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夏蝉
茹るような暑さの中
汗は頬を滑り落下した
蝉が鳴き出している
朝の強い陽射しに
アスファルトは白く反射して
家影は黒さを増す
数日前はした
花の雌しべの籠った香り
排気ガスの錆びれた匂いと
交じり合って分からない
シャンシャンシャンという熊蝉の音
ジーィという油蝉
夏蝉の贅沢な合唱祭
もうじき休暇に入るのだ
言い聞かせて溝蓋を踏む
下唇を舐めると甘酸っぱい
粘着質な汗の味
重い荷物を持った
そのすぐ横をバスが通った
バス停のベンチに腰を下ろすと
靄がかった蒸気が掻き消され
ひんやり
気持ちが落ち着いた




