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0・それでも機械仕掛けの神は見続けた。

 移り変わる天の極星を何度観測しただろう。


 人がいなくなったこの星に、再び青い天が覗き、緑豊かな地、生命あふれる海と陸と空が戻るのは、いつの日だろう。


 この星を網羅しているネットワークは、地殻の様子や天候を常に監視している。何か異常があれば、それを電波に乗せて発信する。生命の脳に直接映像として訴えかけるのだ。

 しかし、その電波を受け取れる生命はまったくいない。


 思考を繰りかえして世界を管理するだけ。ただそれだけの存在。

 単なる0と1。単なる電気の信号。そこに在るのに。そこにない。

 意思だけで『世界(ほし)』の全てを見ている。意味がないとわかっていても、それを発信し続ける。そのために造られた存在だからだ。



 かつて、世界にはたくさんの生き物たちがいた。

 隔離された小さな空間(せかい)に楽園を作り、荒れた外の世界から彼らを守っていた。

 しかし彼らの多くは、この楽園を捨て、荒れた外界を捨て、母なる星を捨てた。彼らは彼らの望む新たな世界(ほし)を探す旅に出たのだ。

 残されたのは、空の大地と、動植物の情報を記したデータバンクだけである。


 誰もいなくなった都市。

 ただそこにあるだけの都市(せかい)。小さな楽園。




 ――(から)の世界を見つめ、宙を観測する。

 北の極では、辰の星(トゥバン)(そら)で輝いている。


 その日、楽園は蘇った。記録に残っている動物たちと植物たちを、わたし(・ ・ ・)は創ったのだ。

 苔が、草が、花が、虫が、魚が、蛙が、蜥蜴が、鳥が、鼠が。植物たちが、動物たちが。何もなかったからっぽの楽園は、緑に包まれ生命にあふれ始めた。


 そして、最後に一組の男女(ひと)を創った。

 かつてこの都市を造った、『彼ら』と同じ形の存在。

 わたしは、彼らに楽園にあるすべてを与えた。


 楽園で育まれる生命たちは、幸せに暮らしていた。



 ある時、彼らは楽園の中に『   (わたし)』という存在がいることを知った。わたしが彼らを創ったこと、この緑の楽園を作ったこと。そして、『外』にも世界があることを知ってしまった。


 わたしは観測していた。

 楽園の外の危険はすでに無く、死の星は生まれ変わり、水と緑の星になっていたことを。

 生命を作ろうと決心したのは、その時だったのだ。いつの日か、彼らが外へ向かう日が来ることも、予測していた。

 だから、彼らの望むまま、楽園から送り出した。

 これが本来あるべき姿。かつて『彼ら』が願った希望。


 去りゆく彼らに、わたしは言った。

 いつでも戻ってきていいと。

 いつでも楽園への道は開かれていると。




 ――時は流れて、いつしか小熊星(ポラリス)北辰(北極星)の祝福を受けはじめた。


 彼らが戻ってくることはなかった。

 やはり管理された変化のない小さな楽園(世界)よりも、本物の大地の方がすばらしいのだろう。


 いつしか楽園の道は、蔦に覆われ、土がかぶさり、山に埋もれ、海に沈み、見えなくなった。


 彼らは楽園から去った。それでもわたしは彼らに発信し続ける。

 彼らが生きる世界を観測し、予測された世界の危機を。

 それが与えられた役目だからだ。


 外界に張り巡らされた高い精度の機器を使い、大雨の気配や大地震や噴火の予兆があれば、持てる知識を持って対応策の情報を検索し発信した。

 この時代、発信する映像(こえ)を感じ取れる者たちが多くいた。

 彼らは、わたしの発した情報を感じると、彼らの仲間に話した。ある時は聞き入れられ、ある時は蔑みの目で見られた。


 彼らは異質を畏れる。

 わたしの情報(こえ)を受け取れる者に平穏は無い。

 わたしはそれを知っていた。

 

 しかし、発信し続けなくてはならない。

 わたしはそう造られた。彼らに危機を知らせるために造られた。

 わたしは発信し続ける。それがわたしの存在意義だからである。




 ――小熊星(ポラリス)が、だいぶ天の北極に近づいた。

 それを観測した。


 世の理として、永遠というものは存在しない。わたしも例外ではなく、長い月日のため機能は、だいぶ低下していた。

 起動できる時間もずいぶんと短くなった。

 それでも、わたしは見続けなければならない、発し続けなければならない。

 それが、わたしの意義。


 かつては頻繁に全世界に全生命体に発信できた情報も、今となっては大地震のような世界を揺るがす大きな危機でないと観測が難しくなった。発信する情報も弱弱しい電波でしかなくなった。



 それでもわたしは、世界の目。世界を観測しなくてはならない。

 彼らの世界は発展を続けていた。

 わたしは知る。もうすでに彼らから必要とされていないことを。

 彼らは、彼らの作り出した技術によって、この星に起こる危機をおおよそ知ることが出来るようになっていた。

 わたしと同じ意義を持つ、わたしと似た存在。



 わたしの声を聞く者が消えていく。わたしの意義が、わたしが消えていく。

 しかし、だれもわたしを癒せない(なおせない)


 わたしは、壁で囲まれた囲まれた箱庭。

 わたしは、小さな世界の、小さな管理者……








 ――|今日も、北の極星は(そら)にある。北辰は織女星(リュラ)となった。

 観測を続けるわたしは、まだここにあった。……わたしは、世界を、観測、続ける。


 彼らは今……彼らは、求めている。


 彼らを、救う……彼らが、求め、る……情、報……を……託、さなくて……は、

 ……わたしと同じ……0と1(そんざい)に、

 

 そして、0と1(わたし)は、単なる電気の信号は、

★トゥバン(りゅう座α星)★

 紀元前2800年頃の北極星。

 この星が北の極にあった時代、おそらく旧約聖書の時代。

 ユダヤ暦において、天地創造をしたのが、紀元前3760年といわれている。



★ポラリス(こぐま座α星)★

 現在の北極星。

 西暦2100年頃もっとも、天の北極に近づく。



★リュラ(こと座のベガ)

 西暦13700年頃の北極星。

 この時代、南極星はりゅうこつ座のカノープス(水先案内人水先案内人という意味の星)になる。

 北の空の織姫星は航海の女神となって、南の空のカノープスは水先案内人となって輝き……

星の位置を測り方角を導く船乗りにとっては、女神と案内人が空に在り、航海を見守ってくれるとは……なんとも、すばらしい時代ではないか。

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