報告だった。それになぜ俺が呼び出されたのかと聞けば、君が課長になってくれとのことらしい。

「本当にわたしなのですか?」

「あぁ、君でなければならない。それともほかに任せられる人材がこの課にいると思うのか?」

「倉本さんとか髙木さんなんかも私より勤めている年数が長いですし、それに成績だって優秀です」

「私もそれは知っているし尊重もしてやりたいのだが彼らには少し問題がある事を君は知っているはずだよ」


部長はそれだけ言い終えると、封筒を俺に手渡し席へと俺を案内してくださった……。


「皆、注目してくれ。今日から君たちの上司になる秋宮君だ。皆も知っているかと思うが前課長の前島君は罪を犯して今はここにいない……だから代わりと言ってはなんだが秋宮君を私は推薦した。皆も協力してくれ」


すると、周りから拍手が飛ぶ。

それを部長か抑え、「業務に戻るように」と促す。


すると皆は新しい上司に戸惑っているのか、それともウキウキしているのか分からないが、小声で何か言っているようにも聞こえた。


俺は新しい席に着く。

ここから見る景色はこんなのだったのか……。

全員の顔がしっかりと見える。やる気に満ちたもの気怠そうに画面を見るもの。さまざまな人達がここで働いている。

勤めて五年……昇進には少し早い気もするが良い経過だろう……。



だけど、目の前に溜まっていく書類を俺はただ眺めていた。つまらない……はぁ、死にたい。



初めてで慣れない仕事をしたせいか、クタクタだ。

肩を回し、ディスクでくつろいでいるとドタドタと走ってくる音が聞こえた。


「またか……」

ため息交じりで肩を落とす。

社員達はまたかと見向きもしなくなった。

それでも相変わらず呪う〜呪ってやる〜みたいな声は聞こえた。


彼女に連れられるまま、帰宅する。

何故か今日は階段で帰りたいとせがむ沖田さんは、俺の裾をつまみ、テクテクと階段を降りて行く。俺もそれに負けじと、と言うか少しでも遅れたらこけてしまいそうだったからだ……。



三階程降りたところで体力の限界が近づいてきた。吐く息もゼェゼェと荒くなる。一方沖田さんは息一つ乱さず楽しそうに階段を降りている。

年の差?

そう考えてしまうのも仕方ないだろう……。


ゴールデンウィークの後半に次出します。

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