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4.月姫 ウサギとカメのデットヒート②

 父の死を聞いた私は千葉県警の刑事2人に連れられて、千葉県警銚子警察署まで来ていた。警察署に着くと泉さんが霊安室へと案内してくれた。

霊安室に向かう道は恐ろしく静かで、その空間自体が死に飲み込まれているようだった。

「京極さんだいじょうぶ? ここまで来て貰ってこんなこと言うのも可笑しいけど……」

「大丈夫です! ご心配おかけしてすいません……」

 泉さんは私に優しく笑いかけると「ごめんね」と申し訳なさそうに言った。別に彼女が悪いことした訳じゃないのに……。

 泉さんは一見ぶっきらぼうに見えるけど、実は繊細で思いやりがある人なのだろう。私の家まで迎えに来てくれたときも、車で移動しているときもずっと私を気遣うように声を掛けてくれた。

 霊安室にたどり着くと彼女は、息を大きく吸って霊安室の扉を開いた。「ギィー」というあまりにも鈍く、気持ちの悪い音が鳴る。

 霊安室には保健室にあるような簡易的なベッドがあり、枕元には刑事ドラマで見るような香炉が用意してあった。香炉から立ち上る煙はあまりにも呆気なく換気扇に吸い込まれていく。死を悼む香でさえあっという間に換気されてしまうようだ。

 ベッドの上には成人男性らしいシルエットが横たわっていた。顔の上に白い布が掛けられ、ピクリとも動こうとしない。

「それじゃ……。京極さん、本人確認のため顔を見て貰いますね。本当に大丈夫?」

 私は泉さんのその問いに首をゆっくりと縦に振って応えた。

 白い布が捲られるとそこには青ざめた男の顔があった。無精ひげを生やし、髪は白髪混じりで針のように尖っている。表情は穏やかで少し口元は笑っているように見えた。

 京極大輔。変わり果てていたが、確かに私の父親だ。

「どうかな? お父さんに間違いない?」

「……。ええ……。間違いありません。父です……」

 私はそう口にしたものの、まるで他人事のようだった。

 3年間……。そう3年間だ! 私は探し続けてきたはずだった。ずっと見つからずに探し続けてきた父親が目の前に居るのに全く感情が動かなかった。

「そう……。正直ね私、もし間違いだったら良かったのにとか思ってたんだー。だって京極さんみたいに素直でまっすぐな女の子がこんな……。酷いことに……」

「泉さん……。私は大丈夫です。多分ちょっと前から覚悟できてたんです。だから気にしないで下さい」

 それから私は泉刑事に案内されて、今後の手続きについて説明して貰った。彼女は事務作業が慣れているのか、段取りよく私に父の遺体の引き渡しについて説明してくれた。

「うん! ありがとう京極さん! これで手続き自体は終わりだよ! したらねー。どうしようか? 今から茨城まで送っていく?」

「えっと……。泉さん……。その前にちょっと寄りたい場所が……」


 私は泉さんに無理を言って父の遺体が発見された場所へと向かうことにした。自分で行こうと思ったけど、泉さんの好意で一緒に連れて行ってもらえることになった。

 移動の車中、私は自分の気持ちの置き場が見つからずに居た。

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