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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐と黒猫の攻防戦
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猫って肉食じゃなかったっけ?

side.T。もぐもぐされた後。

「“一線”って、身体と身体の境界線のこと…?」


「さっきのなにで悟ったかはわからないけど、他になんだと思ってたんだ」


聞こえていないと思っていたのに、バッチリ呆れた声で返事をされて珠稀はグッと詰まる。

そんなこと知らなかったし、アドバイスをしてくれていた蓮花も教えてくれなかった。

むくれて、目の前にある自分のものよりも太くて硬い太股を叩いた。


ぺちん


だいぶ、マヌケな音がした。

まあ、力が入らないから仕方がないといえば仕方がないことだ。


対して痛みなど感じていない態度の直は、太股を叩かれて口に持って行こうと左手を止める。

うつ伏せの状態の珠稀は叩いたときには気付かなかったが、今そのことに気付いて真っ赤になった。


「うわぁぁっ!ちょっと止めて、汚いよ!!」


もし珠稀が本物の猫だったら、毛がブワッと膨らんでいただろう反応だった。


「汚くないだろ、別に」


ぺちんぺちん


力無く上下する手を目で追う直だが、特別に止める気はないようだ。

それが余計に苛立ちに繋がり、珠稀は普段の言葉遣いなど忘れて呻いた。


「ティッシュ!」

「はいはい」


また二回しかこの部屋に入ったことがないくせに、当たり前のように枕元の箱からティッシュを引き抜いた直は、ろくに動けない珠稀の口元を右手に持ったティッシュで拭ってくれた。

適当な返事と、その子ども扱い…むしろ、赤ちゃん扱いに珠稀はかな…。


「子ども相手に、あんなことはしないからな」


…しむ余裕はなかった。

珠稀の顔を覗き込む、直の目がコワかったので。


「まったく。タマは俺のことを何だと思ってるんだ?」


「直さんは直さんだよ…」


何を当たり前なことを。

そう思っていたら、溜息が後頭部に落ちた。


「何度もいうけどな。俺だって、何されてもガマンなんて出来ないんだぞ。今回のことで、身に染みてわかったとは思うけどな」


いわれた記憶がないと文句をいおうとした珠稀だったが、彼の次の行動に驚いて口にすることが出来なくなった。


スルッと、直の骨張った指が珠稀の頭を撫でる。

その手でそのまま、首の後ろを撫で上げられた珠稀は、小さく震えた。

中でも特に、指先で意味あり気に触れる場所は、掠めるだけでも声が漏れそうになって珠稀は必死にシーツを掴んで堪える。


「ふっ…んん……」

「そんな反応しておいて……キツい」


「…?」


頭上で呻き声がしたが、珠稀はよく聞こえなかった。

ただ、手は離れたのでやっとまともに呼吸が出来る。


「とにかく!まだ、それ以上はしない!」


ゼハゼハ息を切らす珠稀は、直の言葉にすぐさま強く反応した。


「何で!?」


「子どもじゃないっていうのは、認める。だけど、まだ早い。少なくても、今すぐにどうこうはしない。だって、タマは恥ずかしくてイヤみたいだからな、こういうことは」

「ひゃっ!?」


上から彼の唇が、耳の軟骨を軽く啄んですぐに離れた。

珠稀が悲鳴を上げたのを、イヤがっていると思ったのだろう。


「イヤじゃない!」


慌ててそう否定すれば、直はしばらく考える。

長いようで短い間の中、もう何もしないといわれたらどうしようかと珠稀は不安だった。


心の中でぐるぐると悩んでいると、『うーん』と同じく悩んでいた直が結論を出したらしい。

ドキドキしながらどんな結論が出たのか、うつ伏せの状態のまま聞いていた珠稀は彼の言葉にポカンとなった。


「だったら、慣らす」


「ならす」


オウム返しした珠稀があまりにも意味が理解出来ていなさそうだったためか、直は付け加えた。


「今回みたいなことを、少しずつ」


ぼんやりとした珠稀の脳裏に、『今回』したことが過ぎり、ぐわっと珠稀は更に赤くなった。

尻尾があれば、毛が膨らんだ挙げ句に棒のようにピンと立っていたかもしれない。


恥ずかしくて咄嗟に、『イヤだ』と叫びそうになった珠稀だったが、その前に直が口を開いてしまい、その機会はなくなってしまった。


「イヤだったら、しない。俺は構わないよ」


伏せていた顔を少し持ち上げれば、困ったような顔をした直がほんの少し笑って珠稀を見下ろしていた。

その表情が寂しげに見えて、珠稀はついに出し掛けた言葉をいう機会を失う。


それに、珠稀だって今までみたいな『仔猫』や『友人の妹』の延長よりも、│そういう《・・・・》意味で触れてもらいたいのだ。

だからこそ、あまり意味のなかったものの、誘惑をし続けたのである。


だから、恥ずかしいのはかわらないが、直がそう結論付けてくれて正直ホッとした。

更に異性として意識されていると知ることも出来て、概ね満足した珠稀はほんのり笑みを浮かべて直を見上げる。


「それに」

「えっ?」


…見上げた、のだが。

彼の話は終わっていなかった。


「煽った責任ぐらい、コドモじゃない珠稀なら取れるだろう?」


ニコリ


直は笑顔を浮かべている。

しかし、細まった目は優しさとは程遠く、腹ペコの肉食獣に捕まった仔猫の気分を珠稀は味わう羽目になった。


あれ、猫は肉食じゃなかったっけ?

開き直った腹黒の怖さ。

これでおしまい!読んでいただき、ありがとうございました!

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