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11・布団がふっとんで、城は崩れ去る。

『よく晴れた日の昼下がり。雲は、北西から南東へと流れて行きました。なんとなく一日が過ぎる。今日が終われば、過去という時間(トキ)が長くなる。

 しなくてはならないことはたくさんある。けれども、そんなことは本当にどうでもよくて、ただただ布団の中でだらだらと、一日中過ごすのもいいかなぁと、そう思う』





「手紙をもらったんだ」

「わ、君は唐突に現れるね」

 しゅりるりが気配なく現れたので、反射的に動きが止まってしまう。

 なぜ、ここにいるのか。しゅりるりの出現については、もう何も思わないほうがいいだろう。どうせ、ろくな理由はないのだろうから。


「手紙は貰うと、何だか嬉しいよね」

 驚く船長を気にも止めず、しゅりるりは白い封筒をひらひらさせる。

「誰からの手紙?」

 あまりいい予感はしないが、船長は話を聞く。

「布団だよ」

「ぬのだん?」

 これまた、嫌な予感がする響きの名前。またおかしなことに巻き込まれるのか。船長は、ため息をついた。


「その『ぬのだん』って、何者?」

「魔王アネーハ率いる布団だよ。ちなみにアネーハの趣味は建築。たくさん手がけているんだ。また趣味の城を建てたみたいで、素晴らしい出来だから、攻略しに来いだってさ」

「魔王か」

 魔王が関わることで、穏やかだったためしはない。やはり気が滅入る。


「彼は中級クラスの魔王だから今までのとは、比べ物にならないくらい強い……いや大丈夫か。アネーハだし」

 魔王アネーハは城を作ることを生きがいにしている者で、戦闘向きの魔王ではないのだ。


「彼の城は、仕掛け満載でスリリングだから、行ってみようか? よし、そうと決まったら、早速行こうじゃないか!」

 しゅりるりは手紙を鞄にしまう。


「……僕も行くのか」

 船長は、しゅりるりに言われるままに、目的の場所まで船を移動させる。




 平原に立派な城が建っている。ここは布団(ぬのだん)のアジト、魔王アネーハの居城。高く見えるが、実際は見た目ほどに高さは無い。城の石垣が上に行くにつれ小さくなっているので遠近感が狂い、目の錯覚で実際よりも高さがあるように見えるだけなのだ。城の外見は重要、見栄は大切なのである。

 その城の門には門番がいる。白いシーツを頭から被っている門番がいる。その白い布は布団の制服なのか、違うのか。

「あれが布団ねぇ」

 船長の第一声。また変な人たちのような気がしていた。


 こちらに全く気がついていない布団の門番の独り言が聞こえてくる。

「一日中見張っているのも疲れるなぁ。この城に尋ねてくる人など、 ほとんどいないのに……と、これは禁句禁句。だれかうちのボスを倒しに、侵入してくんないかなぁ。曲者! と言って襲い掛かってみたい」

 布を揺らしながら、そんな独り言を言っている。


 しゅりるりは、ここぞとばかりに門番の前に立ちふさがる。

「たのもう、君たちのボスを倒しにきたよ! 君のお望みどおり、グッとなタイミング?」

 しゅりるりは親指を立てる。布団の門番の布の間から見えている目が輝きだした。


「きたきた! 待っていたんだよこの瞬間を! この門番を倒さない限り、通れないぞ。さぁ、準備はいいか? 」

「準備はいいよ! いくよ?」

「いくぞ!」


 門番との熱い戦闘が始まった。

 門番は善戦した。2対1という不利な状態であっても。


「なかなかやるなぁ。約束だ。通るがいい」

 良い戦いだった。と門番は思う。

「いやぁ、楽しかったよ。程よくあっさり負けるのも門番の務めさ。ふっ」


「門番も大変だね。さぁ行こうか」

「それでいいのか……」

 船長は戦闘中、本当に何もしていない。二人のじゃれ合いを見ていただけだった。


 門をくぐり、城の中へと入る。真っ直ぐな廊下を進むと広い部屋に出た。

「数々の罠、仕掛け、設備の数々を前にして、君たちは生きて帰ることができるかな?」

 なぜか後ろからついてくる門番。船長は、それが気になってしまう。

「君は門番だろう? 門はいいの?」

 後ろをついてくるだけで特に害は無いのだが、船長はつい門番に突っ込んでしまう。


「う、気にするな」

 客人が珍しいので、どうしても解説したくなってしまう門番であった。


「この部屋の仕掛けをとかないと、先に進めないぞ」

 門番は仕掛けを解く邪魔をしないように、部屋の出入り口付近に立つ。出入り口に待機、ある意味で門番の鏡である。


「さてアネーハの自信作とやらを、体験しよう」

 しゅりるりはやる気満々である。


 ガラスのように見える半透明な床に、仕掛けのスイッチがキラリと光っている。どうやらスイッチを押すと床が現れたり、消えたりするらしい。あたりを見回せば、うまくスイッチを押さないと行けないような離れた場所に、宝箱まで配置してある。本格的だ。

「よし、宝箱は全部開けよう!」

 宝箱をあけるのが好きなしゅりるりは、すべての宝箱の元へと行こうとしている。


「やった! また爆破草を手に入れた!」

 宝箱の中身はすべて爆破草であった。しかも5、6束まとめて入っている。

 爆破草、名前のとおり、爆発する物騒な草。かなり強い衝撃を与えるか、火種が無いと爆発しないので、比較的安全に持ち運びができる道具。弱点はすぐに湿気にやられてしまうことだ。


「やっぱり、何か入っている箱はいいねぇ」

 宝箱をあける行為が好きなだけなので、中身はなんであろうと問題はなかった。後半は開けるだけ開けて、中身をそのまま置いてくることさえあった。



「これで最後かな?」

 他とは異なる色を放つスイッチを押すと、天井から階段が現れた。

「無事にあの仕掛けをクリアしたみたいだな。この先に我らがボスがいらっしゃるのだ!」

 対岸の入り口で門番は叫んでいる。


「わかった! 門番さん、ありがとう! さ、船長さん、行こう」

 この階段の先に魔王アネーハがいるのだ。






 立派な赤い色の玉座に座っている。シーツをぶっている者が。

「やっぱり布を被っているんだ」

 玉座の上を見た船長はつぶやいた。

 魔王ということもあり、頭からかぶるその布は門番の木綿っぽい素材の布とは異なっていた。独特の光沢、柔らかそうな質感。絹製だろうか。


「私の前を素通りして宝箱を取りに行くとは、なんともはや、おろかなことよ」

 あきれたような、ため息交じりのアネーハの言葉。玉座から少し離れた部屋の隅に宝箱があったのだ。

 しゅりるりは、それを取ってから魔王に話しかけたのだ。


「まぁ、よくあることだから気にしないでおこう。私はアネーハ。布団の総裁にして、この城の主だ」

 アネーハは立ちあがり、両手を挙げる。

 動くたび、しゃきゅ、しゃきゅと、心地良い音もする。本物の絹であることの証明、絹鳴り。アネーハの白い布は、よく精錬されたものらしいことがわかる。


「その後に続くであろう、長い能書きは言わなくていいからね」

 しゅりるりはアネーハの言葉をさえぎる。魔王業をやって者は、普通の話でも無駄に長くなる傾向にあるのだ。

「それはそうと、あの床はすごいねぇ」

「ふふふ、ありがとう。ここから私の野望が始まるのだ! ふはははは……」

「悦になっているところ悪いんだけど、実は今、勇者役に、はまっているんだよねぇ」

 再びアネーハの主張をさえぎった。すっかりペースはしゅりるりのもの。

「覚悟はいい?」

「ふふふ、相変わらずおもしろい人だ。いいだろう相手になってやる!」

 アネーハは絹の布を揺らす。この展開に満足しているらしい。布越しなので確信は持てないが。

「しかし『布団5人衆』を倒さないと、相手はしてやらんぞ」

 アネーハは指を鳴らし合図を送る。


 怪しげな音楽と白いスモークが部屋を満たしていく。床が迫り上がり、そこから白い布を被った者たちが、決めポーズを取りながら現れる。

(7人いるような……)

 船長はそう思うが口には出さない。なぜなら何か言ったところで、現状は何も変わらないからだ。


「みんな、行くぞ!」

 白い煙を散らしながら、7人の布団との戦闘が始まった。

「てやてやてや!」

「やいやいやい!」

「たぁ! とう!」

 7人の布団は門番よりも厄介である。なにより数が多い。それでも船長は、布団としゅりるりの攻防を見守り続けた。


「く、くそー。こうなったら」

 埒が明かないと布の布団リーダーらしき布が言う。

「今こそみんなの力を合わせるんだ!」

「おー!」

 7人の布団たちは、一箇所に集う。決めポーズの後、大技を繰り出すのだ!

「我ら、布団5人衆。五人揃えば、敵は無し。いざ、勝ぶふぅう」

布団(ふとん)が、ふっとんだ!!」

 しゅりるりは、突然、面白みのない普通の駄洒落を言う。すると布団7名は大爆発・大音量・黒煙にまきこまれた。

 いつのまにか、しゅりるりが『布団5人衆』の足元に爆破草を仕掛け、火種を放っていた。その結果、布団はふっとんだのだ。


 布団たちのか細い声が聞こえる。

「口上を述べているときは、何もしないのが敵としてのお約束だろう」

「夢のようなモノの見すぎだよ。現実はきびしいよ。ふふふふふふ」

 しゅりるりは、火種に使った松明を得意げに振り回している。場所が町の広場なら、きっと賽銭が飛んでくるであろう。


(いつの間に、壁の松明を盗ったのだろう)

 船長はしゅりるりの周到さに呆れた。



「うぬぬ、私の手下をあっさりと」

「相かわらず、せこいなぁ。手下ばかり仕掛けないで、たまには自分も戦いなよ。一応、魔王なんでしょ?」

「うむむ、仕方ない」

 アネーハは立ち上がると、不意をついて魔法を唱えた!


『形を成した魔力が3人を襲う!』


 MISS!

 しゅりるりは華麗に避けた!


 船長は羽毛に包まれた!

 しかし、船長には効かなかった!


 布団五人衆は羽毛に包まれた!

 あまりの気持ちよさに、意識が遠のいてしまった!


「……だ、大丈夫?」

 爆風に巻き込まれたり、羽毛に包まれたり、碌な目にあっていない彼らに声を掛ける。

「我々は、羽毛に包まれてねむっているのだ。声を掛けるでない! 羽毛にまみれて、ぐっすり眠っている。しばらく起きそうに無いのだ!」

 彼らは遊びの中にいる。船長はもう何も言うことはなかった。



「……というかアネーハ! 不意打ちはびっくりするから、やめて欲しいよ」

 しゅりるりにとってあの程度のものは、不意打ちには入らないのだが、文句は言っておく。

「ふふふ、アレを避けるとは、さすがだな。ここからが本番だ。いくぞ!」

 それを分かっていてアネーハもやっている。


 船長は、このまま様子を見ようか迷った。たぶん、これは友人同士の戯れでしかないのだ。


「僕もあの魔法にかかったことにすれば良かった……」

 あまりにも突然のことだったので、対処できなかったのだ。今からでも遅くないかもしれない。

「こっそり寝た振りしようかな」

(……かからなかったことが残念に思うことなんてあるなんて)

 ぐっすり眠っていることになっている布団たちが、ものすごくうらやましく思えてきた。


「……しゅりるりもアネーハって魔王も、僕の存在忘れているみたいだし、このまま傍観しよう」


 アネーハは白い布を被っていて、しゅりるりは白い服を着ていて、白い者同士。アネーハの布がたなびく、しゅりるりのマントもたなびく。遠目ではもはや白い布が戦っているようにしかみえない。


「うぐぐぐ、やはり貴様には勝てぬのか。だがまだ終わってはいない。あのお方がいる限り……あのお方のためにも、この城から出すわけには行かない。こうなったら……」

 色々しゃべりだす。


「あらら、スイッチが入っちゃった。今、君は『あのお方』から独立したろうに。昔の癖が抜けていないんだね」

 身内しか分からないネタだ。

「そ、そうだった。こうなったら、この城もろとも……消えるが良い!」

 お決まりの文言。揺れ出す部屋。


「うわ、城が揺れ始めたよ。べたべたな展開だな。脱出時間制限とかあるのかな。わくわく」

 しゅりるりは、急に湧いて出たイベントに、テンションが上がっている。


「わ、地震? に、逃げなくちゃ」

 布団たちが揺れで目が覚めたようだ。おどろいて飛び起きていた。


「わははははははは!」

 アネーハは余裕の高笑いをしている。石と石が打つかる鈍い音が下の階から聞こえる。

 

「ボ、ボス大変です。2階の半分が崩落しています!」

 布団の門番が部屋に飛び込んでくる。


「大丈夫だ。2階が崩落した程度では、この城は壊れないように作ったから大丈夫だ」


「え? この城崩壊するんじゃなかったの?」

 ついつい突っ込んでしまう船長。

「雰囲気造りに揺らしただけだ。安心なさい。まさかこの程度のゆれで崩落するとは。透明床装置システムは改良の余地ありだな」

 アネーハは、問題点と改善方法をブツブツとつぶやいている。


「あ、ちなみに、あの部屋の宝箱の中身を取らなかったものがあるから、いつか爆発が起こると思うよ!」

 爆破草を侮ってはいけない。草とはいえ、数が集まればそれなりの破壊力を持ってしまう。宝箱が落下した時の衝撃や落ちてきた岩か何かの衝撃で箱が潰された時、草は爆発してしまうだろう。


「えっ、宝箱全部とらなかったのか? 爆発なんかしたら。2階どころか、この城が崩壊してしまう」

 アネーハの布が、心なしか青く染まったように見えた。

 一同(しゅりるりを除く)に、絶望の色が立ち込める。


「魔王を倒すと、お城が崩壊するのは設計ミスのせいだったのか。あはははは」

 揺れの止まらない城の中、ひとり危機感の無いしゅりるり。

「笑ってないで、さっさと外に出よう!」

「2階は崩壊していて危険ですよ」

 おろおろしつつも、門番はしっかりと言う。

「じゃあ、どうやって逃げるのさ!」

「あの窓から跳んで逃げる? ちょっと危ないけれど、ここにいるよりはいいと思うよ」

 しゅりるりは怖ろしいことを言う。それ以外に方法が無いなら、仕方ないのかもしれない。

 覚悟を決めようか。どうしようか。


 しゅりるりは慌てる人々を見て、とても受けて……いや、落ち着いている。

「あるいは玉座の裏なんかによくある非常階段? それが安全で良いんじゃない?」

 しゅりるりは玉座を指差した。

「魔王城建築基準法を守っているアネーハなら、きっと作っているよ」

 玉座の裏に非常階段をかくすのは、今や義務なのだ。


「そうだ! そういえば、そんなものを造ったな」

 パニック状態だったアネーハは玉座を動かしにかかる。

「作った本人が忘れてどうする……」

 作業はあまり捗っていない。揺れのせいだ。


「この揺れを止めないと、作業しにくくない?」

 しゅりるりは笑みながら言う。この揺れ自体は、そもそも崩壊と関係なくアネーハが起こしたものだ。だから揺れだけは止められるはずである。

「あ、ああ。今止めよう」

 予想外の出来事には弱いアネーハだった。



 ――そうして、玉座の裏にある非常階段から、城の外へ無事に脱出した。



 城は全崩壊は免れたが、内装がほぼ全滅だ。アネーハの指示の下、布団たちはせっせと直している。彼らは基本的に造るのだとか直すのだとかが好きなので、壊されても気にしないのだ。


「酷い目にあった」

 もう2度と、崩落するような城には行きたくないと思う船長。

「まぁ、あんな城だけど安いし仕掛け満載だし、城を建てるならアネーハと言うくらい、魔王の間では割と人気なんだよね」

 そういうものらしい。


「自分は注文しないんだけれどね」

 ああいう城が非常に好きそうなのに、意外なことを言うしゅりるり。

「意外だね」

「だって自分の方がもっと素晴らしい城を作れるから、ね」

「あぁ、なるほど」

 船長は納得するのでした。





★よんよんの秘密の日記「ふとんが ふっとぶ」★


 おしろは アネーハさんが せっけいする らしいよーん

 もちぬしが やられると こわれちゃう よーん。

 

 それって かなり キケンよーん

 でも じしんには つよくできているらしいよーん


 ななにんいた ぬのだん ごにんしゅう。

 みんなのチカラを あわせたら どうなるのよーん?

 でも あわせることなく ふっとんだから、

 なにがおこるのか だれにも わからないのよーん。



挿絵(By みてみん)

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