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雑多  作者: 莉猫。
~多彩の章~
122/170

読書

 





 藤棚の落葉を

 竹箒で掃いていると

 湿気の多い風が

 まとわりついてきて

 その当たり方から

 過去のことを思い出した



 図書館で借りた本を

 昼休み 自分の席で読む

 誰にも邪魔されず

 話しかけられもしない

 理想の空間



 文字を追いかけて

 その時の様子が

 断片的に頭に浮かぶ



 再現ドラマに出てくるような

 鼻の高い男性と可憐な女性

 私の頭が作り上げた

 オリジナルの主人公



 この時の風は

 男性と女性が喧嘩するシーン

 本の内容は忘れてしまったけれど

 この風はあの時と全く同じもの



 気持ちの良い風に

 素肌が触れた時

 私は不意に昔を思い出す



 そして今の私が

 あの頃には

 戻れない場所にいることを

 再確認させられる



 女性は何と言っただろうか

 言葉を受けた衝撃だけが

 鮮明に頭の中に残っている



 あの本は何処に戻しただろう

 題名も作者もあやふやで

 登場人物の名前も出てこない

 なのに住んでいる家の映像や

 声や顔立ちははっきりしている



 不思議なことだった

 その本は私の中に

 いつまでも残り続けていた



 他の本も同様に

 見ていないはずの映像や

 聞いていないはずの音が

 頭の中で流れる



 心に沁みて

 時には感情を生んで

 知らないはずのものを

 知っているような気持ちにさせる



 久しぶりに本を読もうか

 大きな市立図書館で












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