読書
藤棚の落葉を
竹箒で掃いていると
湿気の多い風が
まとわりついてきて
その当たり方から
過去のことを思い出した
図書館で借りた本を
昼休み 自分の席で読む
誰にも邪魔されず
話しかけられもしない
理想の空間
文字を追いかけて
その時の様子が
断片的に頭に浮かぶ
再現ドラマに出てくるような
鼻の高い男性と可憐な女性
私の頭が作り上げた
オリジナルの主人公
この時の風は
男性と女性が喧嘩するシーン
本の内容は忘れてしまったけれど
この風はあの時と全く同じもの
気持ちの良い風に
素肌が触れた時
私は不意に昔を思い出す
そして今の私が
あの頃には
戻れない場所にいることを
再確認させられる
女性は何と言っただろうか
言葉を受けた衝撃だけが
鮮明に頭の中に残っている
あの本は何処に戻しただろう
題名も作者もあやふやで
登場人物の名前も出てこない
なのに住んでいる家の映像や
声や顔立ちははっきりしている
不思議なことだった
その本は私の中に
いつまでも残り続けていた
他の本も同様に
見ていないはずの映像や
聞いていないはずの音が
頭の中で流れる
心に沁みて
時には感情を生んで
知らないはずのものを
知っているような気持ちにさせる
久しぶりに本を読もうか
大きな市立図書館で




