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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐は目を細めた
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ライオン、狐、犬、兎…そして猫

過去。

「直にとってミオは、そうだな…ライオンだ!」


『良い例えだ!』と、ご満悦な志良だけこの状況を理解出来ていなかった。

聞いていた全員が意味不明の主張に、ポカンとしている。


「意味がわからないんですけどー?」


全員を代表してそういったのは、腕にしがみ付いている直のカノジョだ。

前のめりになっているためVネックから谷間が覗き、上目遣いも相俟ってだいぶ煽情的だ。

直はカノジョの前に立ってその姿を、興味のない志良以外の鼻の下を伸ばす友人たちから隠す。


「姉崎がライオンか。威風堂々とした姿を例えたとしたら、いい得て妙だな」


「つまり、オスライオンってことかっ!?」

「いや、メスライオンは狩りが上手い!」


志良を良く知る友人たちは、彼を見て項垂れた。

美織の狩りの腕は、さほど良くないという共通の認識になったらしい。


「あと、女子に人気がある!」


クールビューティーで、媚びない態度が素敵だと、美織に憧れる女性は意外に多い。

宝○の男役的な意味で。


「プライドのボスかよ!」

「しかも、何でお前がドヤ顔っ!?」


ついでに、そのドヤ顔のまま叫ぶ。


「俺が第一夫人だからな!」


妙な主張をし出した。

余りに堂々とした主張に、友人たちは吹き出す。


「ふ・じ・ん!!」

「ある意味お前がハーレムの中心か!」


ボスが美織でプライドの構成が自分以外全て女性、両手に花どころか周囲が花まみれだ。

だが、ボスが美織だからだろうか、何故か羨ましくない。


「直はちなみに、オスキツネだ」


一瞬、静かになった直後に大爆笑が巻き起こる。


「化かすのか!人をその無害そうな笑顔で化かすのか!」

「誑かすの間違えだろ!」

「これこそ、“いい得て妙”だろ!」


「お前らなぁ…」


『後で覚えておけよ』と、直の視線がいっている。

口元は笑みの形につり上がっているのにその視線は鋭く、友人たちはガクブルしていた。


「つまりシロは、姉崎と俺はオスライオンとオスキツネだから、お互いに恋愛対象にならないっていいたいんだな?」


「そういうことだ!」


つまり実際には違うがお互いにオス同士、種族も違うから対象外だといいたいらしい。

志良は胸を張ってドヤ顔を再度晒してくるが、わかりにくい例えだった。

むしろ、直がいい変えなければ意味がわからないままで、それなのに何故得意気な顔が出来るのだろうか。


「犬江は犬だろうな、駄犬」

「見た目だけなら、黒のラブラドールレトリーバーでもいいのになぁ。残念な奴」

「あいつ、成績は良いらしいのになぁ…」


みんな、残念なものを見る生温い目をしていた。


「ちょっと待てよ、犬江。オスしかい・な・い」

「ア゛ーっ」


そしてここには、アホしかいないのか。

頭痛がするやり取りである。

だが、何だかんだと直はこのバカ騒ぎを楽しんでいた。


「直」

「うん?」


話しに入れず、ふて腐れていたカノジョはやはり上目遣いで直を見上げて胸に挟んだ彼の腕を抱き締める。

まるで、心細いといいかげな態度であった。


「ウサギは寂しいと死んじゃうから、終わったら早く来てね?」


潤んだ目と、絶妙な角度で首を傾げる。


「…ウサギって草食獣じゃあ?」

「犬江っ!しぃ~」


首を傾げる志良は可愛くはないし、他の友人に押さえ付けられて何やら不服そうにしている。

それに気付かないカノジョは、自分に向く直の視線を受け止めてうれしそうに頬にキスして講堂から出て行く。

次にこの講堂を使う講義を、カノジョは取っていないのだ。


小さく手を振ったカノジョの後ろ姿が見えなくなった頃、手を振り返していた直の肩に友人の一人が腕を回してくる。


「羨ましい!何で結城はモテるんだよ!」

「モテてるわけじゃないだろ」


あまりにも悔しそうにしているため、直は若干呆れた顔をしているが相手は気付いていない。


「前は可愛い子で、今度は派手めだけど、共通点何もないな~」


前のカノジョは高校時代のバイト先で知り合って、告白して付き合いはじめた。

今のカノジョは、同じ講義で隣の席になったのをきっかけにして仲良くなり、付き合うようになった。

見た目も違えば、バイト仲間と大学の同期生で関わり方も違う、確かに共通点が見えない二人だろう。

しかし、付き合っている直にとっては違うのだ。


「両方共、甘えてくれる可愛い子だ」


にこやかに笑う直に、友人の数人は引いた。

みんな、前のカノジョとの別れ話のときの話しは直以外に聞いていて、あんなことがあってもまだ『可愛い』と強がりではなく本心でいえる彼に引いているのだ。


「…結城って、何ていうか。カノジョを可愛がり過ぎるってゆーか」

「溺愛?つくす系?」

「ありゃ、ちょっとなぁ。犬江はどう思うよ?」


友人である美織を遠ざけただけでなく、男同士で飲みに出たり遊びに行ったりする時間をほぼカノジョに費やしてきたことをやり過ぎだと考えている彼らは一番仲が良い志良へと話しをふる。

しかし志良はといえば、ずいぶんあっさりした答えだった。


「釣った魚にエサやり過ぎて逃げられる系?別に本人たちがいいなら、いいんじゃねーの」


実際に自分自身が被害を被っていないとはいえ、あんまりな言葉である。

聞いた方の友人たちの方が、彼よりもっと直を心配をしているようだ。


「お前、いいのかよ。自分のカノジョが疑われんの」


別の見方をすれば直のカノジョの主張は、志良は友人と自分のカノジョに裏切られているということになる。

しかし志良は、当たり前だがそれを知っていながら平然としていた。


「今にはじまったことじゃないだろ。ミオも大して気にしてないし。二人がお互いに意識してないってことは、一応いうだけいったしな」


志良が美織や直と出逢う前からそんな状態なため、彼のいう通り今更なのだ。

何かいいたげな友人たちは、志良のその態度に何をいっても無駄だと肩を竦めてそれぞれ近くの席に座り講義を受ける準備をはじめた。


「で、どうするよ。今日、家に来る約束してただろ」


もうすでに、別の友人たちの輪から抜けていた直の横に陣取った志良は、答えのわかり切ったことを気軽に問い掛ける。

現に直は、ばつの悪そうな顔をして言葉を濁す。


「あぁ、そうだったけど」


頬杖を突いて気楽な様子で笑った志良は、直のばつの悪そうな顔も見えていたし、そういう表情をする理由も知っていたのだが、まったく気にしていなかった。


「ミオも来るし、仕方ない。そもそも親父がなかなか帰ってこれなかったのが、悪いからな」


今日は、志良の妹の遅い入学祝いの席だったのだ。

彼女の合格発表後、受験勉強を見てくれていた直、気に掛けて差し入れをしてくれていた美織を招待して、犬江家で食事をする予定だった。

だが、単身赴任の犬江父がなかなか帰って来れずにだいぶずれ込んでこんな時期になってしまったのだ。


『だから気にするな』と口外に示す志良に、直は今度こそ素直に謝ることが出来た。


「悪い、謝っておいてくれ」


「りょーかい。あーぁ、残念がるな、お袋もそうだがタマも」

「…そうかな?」


直の脳裏に、ピンと立った黒い三角耳と尻尾の幻を付けた、無表情な少女が現れたが、彼女は何も語らず少しも残念そうには見えなかった。

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