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みずうみのうみの船―泡にたゆとう海の境(ウナサカ)へ―  作者: まいまいഊ
それは、観測者の儚い夢のようで、

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6・海を求めて、見る夢に

『神話で語られる話が本当であるのならば、空の向こうに海があることになる。この世界は海に浮かぶ小さな泡の中にあることになる。しかし、空の向こうに塩の水があるなど、誰が信じられようか。そんなに大きな水が存在するのならば、海はすでに発見されていなければ、ならないだろう』




 ヤチボカ村にある図書館は、世界ができた時から存在していると言い伝えられている非常に古い図書館である。

 海について知りたいのなら、ここで調べるというのが定番である。図書館には海について書かれている文献がたくさんあるからだ。

 この図書館のおかげで、一つの湖と、一つの島しかない世界に住む人々でも、『海』についての知識だけは知っていた。

 文献には、『海』とは渡るのに何十日もかかるほどに広く、時として波が全てを飲み込み破壊することもあったという。

 さらに、水には味があり、なめてみれば、汗と同じようなしょっぱさを感じるのだという。湖よりも大きく広い場所にそのような水が溜まっているというのである。

 誰も、本当の『海』を見たことがないので、実際のところ『湖』との違いは、漠然としか分からない。文字の上では、そういうものだと理解できても、想像の上では、なんとも理解できない代物なのだ。


 そんな、『海』についての文献が豊富な図書館に船長はいた。例によって、よんよんは図書館に行きたいと言い出したのだ。

 よんよんを連れて図書館に行くと、見知った顔があった。シルルとオルドビスである。二人とはモイの酒場で会って以来だ。あの時は、オルドビスがよんよんのコップを割ってしまうという、ちょっとした事件があった。今となっては、いい思い出の一つである。


「あ、よんよん!」

 オルドビスは、よんよんを見つけるなり近寄ってくる。

 彼は可愛いものには、目がないのだ。さっそく、よんよんを撫ではじめる。


「でも、今日は、一緒に遊んであげられないんだ。シルルのお手伝いしなくちゃいけないから」

「それは、とてもざんねんよーん。おてつだい、がんばってよーん」

「うん、がんばってくる」

 と、オルドビスは元気よく言ったものの、気がつけばシルルの手伝いもせず、よんよんと絵本を読んでいるのだった。


「……オルドビスは、最初からアテにしてないわ」

 そんな様子を見て、シルルは言う。

「船長さん。時間があるなら、海についての話に、少し付き合って欲しいの。誰かに話しながらの方が、色々と考察が進むから」

 シルルは、船長に訪ねた。船長は軽い気持ちで、その話を聞くことにした。


 それが、間違いの始まりであるとも知らずに。



「なぜ、ひとつの島、ひとつの湖というこんな形になったのか、それは古い文献に伝承という形でしか残っていなくて謎が多いの」

 シルルは、海について語りだした。


「水は『身(生命)を繋げる』もの、海は命を『産み』だす場所。そんな『海』と言う言葉は、大きな水『大水(おほみ)』からきているとされているの。でも、そもそも湖もたくさんの水をたたえているから……」


 海も湖も、実は同じなのではないかと言うことを、なんだか難しく回りくどく言っている。


(あぁ、そうか、だから……)

 シルルと長く付き合っているオルドビスの事だ、こうなる事は分かっていたはずだ。

 シルルの話は、小難しく淡々としており、長い。オルドビスが、逃げ出した気持ちが、今なら分る。だから、彼はよんよんの相手をすることにしたのだろう……。


「もう一つ、『海』を語るうえで忘れてはいけないのは、ウナサカ(海境)という地のこと。それは、海の果てと言う意味らしいのだけれど、『禁断の地』として伝わっているの。この世界には海が存在しないのに、『海の果て』の名称が伝わっているのも、おかしな話ね。ウナサカは、幻の地。神聖な失われた地。禁断であり、伝説であり、幻の地である『ウナサカ』にあるものとは? 勇者とか、選ばれし者ならば嫌でもそのような場所に行くことになるのでしょうけれど。現実と夢物語は違うのは、分かっています。しかし、ウナサカはロマンが溢れているのです!」

 彼女は『ウナサカ』の地に思いをはせている。もはや、自分だけの世界にいる。


 ふと、船長は辺りを見渡す。オルドビスとよんよんが、先ほどから静かなのだ。いるはずの方を見てみると、オルドビスは、机に伏せていた。

 よんよんもその傍らで、寝息をたてている。いつの間にか、二人とも眠っていたのだ。


(僕も、いよいよやばいな……)

 シルルの言葉には、眠気の魔法がかかっているのだろうか。船長にも、例外ではなく、睡魔は襲い掛かっているのだ。


「ところで、神話や伝説をただの作り話だと思ってない? これらの話は、代々残せるように、工夫されたものなの。神話や伝説が似ているのは、太古の昔に『何か』が起きたことを暗示していて……」


 適当に相槌をうっている船長を気にもとめず、シルルは話し続けている。話すことに夢中になり、相手の状態がどうなっているのか、もはや眼中にないようだ。


「これは確かなんだけれど、昔、海があったという痕跡はあるのです。ただ忽然と消えたとしか思えないの。伝説として、分かっていることは、かつて、一度世界が死んだということだけ。破壊神クロロフルオロカーボンの手によって、天に穴が開き、世界に破滅の光が降り注いで……。その時に、神が隔離された世界を新たに創作し、少しの人々と少しの動物たちがこの地へ移り住んだの。新しく作った世界は小さいので、海が作れず、そのため、この小さな世界で生きることを決めた時、人々は海を失ってしまい……」


 瞬きの度に心地良い眠気がやってくる。船長は、ひじを机の上に置き、指を交互に組んで額に当てる。まるで、何かに祈っているかのような格好で動かなくなった。

 それは夢か現か、まどろみの世界へ入り込んだ感覚さえなかった。



 ――うとうとと、まどろむ昼下がり。船長は……夢を見た。






★よんよんの秘密の日記「ゆめみてゆらゆら」★

むかし うみがあったらしいよーん

もし それがほんとうなら うみ みたいよーん


みずうみと うみは やっぱり ちがうものらしいよーん

しおとか みねらるっていう あじが するらしいよーん


むかしに 「なにか」があって 

うみが なくなったらしいけれど

ながいはなしに ねむくなりましたよーん 



うみ うみ うみ うみ

あこがれだよーん


挿絵(By みてみん)

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