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19.聖子 孝行したいときに兄はあり

 私はヒカリ君のことをどうしようか悩んでいた。

 実家にはまだ何の相談もしていない。

 父は果たして急に子供を連れ込むと言ったら何て言うだろうか?

 どっちに転ぶか考えると私は余計頭が痛くなった。

 あの親父のことだからあまり良い顔はしないかもしれない……。

 とりあえず兄に話してみよう……。

 私はダメ元で兄貴にこの件の相談をすることにした。

 あの人なら少なくとも相談には乗ってはくれるだろう……。


「あー、お兄ちゃんひさしぶりー」

 私は軽い感じで実家を訪れた。

 兄は顔を黒くしながら配管の準備をしている。

「おかえり! どうした急に?」

「ちょっとお兄ちゃんの顔見たくてねー! 一服したら?」

 さすがの私もヒカリ君のことを単刀直入には聞けない。

 兄だって仕事に追われているのだ。

 急に「子供を預かって欲しい」なんて言われたら困惑するだろう。

「おー! したっけお茶にっすか」

 事務所に入ると古株事務員の益子さんがが爪にマニキュアを塗っていた。

 どうやら仕事が暇らしい。

「聖子ちゃんひさしぶりー。最近見なかったからどうしてるかと思ったよー」

 私は彼女に愛想笑いしてから奥の給湯室へと向かった。

 この事務所は業績が良かった頃に建てた物で設備がしっかりしていた。

 正直な話、ここまで立派な物はいらない気もする。

 お茶を用意して事務所に持って行く。

 勝手知ったる我が家なので適当にお茶菓子も用意した。

「あらー、聖子ちゃん悪いわねー。私がやんなきゃいけないのにー」

「ああ、いいよ。気にしないで! 爪まだ乾いてないっしょ?」

 益子さんは手をパタパタ振っている最中だ。

 マニキュアはまだ乾いてはいないようだ。

「社長出かけちゃってるのよー。たぶん夜までもどらないんじゃないかなー?」

「なーに? また飲み屋?」

「さぁ?」

 親父のことだから仕事の帰りに飲んで帰るつもりなのだろう。

「最近景気どうよ?」

「あんまり良くないかなー? 社長も営業活動に必死よ」

 益子さんの話だとあまり景気は良くないらしい。

 彼女の事務作業も片づいてしまったようで暇を持て余していた。

「聖子ちゃんは最近どうなのー? お巡りさん大変でしょ?」

「んー……。ま、こっちはぼちぼちかなー。今は年新の犬吠の土左衛門のこと調べてるんだー」

「あれかー、2週間くらい前にけっこう騒いでた奴ね」

 私と益子さんが世間話をしている横で兄は黙ってお茶を飲んでいる。

 兄の性格を考えると女通しの会話にあまり入りたくはないのだろう。

「専務ー? 今日は定時で上がって良いよね?」

「いいですよ。社長も帰ってくる気配ないし時間になったら上がってください」

 兄は父の工務店で専務取締役をしていた。

 専務兼作業員件営業部長。

 いかにも家族でやっている零細企業って感じだと思う。

「聖子ー? 今日は家で飯食ってくかぁー?」

「そだねー。そうしようかなー……」

「じゃあ飯作ってくれっか? 俺は工場閉めてくっからさ」

 どうやら兄は私の様子に何か察したようだ。

 親父も帰ってこないし、事務員も早々に帰そうとしている……。


 益子さんが帰ってから私は夕飯の支度を始めた。

 実家で料理するのは本当に久しぶりだ。

 というより料理自体しばらくしていない。

「カレーでいい?」

「おぉ! 聖子のカレー久しぶりだなー」

 私が野菜を刻んでいる間に兄はご飯の準備をしてくれた。

 女手のない家庭なので兄の手つきは慣れている。

「会社大丈夫なの?」

 私は刻んだタマネギを鍋で炒めながら兄に尋ねた。

「悪くはないよ。一応来月には大口の注文入ってるし」

「へー……。ならいいけどさ! そういえばババアたまに来んの?」

「しばらく見てないなー……。一昨日電話はあったけど」

 ババア……。もとい私の母は時々実家に顔を出しているようだ。

 元旦那はともかく、息子は可愛いのだろう。

「どうせ金の無心でしょ?」

「ああ……。そんな感じだよ」

 本当にうんざりだ。

 あの女は離婚後も父に集ってる。

「まったく! 気に入んねーよね! 自業自得なのに金がなくなると集るなんて最悪!」

「あんまり母さんのこと悪く言うなよ……。あの人だって生活大変みたいだしさ」

 母を庇う兄の言葉を私は無視した。

 このまま会話を続けても口論になるだろう。

 私が黙っていると兄は困った顔をして苦笑いを浮かべた。

「お前は仕事上手くいってんのか?」

「忙しい……。かな……。ちょっと面倒なヤマ抱えてるけど、まぁ何とかね……」

 兄は「そうか」とだけ言ってそれ以上は何も聞こうとはしない。

 鍋で肉と野菜を炒めてカレー粉を投入する。

 カレー色に染まった鍋からは食欲をそそる香りが立ち上っていた。

「したらご飯用意してー」

 兄はカレー皿にご飯を盛り付けてくれた。

 几帳面に片側だけ半月状に白米が盛られている。

 私は兄が盛り付けたご飯の横にカレーを盛り付けた。

「おぉ! めっちゃ美味そう!」

「久しぶりだったけどちゃんと料理覚えてて良かったよ。カレーなんて誰でも出来っけどさ……」

「言うな言うな! したら飯にしよう!」

 久しぶりの兄との夕食。

 私と兄はカレーを目の前に手を合わせた。

 本当に昔みたいに……。

「いただきます!」


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