48.聖子 逢いたいが病、見たいも病
伊瀬君は刑事の素質があるようだ。
彼はその映像からそれが誰かをあっという間に割り出したのだ。
「住所特定完了……と。したら行くか?」
「行くって……。その人んちに?」
「そうだよ! それ以外ねーだろ?」
私は彼の行動力に感心せざる得なかった。
いくら大切な先輩のためとは言ってもそこまでするのはどうかと思う。
「いいけどさ……。でも行ってどうすんの?」
「は? 会って真相確かめるに決まってんだろ!」
伊瀬君は正義感丸出しでそう言うと「お前も来い」と半ば強引に言った。
どうやら私の意思は関係ないらしい。
マジでいい加減にして欲しかった……。けど、私も行くしかないと思った。
その映像に映っていた男はどうやら私とは他校の生徒らしい。
伊瀬君情報だと名前は斑井健吾。
斑井と聞いて私はある人物が頭に浮かんだ。
たしか、銚子市の市長がそんな名字だった気がする……。
「斑井って変わった名字だよね……。市長以外で聞いたことないよ?」
「ああ、ってかこの男は市長の息子だよ。かなり珍しい名字だったから調べてみたらドンピシャだった」
「へ? そうなの? ってことは今から行くのは……」
「ああ、市長の自宅だよ」
本当に勘弁だ。何が悲しくて市長の邸宅に突撃しなければ行けないのだろう……。
私たちはその足で市長の自宅に向かう。
「はぁ……。やっぱ帰らない?」
「は? なんだよ今更!?」
「だって……」
だって……。どう考えてもおかしいと思う。
高校生がいきなり市長宅に行くなんて普通じゃない。
しかし伊瀬君は私の意見を聞こうとはしなかった。
その時、私はこの男が最高に面倒くさい男だと初めて感じた。
私の意見などどうでも良いのだ。
あくまで大事なのは自分の意思と気持ち――。
市長の邸宅は思っていたよりはるかに立派だった。
もともと彼は市内の醤油工場の経営者で、金には困っていなかったのだろう。
豪邸……。とまで行かないまでもその建物は明らかに一般的住宅とは違う。
「はへー。やっぱ市長っていい家に住んでんだねー」
「だな……」
伊瀬君はそのままその邸宅のインターフォンを押した。
『はい! どちら様でしょうか?』
インターフォンから上品な女性の声が返ってきた。
「あの! 僕たち健吾さんと同じ塾の友達なんですが……」
『はい……』
「今健吾さん居ますか?」
『えーと……。まだ帰っていません。ご用件あれば言付けておきますが……』
彼女の言葉は丁寧だが、どことなく棘があるように聞こえた。
「そうですか……。では、設楽さんのことだとお伝え下さい。それだけ言って頂ければ分かると思いますので!」
その後、少しだけインターフォン越しに彼は会話していた。
「では……。失礼します」
伊瀬君はそれだけ言うと踵を返す。
「居ないんじゃ仕方ないよね……。あーあ、行き止まりかぁ」
「いや……。たぶん何かしら動きがあると思うぞ」
動き? 私は伊瀬君の言っている言葉の意味が理解できなかった。
伊瀬君はいったい何を企んでいるのだろう?
この男の考えは今ひとつ理解できない……。
数日後、伊瀬君から電話が掛かってきた。
「聖子ー! 伊瀬君から電話だよ!」
兄は通話口を手で押さえながら私に叫んだ。
「はいはい」
「ずっと前から好きでした。結婚を前提に付き合ってほしいってさ」
「はいはい……。冗談は顔だけにしてくれる?」
私は兄のつまらない冗談に苦笑しながら受話器を受け取る。
『お疲れ泉さん! 動きあったぞ』
私が代わるなり伊瀬君は単刀直入に言った。
「動き? ああ、礼の市長の息子の?」
『ああ、あっちから話があるって連絡あったんだ』
話がある……。いったい何なのだろう?
「そう……。私も行った方が良い感じ?」
『あたりめーだろ?』
やれやれだ。ズブズブにこの案件に巻き込まれてしまったらしい。
彼は場所と日時を私に矢継ぎ早に伝えると最後に「遅刻すんなよ!」と言って電話を切った――。
果たしてこれで何か分かるのだろうか?
徒労に終わるだけの気もする。
翌々日。私たちは指定されたファーストフード店へ向かった……。




