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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐と黒猫の攻防戦
35/61

お付き合い、はじめます

side.N

「よ、よろしくお願いします」

「よろしく…って、これ何度目?」


直が笑えば、珠稀も恥ずかしそうにはにかむ。

…とはいえ、『これからどうすればいいのかわからない』と、珠稀の表情はいっている。


ガチガチに固まった表情と身体は、彼女の緊張具合を物語っている。

ムリもない、珠稀は付き合った経験どころか男友だちもいないのだから。

それが『はい、付き合いましょう!』で、あっさりと変われるはずもないのだ。

むしろ、サッと変わられたら驚く。


自分の│家《巣》にいながら、アウェイ感に苛まれているらしい珠稀は、折りたたんだままの足の上で、もじもじとお尻を動かす。

トイレをガマンする子どものような様子だが、その場を和ませる冗談のつもりでそんなことをいおうものなら、珠稀はたちまちパニックに陥りそうだ。

正座を崩すのもろくに出来ないでこちらの動き一つにしても緊張し過ぎていて哀れさすら誘うが、そんな姿でも直の目には違って映る。

可愛い…のもあるが、何というか“兄の友人”としてではなく、きちんと“男”として意識されているとわかって嬉しいのだ。

美織辺りに知られたら、ドン引きされるか白い目で見られそうなことを内心思いながら、直は幸せな気分で微笑んでいた。


「タマ」

「ふぁいっ!?」


「そこまで緊張しなくてもいいだろ」


気合いが入りすぎて変な返事をした珠稀に、直は笑って頭を叩く。

これぐらいの接触なら、“兄の友人”としても許容範囲内だったのだから大丈夫だと思っての行動だ。

“慣らしている”ともいう。


ぽんぽんと軽い調子で数回叩いた後、彼女の前髪を指先で撫で下ろす。

硬直してされるがままになっている珠稀は、たぶん跳ねていた場所を直されたぐらいにしか思わない程度の触れ合いだった。


そろそろ慣れかと思い、直は指を怯えさせないゆっくりとした動作で下ろす。

今度は手の平全体で、頬の弾力を楽しむように何度も撫でさすってみる。

この程度であれば大丈夫なようで、珠稀も多少緊張が解れたらしい。


これなら、もう少しいけるか。

直は頬を撫でる手はそのままで、ゆっくりと顔を近付けてみた。


ダメなら硬直するだろうから、すぐに離れればいい。

良ければそのまま直の意図を察して目を閉じてくれるだろう。


そういう心積もりで顔を近付ければ、珠稀はそっと瞼を閉じ…何故か顎を引いた。

逆だろう、普通は。

直の口元が引き攣った。

ダメなのか良いのか、どう判断すべきかわからないまま、直は苦し紛れに手を更に移動させる。


「直さん…」

「何?」


「喉、鳴りませんよ」


パチッと両眼を開けた珠稀が笑っていたので、やり場のない微妙な気分を取り敢えず笑って誤魔化した。

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