ネイルの入った標本箱
大掃除で
過去の先輩の作品を見た
授業作品で作った
プレゼントカードや啓発ポスター
先生を模した紙粘土の人形は
誕生日に貰ったそう
なのに先生はそんな先輩方との思い出を
手に取るなりすぐごみ袋に捨てた
もう少し見てからにしませんか
堪らず私が声を掛けると
先生はそうだなと笑い
写真を眺め
ごみ袋の中の要らない額縁に
そっと写真を置いた
後輩と同級生とで
その写真を覗き込むと
お下げ髪の大人っぽい先輩方が
先生を囲むようにして
ピースサインで映っていた
先生ニヤけてるねと
私達は笑い合ったが
内心 先生に疑問を感じていた
それぞれの分担場所に戻り
先輩方が作ったものを
会話も交えて片付けていると
埃だらけの標本箱が出てきた
中身は何だろう
埃を払い箱を開けると
当時の空気が漏れて
窓の外へ消えていった
一瞬の出来事だった
灰色の厚紙を取ると
ピンクと白の下地に銀のビーズ
シルエットが装飾された
百花斉放のネイルが姿を現した
先生が言うにその人は
ネイリストになった
六年前の先輩
日頃の会話ではある先輩が
ネイリストに就職したとしか
聞かされていなかったけれど
作品を見て漸く分かった
夢を追い続けていた頃の青い風は
あの人の元へやっと届いたのだろう
叶えた直後に見失った
課程というものが
たった今
時を越えて届いたのだ
先生はその先輩のネイルを
じっと見つめて
納得したように頷き 言った
お前らもこういうの作っていいんだぞ
先生はいつもの
冗談めいた口調で笑った




