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プロローグ

前作から3年後……。京極月姫は町役場に就職して忙しい毎日を送っていた。

その頃ルナは毎晩見る「失われた母」の夢に悩まされていた。

そんなある日、ルナの元に不幸の知らせが届く……。

 私は夢を見ていた。

 記憶にない母の夢……。

「おかぁさぁん、お本読んでぇ」

 私は母に絵本を読んで貰えるようにせがんだ。

「はいはい! ルーちゃんは本当に絵本が大好きね!」

「うん! ルーちゃん絵本大好きぃー。おかぁさんにいっぱいよんでもらいたいのー」

「ウフフ……、じゃあ今日はこの絵本を読んであげるねー」

 母はそう言うと本棚から1冊の絵本を取り出して私の横に寝転んだ。

「昔々、あるところに……」

 母は一寸法師の絵本を穏やかな声で読み聞かせてくれた……。

 母の声を聞いていると私はお話の国に本当に居るような気持ちになれた。

 そして、声は段々と遠くなっていき私は夢の中へと落ちてく……。

 夢の中にあるさらなる夢の国へと……。

 

 カーテンから差し込む日差しが眩しい……。

 目覚まし時計を見るともうすぐ7時を回ろうとしていた。

 私はベッドから起き上がり大きく背伸びをした。今日も忙しい1日が始まる。

 洗面所まで行って洗顔と歯磨きを済ませると鏡を覗き込んだ。

 洗面所の鏡に写る私の顔には薄らとクマが出来ている。

 ここ最近は残業続きで疲れが溜まっているのでそれが原因だろう。

 今日こそは早めに寝た方が良さそうだ……。

 ダイニングまで行って朝食の準備をする。

 冷蔵庫からベーコンと卵、フードストックから食パンを取り出して簡単に調理した。

 規則正しいルーティンワーク。

 毎朝、朝食を食べながらニュースを見るのが私の日課になっていた。

 テレビには今日の星占いランキングが映し出されている。

 蠍座は残念ながら最下位。サイアクダ。(私は10月24日産まれの蠍座だった)

 気を取り直してジャージから仕事着に着替える。

 ストッキングとスカートを履いて、仕事着にしているブラウスのボタンを締める。

 着替え終わる頃にはすっかり仕事モードに切り替えることが出来た。

 蠍座の順位が上がるわけではないけれど気持ちが少し軽くなるような気がした。

 私は襟を直すために自室の姿見の前に立つ。

 鏡に写る私の姿は高校時代に比べると少し老けたように見えた。あの頃はもっと幼い顔をしていたし表情も豊かだった気がする。

 社会人になってから慌ただしすぎて、着ている服のパターンも偏りがちだ。

 もっと素敵な大人になりたかったのに……と反省。

 今度の休みにでも春物の服を買ってこよう。

 私は高校を卒業すると地元の町役場に就職した。

 残業はあるものの、やはり公務員は安定していると思う。

 家族が居ない私にとってお金を稼ぐのは死活問題だったし、通勤が楽でそれなりの給料を貰える環境はありがたかった。

 母は私が幼い頃蒸発し、父も3年前に書き置き1枚と私名義の通帳を残して蒸発していた。

 双子の姉は居るけれど、彼女は地元を離れて東京でバンド活動をしている。

 東京に居る姉は小まめに私に近況報告してくれていた。

 姉としても私の事が心配なようで、帰省するときは大量に食料品を買ってきくれた。

 私としてもそんな姉の気遣いが嬉しかったし、少しだけ申し訳なく思っていた。姉は私に弱みなど見せないけど辛いだってこともたくさんあると思う……。。

 姉は実家に居た頃、父と仲が悪かった。

 はっきり言って最悪の父子だったと思う。

 2人は毎日のように口論していたし、父が苛立って手を上げることもあった。

 姉は間違いなく父が嫌いだったと思う。もっと強く言えば憎んでいたはずだ。

 それでも彼女は私のために蒸発した父を一緒に探してくれた。

 姉は普段自由人のように好き勝手生きているように見える。

 バンド活動をしたり、飲み会したり、話を聞いているといつも遊んでいるようだった。

 でも本当は人一倍気を使う人間なんだと思う……。

 良くも悪くも姉は不器用な人なのだ。

 身支度を調えると私は庭に停めてある車へ向かった。

 車のセルを回しながら見た庭の桜の樹は丸裸で冬らしい姿をしている。

 町役場は家から歩いても30分くらいの場所にあった。車なら10分くらいで着くと思う。

 短い通勤時間の中、私は母の夢について思い出していた。

 記憶にないはずの母の夢……。

 不思議なことに私には3歳より前の記憶がほとんど残っていなかった。

 だから母のことは顔さえほとんど覚えていない。

 それでも夢で見た母は、肌の質感や髪質までかなりリアルな物だった……。

 優しい母の夢は私の疲れた心を軽くしてくれ、同時に少し悲しい気持ちにもさせた。

 自分でも思い出したいのか忘れていたいのか判断しかねる。

「お母さん……」

 私はハンドルを持ちながら、消えてしまった母の名前を呼んだ。

 当然、返事はない。

 分かってはいるのだ。もう決して戻らないことは……。

 出勤すると他の職員に挨拶した。

 昨日まで大きな仕事が片付かないと騒いでいた男性陣も今日は気持ちに余裕があるらしい。

 どうやら難しい案件は無事解消されたようで、その日の役場の雰囲気はとても穏やかだった。

 上司に話を聞いた感じだと今日はさほど忙しくないらしい。

 ここ最近はずっとみんなピリピリしていたけれど今日は穏やかだった。

 冗談を言い合いながら仕事を気がつけば定時だ。

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様ー! 京極さん今日ぐらいはゆっくり休みなね!」

 先輩職員は私を気遣って優しい言葉を掛けてくれた。

「ありがとうございます……。今日はゆっくり休みます」

 私は先輩に頭を下げるとそのままタイムカードを切った。

 定時に上がれるのは本当に久しぶりだ。

 今日は家に帰ったらゆっくり寝ようと思う……。

 しかし、その日はゆっくりと眠ることなど出来なかった。

 2人の男女が私の日常を壊しにやってきたのだ。

 そして私にとってとても大切な4つの物語と4つの死が始まろうとしていた――。

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