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59.月姫 大江山ワンダーランド③

 姉のLINEには『お疲れ! ちょっと話せる?』とだけ書かれていた。

 シンプルで用事を告げるだけの内容。

 私は『お疲れ様! 今高校の友達と一緒に出かけてるよ。急ぎ?』と返した。

「あれぇ? ルーちゃんもしかして彼氏?」

「違うよ。お姉から」

「あらら、タイムリーだね」

 もう一度スマホを確認すると『りょ! 用事済んだら連絡ちょうだい!』と来ていた。

 私はスマホをしまうとそのまま車を走らせた。

 鉾田市内は帰り車で少しだけ混んでいた。社名の入った営業車や土建屋のワンボックスで環状線は渋滞している。

「鉾田来んの久しぶりだねー。一高卒業してから一回も来てないもん」

「そだね。ま、私は仕事でここら辺にはたまに来るんだけどね」

「さすが役所勤めだね。あ、ほら一高生居るよ!」

 葵は環状線沿いのミニストップを指差した。

「ほんとだね。あの制服懐かしいな……」

 ミニストップで一高生が数人たむろしている。見慣れた白い襟のセーラー服姿だ。

「あーあ、ウチらも歳を取るわけだね……。ルーちゃんはいい人とか居ないの?」

「いないね」

 私は喰い気味に答えた。この質問をされるといつもこうなってしまう。

「なんだよー。ルーちゃんっていつも浮いた話ないじゃん! そろそろ彼氏ぐらい作ったら?」

 彼氏を作る? 製造業じゃないので作れません。と思った。

 もちろん口には出さない。

 渋滞を抜けるとすぐにココスに辿り着いた。夕食の時間帯のせいか駐車場は車でいっぱいだ。

「よーし! 久々に食うぞー」

 葵はなぜか腕まくりした。

「外食久しぶりだよ。いつも自炊だからさ。あ、その前にお姉に連絡しちゃってもいい?」

「うん! じゃあ私先に店入ってんねー」

 そう言うと葵はファミレスに入っていった。

 私はスマホで姉に電話を掛けた。

『もしもし! ごめんね。忙しいのに』

「大丈夫だよー! どうしたの?」

『いやさ……。何て言ったらいいかな……』

 電話口で姉は言いよどんだ。

「何? 何かあったの?」

『ルナ……。驚かないで聞いてね……』

 こういう語り口で話すとき、だいたい姉はろくな話はしない……。

「うん……。驚くだろうけど教えて」

 姉は私の返答に『フッ』と笑うと話を聞かせてくれた――。

 姉の話は私の斜め上だった。

『……つーわけで、親父に隠し子がいたっぽいんだ。いきなりこの前の刑事が来て聞かされたからマジでビビったよ』

 ビビるのはこっちのほうだ。と私は思った。

「そう……なんだ」

『うん。ルナ大丈夫?』

「うん。ぜんぜんだいじょばない」

『だよね……。ま、今すぐどうこうしろって話ではないけどそのうちその刑事……。泉さんだっけ? に連絡してやってくれない? その子引き取るなり、受け入れないなり返事はしてあげないとまずいかんね』

 本当にだいじょばなかった。父さんに交際相手がいただけでも驚愕なのに腹違いの弟なんてどうかしてると思う。

「わ……かったよ。あとで泉さんには連絡しとく。あとさ……。週末上京するからちょっと話し合えないかな? さすがに私1人じゃ決めらんないよ」

『りょうかい……。じゃあさ! 土曜の夕方でも大丈夫? その日はウチにいるからさ』

 私は「うん」とだけ答えて電話を切った。

 電話を切ると私は完全に放心状態だった。姉の言ったことが嘘のように思えた。

 でも姉から『うっそだよーん』とか連絡は来なかった。残念だけれど。

「マジか……」

 私は独り言のように呟くと頭を抱えた……。

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