66.聖子 青天の大雪
昼休み。私はスマホを眺めながら考え込んだ。これからルナちゃんに連絡しなければいけない。
いったい何て言ったらいいのだろう? ルナちゃんだって、ヘカテーさんと同じような反応をするのではないだろうか?
「ついてない」
私はそう呟いた。もちろん返事はない。
本当についていない。大切な上司は失うし、わけの分からない男に諭されるし踏んだり蹴ったりだ。
ヒカリくんは相変わらず実家にいる。すっかり父にも兄にも懐いてしまった。
どうしてものか……。私は頭を抱えた。
そんな気持ちを察したのか私のスマホの着信音が鳴った。
画面を見ると『京極月姫』と表示されている。私は心底驚き、思わずスマホを床に落としてしまった。
なぜルナちゃんから? そう思うと同時にいくつもの思考が私の頭の中を駆け巡る。
ああ……。そういうことか。私は納得するとスマホを拾い上げた。
「もしもし」
『もしもし、京極です。泉さんお久しぶりです』
ルナちゃんの声は少し緊張しているように聞こえた。震えているわけではない。声に固さがある。
「本当に久しぶり。変わりない?」
『ええ、お陰様で。伊瀬さんほんとうに残念です……』
どうやらルナちゃんは伊瀬さんの事件のことを知っているようだ。当然だろう。まぁ、ニュースで連日報道していたし、知らない方がおかしいかもしれない。
「ほんとにね……。彼の葬儀もしっかり終わってようやく落ち着き始めたよ」
『そうですか……。今度お線香上げさせて下さい。あの、それで今日は泉さんに聞きたいことがあって連絡しました』
「もしかしてお姉ちゃんから連絡来た?」
『はい……』
やはりか。どうやらヘカテーさんは昨日の段階で妹に連絡したらしい。
「そう……。あのねルナちゃん。本当はもっと早く連絡してあげるべきだったよね。ごめん。私どうしてもルナちゃんにこの話できなくて」
『いえ、別に泉さんが悪いわけではないので気にしないでください。あと姉が謝ってました』
「謝るのはこっちだよ。アポなしで急に来られたって困るのにね……」
思ったよりルナちゃんは落ち着いているようだ。相変わらず声は固かったけれど、話し方は冷静そのものだ。
『それで……。泉さんにお願いがありまして……。週末ご都合いいですか? 姉もこっち帰ってくるらしいのでちょっとお話したいんです。その……。私たちの弟について』
弟という言葉を話すときルナちゃんの声は一気に曇った。やはりそこは冷静になれないのだろう。
「ええ、もちろん。構わないわ。ヒカリくん……。あ、ルナちゃんたちの弟だけど。は連れてく? 私としてはどっちでもいいけど」
『はい! お願いします! これは私たちとその子の問題なので』
私は電話を切ると大きなため息を吐いた。望んではいない形だけど、とりあえず一歩前進だ。




