9・魅惑のお菓子と夢見る肉球。
『一口食べれば、夢が広がる美味しいお菓子。二口食べれば、とろけてなくなる甘いお菓子。みんな大好き、にこにこお菓子』
村に住む二匹の白狐は暇だった。あまりにヒマすぎて、マヒしてしまいそうに感じていた。
「ヒマですぅ」
玉殿は言う。
「ですぅー」
房殿は言う。
「だから、イタズラですぅ!」
「すごいの、するですぅ~!」
二匹は住処を飛び出し、イタズラを実践した。物陰から驚かす、ものを隠す、カエルを背中に入れる。小さなイタズラから始まり、次第に大胆になっていく。
そして、今日は船に乗り込み、船内を駆け回る。そして、船長室で見つけた派手な色の包装紙。
「美味しそうなお菓子ですぅ」
「あのお菓子、狙うですぅー」
「食べるですぅ」
しかし、部屋には船長がいる。扉に背を向けているので、玉殿と房殿に気がついてはいないが、お菓子を取るために手を伸ばせば、見つかってしまうだろう。素早い行動が求められる。
房殿は焦らず緩やかに、派手な着色の短剣のような物を取り出した。
「じゃーん。秘密兵器『シュルシュル棒』ですぅー」
『シュルシュル棒』とは、もちろん房殿が勝手に付けた名である。その棒は、祭りの玩具屋で、よく見かける物である。実際の名前は『カメレオン』という名称だ。
長い紙を巻物状に巻いて作られており、シュルシュルという摩擦音と共に伸びる棒のことである。紙製の特徴でもある壊れ易さにより、三日も経たないうちに壊してしまう人が多い。
誰でも簡単に入手できるが、気が付くと手元には無い。そのようなレアな道具を、房殿は今持っているのだ。
房殿は『シュルシュル棒』をシュルリと伸ばした。棒の先に細工がしてあり、いくつかのお菓子が棒に貼りついた。そして、あっという間に、手元にお菓子がやってくる。
「お菓子、もらっていくですぅー」
手に入れるものは、手に入れたので、ここに用など無い。
「では、さよならですぅ」
玉殿が煙の玉を投げる。
「デロデロデロデロデンデロン! ですぅ」
逃げる方法だけはしっかりと、確保している。
「あ、こら、まちなさい!」
船長が気がついた時には、すでに遅し。部屋に煙が充満し、何も見えなくなっていた。
「ああ、あれは小さい子にはまだ早いのに……」
船長は、子狐たちを追うことにした。
「大成功ですぅ」
「ですぅー」
船長が追いかけてこないことを確認すると、二匹は戦利品を分け合った。
「綺麗なお菓子、たべるですぅー」
「奇麗なお菓子、おいしそうですぅ」
一口で、頬張るお菓子。
少しして、二匹に異変が襲う。
「……あははははは……ですぅ」
「まわるですぅ~くるくるくるっですぅ〜」
「あ、いたいた。……ああ、遅かったか」
子狐たちに追いつくことができたが、すでにお菓子は食べられてしまっていた。
「……大丈夫かい?」
「だいじょうぶですぅ!!!!」
「でででですぅー!!! でででですぅー!!」
妙なハイテンションの白狐たちに、船長は、嫌な予感がした。
「キツネショーするですぅ!」
突然、二匹は手と手を取り合う。
「こちらは、玉殿ですぅー」
「こちらは、房殿ですぅ」
「ふたりは、たまふさ!」
お互いがお互いを紹介し、左右対称な決めポーズを決める。
玉殿と房殿は、キツネに伝わる魔法の葉っぱを、船長の頭に乗せてみた。どろん! と、頭の上で音を立て、視界が白く覆われる。
「わ、何するんだよ」
煙を振り払う。視界が良好になるにつれて、その身に起きた変化に気がつき始める。
自分の手をみると、ふさふさの毛並みに覆われ、曲がった獣の爪、肉球が生えていた。獣の耳、細く長い尾まである。体の一部が獣になっていたのである。
「手が、耳が……猫になってる!」
船長は思わず叫ぶ。
「こ、こいつ、語尾がニャーじゃないですぅー」
「……かなしいですぅ」
何を期待していたのかは、大体想像はつくが。
「……夢物語の読みすぎだね」
「もうイタズラはおしまい。早くもとの姿に戻して?」
「いやですぅ」
「ですですぅー」
「戻して欲しければ、たたかうですぅ!」
「そう、力尽くですぅー!」
船長は息をのんだ。どうやって戦いをするのだろうか。あまり派手なことをして、船内を荒らさないでほしいと、切実に思う。
「変身するですぅー」
「完全なる姿になるですぅ」
頭に葉を乗せて、どろん、とすれば……
「きゅうぅ」
「きゅうー」
足がもつれて、ふらついた二匹は頭をコツン。そのまま、ばたんきゅー。
「……どうしたものか」
二匹の白狐の子供を運ぼうに、この肉球が邪魔をする。白い毛の中に埋まっている肉球のある手のせいで、何も掴み取れない! もどかしい気持ちになる。普段は、あんなに愛らしい肉球も、このときばかりは、憎らしい。
いつまで、猫の姿でいなくてはいけないのだろうか。白い毛に覆われた肉球の手を見つめ、船長はため息をついた。
……結局、船長は船内で手の空いている者に、頼むことにした。事情を話そうと一言喋ると、そこでも「語尾がニャじゃない」と言われた。
みんな、毒され過ぎである。
色々あったが、とにかく、白い狐を託すことができた。
そして、子狐たちの酔いが覚めてから、船長はやっと元の姿に戻してもらったのであった。
★よんよんの秘密の日記「ゆめみるステキなおかし?」★
おかしをたべると げんきになるよーん
それって あぶないおかし? それって はんざい?
まだ たくさん そのおかしが あるらしいよーん
みつゆ っていうの しているのしれないよーん
あぶないよーん