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習作
ぶっ壊したい、叶わないものなんか。
時刻は午前二時だった
君は母指球を真っ黒にして
2Bの鉛筆を倒しつつ
左手をデッサンしていた
手といっても 皺や陰
質感表現は 難しい
Hの鉛筆でハッチングして
暗い所に暗い色を
明るい所に白を
練り消しで丁寧に入れていく
細やかな線の集合は
決して嘘を付かない
君は猫背になって
遠くから見ることを怠る
掴めない時が 一番苦しい
どれだけやっても
思い通りにならない時が
手を伸ばして
画用紙に描いた手を
じっと見つめる
人間の手ではなかった
こんな小さな街にも
上手い人はいっぱいいる
親に言われた上手だねは
大嘘だったんだ
それでも鉛筆を握る
碌でなしの線を描き連ねた
本当の手に近付くために
碌でなしの線を描き連ねた




