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鬼さん
人間の小娘に一目惚れし
小歌をうたい 言い寄ったおれ
小娘はおれを見るなり
「鬼、嗚呼。お助けください」
と袖で顔を隠し怖がった
上手くいかないので
とうとう悲しくなって泣いたおれ
小娘はおれの様子を伺って
ぼろぼろ溢れた
大粒の涙を袖で拭き
こちらに微笑んで見せた
なんでも 小娘の連れの男は
出雲大社へ出かけたそうで
ここ数日は帰って来ないらしい
おれは小娘と寂しさを紛らすべく
豆を拾って食べるために
蓬莱の島から来たことを明かした
会話の最中
全く気が付かなかったが
隠れ蓑が無くなっていることに気付いた
小娘に聞いてみるも うんともすんとも云わない
隠れ蓑だけでなく隠れ笠と
打ち出の小槌も消えていた
このままでは蓬莱の島に帰れない
浮いた存在になると百も承知だった
おれは小娘に隠れ蓑の居場所を聞いた
小娘の背中には隠れ蓑
隠れ笠と打ち出の小槌があった
アパートの駐車場に撒かれた豆のあと




