三行詩 Ⅰ
〈霧中〉
貴方がこの世にいたという
事実が何よりも愛しい
また夢の中で会いに来ておくれ
〈夜消〉
夜が来るのを恐ろしく
感じたとき
私は死ぬでしょう
〈むなしさ〉
一糸纏わぬ其の素肌
虚しさだけが闇を孕めり
白薔薇の 造花の花弁
〈死人〉
誰かが詩人を死人と言った
詩を死と書いて笑っていた
詩人は死んではいない生人だ
〈約束の場所はもうない〉
若草色の森が太陽を受けて
銀にちらちらと輝く
昔あなたと約束していた場所だ
〈non title〉
昼の陽射しが焼き付いた
放課後の黒板に
チョークで描いた落書きがあった
〈ネタバレ〉
好きなフリゲの実況
大量に雪崩れるコメントで
その後の結末を知った日曜の午後
〈心中〉
赤紐を固く結んで
恋人の柔らかい唇に
口付けす 夜明けは直ぐそこ
〈Y.H〉
怨恨などない
貴方が愛した人だからそんなものはないけれど
少しでも近付こうという努力はしている
〈心象吐露〉
詩を書くことは人間らしくなること
薄汚れた奇麗事無しで
言葉で紡ぐ結晶を吐き出すことが詩
〈蛸〉
嗚呼 葛飾北斎
富士だけではなく
蛸と女の春画も嗜んでいたとは
〈場所代われ〉
場所代われ
言ったら代わりそうなので
そのままで良いと言っておく




