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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐と黒猫の攻防戦
44/61

猫は肉食である

side.T。ムシャクシャして決意する。

「卒業おめでと~」


「ありがとう!蓮花ちゃんもおめでとう!」


「ありがとう!!」


二人で手を取り合い、お互いにお互いの卒業を祝い合う。

携帯で写メを撮って、卒業アルバムの後ろの余白にメッセージを書き込んだ。


「この写真ヤダっていったのに!」


「えっ?よく映ってるよ?」

「私は左側の方が写真写りがいいの」

「…ははっ」


珠稀には、キレイに映っているようにしか見えないのだが、本人としては不満らしい。

よくわからないが、そんなこだわりを持つ蓮花の方が女子として普通なのかもしれないと珠稀は思った。


「それで、そのあとは?」


「あぁ、うん。みんなでご飯食べに行く予定だよ」


「仲良いよね、タマの家族って」


「そうかなぁ?」


珠稀にとっては普通である。

端から見るのと、自分とでは感じ方が違うのかもしれない。


「あと、普通にカレシまで一緒に行くとことか」

「………」


正確に言えば、“兄の友人”としての参加だ。

兄の恋人も一緒だが、犬江家での二人の立ち位置は“もう一人の息子”と“義理の娘”になりつつある気がして、珠稀は遠い目をした。


「着々と犬江家に馴染んでるよ」


「いいんじゃない?『オトコ連れ込んでる!』なんていわれない相手なんだから」


「それって、いいことなの?」


いや、珠稀も別に両親が直に好印象を持ってくれているのはうれしい。

そうではなく。


「…心配されるようなこと、してないし」


自分でいってて、切なくなった。


仕事で遅くに犬江家に彼が来た日、あれ以来まともな接触がないのだ。

いや、出掛けたりはするのだが、身体が触れあう機会が極端に減ったのである。


「ギリギリアウトなことは、されてるじゃない」


「セーフだよ、セーフ!安心安全、ついでに安定の距離感だよ!」


確かに、デートにも連れて行ってはもらってはいる。

さすがに神谷と静流と忠告通り、スイーツビュッフェは泣く泣く諦めてはいるが、二人のデートは洋菓子店巡りが主流であった。

完全に、珠稀だけが楽しいデートである。


「遊園地にも連れてってもらったけど、完全に子ども扱い!夜というより、夕方には家に送ってもらってる!!」


そう考えれば、手を繋いでいるのだって実際は手を引いているだけとしか思えない。

もちろん、迷子防止的な意味で。


「宅飲みだって、最近は兄貴と二人なら直さんの部屋だし、美織さんが加われば出掛けちゃうし」


まぁ、美織も一緒に彼の部屋で飲んでいたらもやもやしたかもしれないから、それはありがたい。

嫉妬…というよりも、うらやましく感じるのだ。


「き、キスだってまだだし…」

「えっ…マジ?」


蓮花は驚いているが、ムリもないだろう。

付き合う前から自然に手を繋いだり、抱き締めたりしていた相手だ。

いくら珠稀が恥ずかしがり屋でも、軽く触れ合わせるキスぐらいすでにしていてもおかしくはない。


前に蓮花とした話を、珠稀は思い出した。

あのときに想像した悪い予想である“好きの意味が違う”可能性が今、浮上しているのだ。


付き合うようになったのは、直からの告白ではあったが、きっと彼は結局は仔猫を可愛がる以上の感情を抱くことが出来ずに、あのときの告白を後悔しているのかもしれない。


そう想像するだけで、珠稀は悲しくて…何よりも腹が立った。

珠稀にとっては珍しいことに、悲しみや寂しさ、恥ずかしさよりも、怒りが上回ったのだ。

つまりそれだけ、不満が溜まっていたのである。


「襲ってやるっ!」


「オォッ!?」


恥ずかしがり屋で奥手な珠稀が低い声で叫んだ言葉に、蓮花は目を見開いた。

珠稀の目が据わってて、恐ろしかったのかもしれない。


そんな友人の様子に気付いていない珠稀は、卒業証書の入った筒を強く握り締めて、ハレの日にあるまじきことを宣言するのだった。


「猫が肉食だってこと、思い知らせてやる!!」

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