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67.裏月 ヘカテークラウン⑥

 つかの間の帰省。私は東京駅から高速バスに乗って茨城に帰ることにした。西浦さんも事情を話したら納得してくれたし、仕事のほうはどうにかなると思う。

 七星にはこのことは伝えなかった。あいつに話して高嶺家(母方の実家)に無用な心配を掛けたくはない。

 帰省のとき、ジュンが東京駅まで見送りに来てくれた。

「ジュン悪いね……。したら明日の夜には戻る」

「気にしなくていいよ。せっかくの帰省だから少しぐらいゆっくりしてね」

「ハハハ、ゆっくりできたらいいんだけどね……。とにかく話はつけてくるよ」

 私は彼にお礼を言うとそのまま帰省した――。

 高速バスの車中で私はガムを噛みながら景色を眺めた。東向島を過ぎ、小菅に向かう道は予想通り渋滞している。上京してみて思ったけど、都内の道路は茨城とは比較にならないくらいいつも混んでいる。高速道路も三郷まではだいたいの場合渋滞していた。

 三郷を過ぎるとバスは一気にスピードアップした。東京から千葉、そして茨城へ。県境をまたぐたびに景色が暗くなっていく。その様子は茨城がいかに田舎かを表しているようだ。別に茨城を悪く言いたいわけじゃない。むしろ、私は夜に暗くなるのが本来の姿だと思う。

 ヘッドホンから聞こえる『レイズ』の新曲は心地よかった。『レイズ』……。旧『アフロディーテ』の天敵。何年か前に、月子さんは『レイズ』をかなり意識しているような発言をしていた。今となってはもう関係ないけど、当時は『レイズ』が彼女の仮想敵だったのだ。

 『レイズ』は旧『アフロディーテ』のベーシスト、佐藤亨一の古巣だ。もっとも、それは彼らが高校生の頃の話なので、もう四半世紀は前の話なのだけれど。

 月子さんは『レイズ』のヴォーカルをいつも敵対視していた。何がそこまで月子さんを駆り立てたのかは分からないけど、彼女は『レイズ』のヴォーカル、三坂逢子が大嫌いだったのだ。

 三坂逢子はヴォーカルであると同時に、腕のいいベーシストだった。亨一さんほどじゃないにしても、プロとして充分通用するレベルだ。私も一回、彼女の演奏を見たけれど、ジュンよりは上手く感じた。まぁ、今現在はジュンと大差なくなった気もする。三坂さんの腕が落ちたわけではない。ジュンのレベルが上がったのだ。

 気が付くとバスは友部ジャンクションを越え、ひたちなか方面に向かっていた。もうすぐ降りる停留所だ。私はヘッドホンを外すと降りる準備を始めた。

 そろそろルナに連絡しておこう。今日は帰ると伝えてあるので、妹が停留所まで迎えにきてくれるはずだ。

 それからバスは10分ほど走って目的地へと辿り着いた。私は運転手に切符を渡しバスを降りた。水戸大洗インター停留所。国道に面してはいるけど、特に何もない場所だ。

 どうやらルナはまだ来ていないらしい。まぁ、実家からここまでは車で20分は掛かるので当然かもしれない。私はバス停近くの縁石に座るとマルボロに火をつけた。

 父親の葬式以来の茨城だ……。地元の空気を感じながら吸うタバコは最高に美味い。

 明日の夜には帰らなければいけないけど、私はその空気を楽しんだ。やっぱり私の故郷はここなんだと思う。

 やがてバス停に向かって、1台の軽自動車が走ってきた。見覚えの車体だ。

 私は立ち上がるとその軽自動車に歩み寄った。


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