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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐と黒猫の攻防戦
40/61

兎になりたい黒猫

side.T。

「かくかくしかじかで、教えてほしいんだ」

「意味わかんねぇこというな」


「はぁ?どこがわからないのさ!」


『理解力が足りないんじゃないの?』という目で見れば、相手は頭をガリガリ掻いて怒鳴った。


「第一声がそれで、説明になると思ってるのかっ!!」

「いっ!?」


ゴッ!


痛そうな音と共に、珠稀の目に星が散った。


「サト、もう少し優しくしたら?」

「最初の躾が大事だろ」


それは犬の躾の話である。


「それで、都ちゃんじゃなくて何をサトに相談したかったの?」

「う、うん…」


優しい口調で、文庫本(売り物)片手に文学少女な友人は珠稀に問い掛ける。

『都』というのは珠稀の幼馴染みで、文学少女とはその縁で中学時代に知り合ったのだ。


普段であれば、確かに真っ先に都に相談しただろう。

しかし、今回の相談事は純真な幼馴染みにいうには憚る内容なのだ。

そのため、わざわざ都が用事で来られない日にこうして数少ない男友だちを頼ったのである。


「待て!ここでいうのか?…だったら、まず│静流しずるに話してからにしてくれ」


休みの日とはいえ、午前中の客足が少ない時間帯。

ひとまず終えとかないといけない仕事は片付いているらしいが、何かを察したらしい神谷はまず自分の幼馴染みである文学少女・静流に話すように珠稀にいう。

異性である神谷よりも、同性である静流の方が確かに珠稀も話しやすい。

だが、内容が内容だけに、だいぶいい出しづらかった。


「うーん…」

「安心しろ。こいつ、こんななりだが、そこらの男よりもだいぶえげつないからな」


「「どういう意味?」」


女子二人の、抗議の意味も含んだ突っ込みが入った。

どういう意味だ、本当に。


神谷の双方に失礼な発言は、今は後回しにして珠稀は静流に向き合う。

清楚な出で立ちの静流に、こういった相談事をするのは気が咎められるが、珠稀は一つでも人の意見が聞きたかった。

蓮花にも聞いたのだが、あちらは過激でとても実行出来そうになかったのだ。

そういうわけで、静流の耳元でコソコソと事情を説明する。


「うん、うん…なるほど。確かに、都ちゃんには相談しにくいね」


納得した静流は、真っ赤な顔の珠稀に頷いてひとつ見せ、それから仕事しつつ待つ幼馴染みに声を掛けた。


「サト」

「何だ?」


「サトは、好きな子のどんな仕草にムラムラして、どんなきっかけで襲い掛かりたくなるの?」


「ゴフッ」


いきなり吹いた神谷に驚いて、珠稀は素早く後退った。

たぶん、ツバは付いていないはずだ。


「ゲホゲホ…静流、お前なーっ!?」


「うるさいよ」


「本当に、お前というヤツはっ!幼馴染みじゃなきゃ」

「で、どうなの?好きな子のどんな仕草で」

「わかったから!」


同じセリフを続けそうな幼馴染みに対して、神谷は慌てて遮った。


「あ、あ~。そうだな、ムラムラとか、押し倒したいとかじゃなくてだな」

「押し倒したいかなんて、聞いてないわよ」

「意味、同じだろうがっ!」


仲の良いやり取りに、若干の疎外感を感じる。

いや、恋人同士のやり取りに横やりを入れるほど、珠稀は寂しがり屋ではないので別に構わないのだが。


「そもそも、何でポチがそんなこと聞くんだよ。あっ、まさかさや」

「そこは詳しく聞かないで答えてあげるのが男ってものでしょう?」


「ムチャクチャいうな!」


珠稀は話の展開の早さもだが、神谷のキレっぷりが心配になった。

そのうち、頭の血管が切れそうで。


「あー…まあ、答えづらいなら別にいいけどな。そうだな、ドキドキするっていうと、はにかんだ顔とか、両手でお菓子持って頬張ってるとことか、首傾げるとことか、上目遣いだとか」


「純情…」

「うるさいな!お前はじゃあ、どうなんだよ!」

「私?…受け目線?攻め目線?」

「…答えなくていい」


何かいい出した幼馴染みの言葉を遮って、神谷は次の言葉を最後に付け足した。


「あと、美味そうに何か食べてるとことか…だな」


まるで、誰かを想像しながらいっているようだ。

まあ、たぶん静流のことだと思って聞いていた珠稀だったは少し腑に落ちないところもありながらも意見の一つとして聞いていた。


…それにしても、珠稀が聞いていたことを一つ一つ思い浮かべていて思ったのは。


「ぜ、全部やったのにっ」


正確にいえば自発的に行ったわけではないが、だいたい珠稀は行ったことである。

一番最後は、確かに直も『見ていると幸せな気分になる』といっていた気がするから、有効な仕草(?)なはずだ。

…しかし、未だに成果は上がっていない。


「いや、ポチ。お前の場合は『美味そうに食ってる』ことよりも、『ケーキを貪り食ってる』ことに焦点が当たるからな?」


神谷のハッキリとしたものいいにショックを受けて呆然としていた珠稀は、ある種の期待を込めて静流の方を見る。

少しはオブラートに包んだアドバイスなりを、聞けると思ったのだ。


しかし、申し訳なさそうな顔をしている静流は残念なことに言葉は優しいが概ね幼馴染みと同意見なようだ。


「しばらくは、ケーキを一緒に食べるのは控えた方がいいかもしれないね。特に、ケーキのバイキングだとか」


初デートのことを思い出した珠稀は、青褪めて叫んだ。


「もう遅いよっ!!」

ちょこっと説明。

・│早重はやしげ静流…珠稀の友人。清楚な文学少女。しかし、中身は…。

・神谷│さとる…静流の幼馴染み。都のことが好き。(静流はあくまで目を離してはいけない危険人物扱い)

・│佐古さこ都…珠稀の幼馴染み。出番なし。

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