72.聖子 兄弟は肉親のはじまり
茨城県鉾田市。ここに来るのは何度目だろう。初めて来たときはあの人もいた。
「ヒカリくん着いたよー」
ヒカリくんに声を掛ける。
「うん」
「お姉さんたち、大事なお話あるからちょっと待っててね」
私は話しながらチャイルドシートを外した。外すと流れ作業のように後部座席からヒカリくんを抱えて下ろした。すっかりこの作業にも慣れた気がする。
京極家。その玄関は前来たときより古びて見えた。ドアの塗装は所々はげ、屋根も経年劣化でヒビが入っている。
ヒカリくんの手を引いて玄関の前に立つとさすがに緊張した。人一人の人生が今日決まるのだ。当然だけれど適当には決められない。
まぁ、迷っていても仕方ない。決めなければ前に進めないしやるしかないだろう。
私は意を決して彼女の家のインターフォンを押した――。
「はーい」
玄関で待っているとルナちゃんの声と鍵が開く音が聞こえた。
玄関が開く。私の心音が早くなる。
「こんにちは」
「こんにちは……。遠くからありがとうございます」
ルナちゃんは不器用に笑うと私の右側のヒカリくんに目をやった。
「こんにちはヒカリくん」
「こんにちは……」
ヒカリくんも緊張しているらしく表情が固い。まぁ、全員ガチガチだとは思う。まるで政略結婚のお見合いみたいだ。
「とりあえず上がってください」
「うん……。お邪魔します」
ルナちゃんに促されてリビングに向かった。リビングの方から香ばしいコーヒーの香りがする。
「こんにちは……。先日はどうも」
リビングにはルナちゃんとよく似た女性が座っていた。よく似たを通り越して鏡のようだ。
「こんにちは。この前は急にすいませんでした」
「いや……。私こそ追い返すような真似して申し訳ないです」
ヘカテーさんはそう言うと頭を下げた。私も脊髄反射的に頭を下げる。
「とりあえず座ってください」
「う、うん。ありがとう」
テーブルに四人で座る。手前に私とヒカリくん、奥にルナちゃんとヘカテーさん。この組み合わせだ。
「さて……。単刀直入で申し訳ないですが、今日来たのはヒカリくんについてです」
私は話を切り出した。この切り出し方が正しいかどうか分からない。でもとってつけたような挨拶をする気にはなれなかった。どうあがいても結論を出さなければいけない。
「はい。実はもう答えは決めてます……」
私の直接的な切り出しに反応するようにルナちゃんが答えた。
「そう……。それで? どうするの?」
おそらく問い返した私の声は震えていたと思う。気を張ってこらえてはいるけれど、声帯がうまく機能してくれない。
そんな私の気持ちとは裏腹にルナちゃんは「私が引き取ります」ときっぱり答えた。きっぱりと。これ以上ないくらい宣言的に。
正直に言おう。そんな答えがはっきり返ってくるとは思ってもいなかった。お互いに意見を出し合い妥協点を見つける。そんな流れだと思っていた。
「そ……。そう」
それだけ返すと私は何も言えなくなってしまった。シンプルな答え。それだけがそこには残った。




