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33.聖子 光陰弾のごとし

 伊瀬さんの葬儀の晩、私は長い夢を見た。

 その夢は現実を思い返すようなリアルな夢で、それが夢だと言うことに気づけなかった……。

 まぁ明晰夢を見ることの方が稀なのでそれは普通な事なのかもしれない。


 私は初夏の学校のプールサイドに腰掛けていた。

「聖子ー! デッキブラシ取ってー!」

「あいよー」

 私は飛び込み台に立て掛けてあるデッキブラシを手に取ると蓮子のところまで持って行った。

 設楽蓮子。

 彼女は私と腐れ縁の女の子だ。

 小学校時代からの付き合いで本当の親友だと思う。

 彼女とは趣味嗜好も合っていた。

 アーティストや好みや好きな食べ物なんかも近かったのだ。

 あまりに近すぎて居るのが当然な存在だったと思う。

「聖子あんまサボんないでよ! また先生に怒られるよ?」

「わぁーってるって! 上手いことサボるから大丈夫だよ!」

 プール掃除させられていたのにはそれなりの理由があった。

「あーあ……。だからニケツは嫌だったんだよ……。あんたあいつらが無免だって知ってたんでしょ?」

「知ってたよ! でもまさかあそこでマッポが張ってるなんて知らなかったんだよ……。マジ迂闊だった……」

 プール掃除の理由はこれだ。

 先週末、私たちは近所の夏祭りに男と一緒に出かけて運悪く補導されていた。

 男たちは無免許だと言うのに(私は知っていたけど)原付に乗り、さらに私たちを後ろに乗せたのだ。

 言うまでも無いことだけれど、原付での2人乗りは交通違反だ。

 まぁ、無免許なのでどっちにしても違反なのだけれど。

 結果として親と学校に連絡が行き、私たちはお仕置きを受ける羽目になってしまったのだ。

 考えようによっては校内の清掃程度で済んで良かったのかもしれないけれど……。

「あーあ、マジでついてねー! ウチの親にもエライ怒られたしさー」

「ねー……。ま、お巡りさんも初犯だからって大目に見てくれたから良かったけどさ」

「でもさ! 親と学校に連絡することなくね!? ひでーよね!」

 私が悪態を吐くと蓮子は「まぁまぁ」と私を宥めた。

 蓮子は私よりずっと真面目だったんだとは思う。

 勉強も私より出来たし、校則だって基本的には守っていたのだ。

「じゃ、ちゃっちゃと終わらしちゃおうか!」

 私は立ち上がると蓮子と一緒にプール全体にデッキブラシを掛け始めた。

 プールサイドは普段の掃除が適当なのか、水垢と苔が大量に着いてる。

 私たちはホースで水を流し流しながらデッキブラシを力一杯掛けた。

 マジでたるい。

「蓮子んちのママ何か言ってた?」

「別にー。『これからはそんなことしないでね!』って言われただけだよ」

「いーなー。ウチの親父は帰る度文句言うよ。マジ勘弁」

 蓮子の両親は理解がある人だった。

 まぁ実際、彼女の普段の素行は良かったし、私が無理に誘わなければ今回のような違反はしなかっただろう。

 そう考えると私が酷い悪ガキな気もする……。

 小一時間デッキブラシを掛けるとプールサイドは見違える程綺麗になった。

「やったー! これで終わりー!」

「だねー。あとは今日の分の反省文書いて明日草むしりしたら終わりだね!」

 本当に嫌になる。

 文才の無い私にとって反省文は掃除以上に苦痛な作業だ。

「蓮子は良いよねー! 文才あっからさー。私マジアレ苦痛なんだけど」

「400字だけなんだからそこは頑張ろうよ……。聖子だって進学すんなら作文ぐらい書けないとマズいでしょ?」

「う……。それを言われると……」

 実際、私は進学希望なのでそれを言われるとぐうの音も出ない。

「じゃあ職員室行こうか? 先生に作文用紙貰ってこよう」

「だね……」

 諦めた私は蓮子と一緒に職員室に向かった……。


 高三の夏休み前、私と蓮子はそんな軽い非行に走っていたのだ。

 学校の評価としては、私が蓮子を唆したという事になっていたのだろうけれど……。

 でも、それ以外は割と普通だったし、本当に平凡に青春を楽しんでいた気がする。

 本当に楽しかったし、蓮子と夏休みの予定も山のように立てた。

 私と違って国立大学志望の蓮子は夏期講習が入っていたらしいけれど、それでもどうにか予定を調整してくれた。

 でも……。

 蓮子に夏休みが訪れることはなかった。


 彼女の溺死体が発見されたのは犬吠埼だった。

 私は蓮子の死に顔を見た訳ではないけれど、聞いた話だと相当酷い状態だったらしい。

 その話を担任から聞いた時、私はあまりにも非現実すぎて理解が追いつかなかった。

 実の兄弟以上に近しい人の死は、死として理解できないのかもしれない……。

 当然葬儀にも参列したし、彼女の両親にも挨拶した。

 それでも私は彼女の死を受け入れる事が出来なかったのだ。


 思い返せばその頃から私の周りには死が満ち始めていた。

 そしてこの死がきっかけであの男と出会うことになる……。

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