64.裏月 ヘカテークラウン⑤
「京極さん何かあった?」
三宅坂に差し掛かった辺りでジュンにそう尋ねられた。
「なんでそう思ったの?」
私は質問に質問で返す。別に気になったわけではない。これは聞いてくれるのかの確認だ。
「いやさ。今日、京極さんテンションいつもと違ったから。たぶんだけど、大志も気づいてたと思うよ」
敵わないな……。と私は思った。やっぱり大志にもジュンにも隠し事はできないらしい。
「うん。ちょっとやっかいなことがあった。仕事絡みじゃないんだ。ウチの家族の問題」
「家族? ルナちゃん絡み」
「まぁ……。半分合ってるかな」
いつも思うけど、ジュンはこういうとき人の話を聞くのが上手い。相づちが適度に軽く、心配などないんだという風に肯いてくれる。出会ったばかり頃は嫌だったこの感じも今となっては心地よく感じる。
私は事の顛末をジュンに話した。父親の死から昨日の泉刑事の一件、そしてルナに話した内容について。
「そうか……。それはなかなか大変だね」
「そうなんだよ……。私も悪いんだけどさ。昨日来た刑事さんと私の弟……。思い切り追い出しちゃったんだよね。今日になって反省してるよ」
「いやいや、それは仕方ないんじゃないの? 急に来られて『この子はあなたの弟です』って言われたらそれが普通だよ。でも……。まぁ、そうだね」
ジュンは言葉を濁す。私は車窓から見える青山の街を眺めた。旧『アフロディーテ』御用達のイタリアンレストランが見える。
「ぶっちゃけ今は子育てしたくはないんだよね。『バービナ』だって軌道に乗り始めたし、新メンバーのこともあるからさ。手が掛かるのは七星だけで充分。でもね……。さすがに赤の他人の泉さんや妹に面倒は掛けたくないんだー」
実に面倒臭く難しい問題だ。やっと振り切ったはずの父親の亡霊に追いかけられているような気分だった。子供には罪は無い。それは分かる。でも、感情的には認められなかった。
「どっちにしても」
ジュンは口を開いた。
「どっちにしてもだよ。一度、ルナちゃんとその刑事さんと話してみるべきだとは思うよ? ひと一人の人生が掛かった問題だからね。もし仕事で都合付けづらいようなら、俺が代わりにやるからさ!」
「うん……。ありがとう」
ジュンの言うとおりだ。逃げ回ってはいられない。これは私の……。そしてルナの問題なのだ。
ジュンは終始表情を変えなかった。楽観的にも悲観的にもならずに私の話を聞いてくれた。渋谷駅に近づく頃、私はある決心をした。
来秋、実家に帰ろうと思う。




