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仔猫の恋  作者: くろくろ
狐は目を細めた
17/61

犬江家で食べられてるだし巻き玉子の味

現在。

「新婚夫婦のお宅かと思った」


後ろから抱き締めるようにしながら、料理をする機会もそれを見る機会もあまりないだろう。

当時を思い出し、志良はしみじみ語る。


「しみじみいうな、語るな」


直としては、本当にそんなつもりはなかったため、彼の評価はいただけない。


「普通の神経を持っていたら、そんな体勢は取れないと思うが?」


細められた美織の目が、『羨ましい!』と叫んでいる。

だから、それは相手が違う、志良とやれ。


「やるんじゃないか?親子で料理するときとかで」


確かにあり得なくはないが、その対象はだいたい小学生だ。

高校生に見える中学生は、範疇外どころかイチャイチャしているようで目のやり場に困る。


「役得と、思ってはなかったのか」


先程の答えですでに、見た目はどうであれ直にとって相手は友人の妹で子どもだという認識しかなかったことは理解出来る。

しかしそれでも聞かずにいられないらしい美織に、直はいっそ残酷な程はっきりと子どもは対象外だと告げた。


「中学生相手に?あり得ないな」


とはいえ、では例えば自身の妹とそうやって料理するかと問われたら『しない』と返す。

大人しくない直の妹が相手では、悪気のない攻撃を受ける羽目になる。

あんな至近距離、肘鉄も踏み付けてこようとする足も除けようがないのだ。


そう考えれば、あれは彼女だからこそしたのであり、ある意味すでに特別だったのかもしれない。

まあ、そんなこと美織だけでなく、志良にもいえないことだが。


「やっぱり、あれからじゃないか。タマがお前に懐きはじめたのは」


まだ食べ物に括っている志良の一言に、美織は食い気味で聞いてくる。


「あの子、だし巻き玉子が好きなの?」


好きか嫌いかの二択だったら好きと答えるだろうが、たぶん違うと思う。


「我が家で、結城家のだし巻き玉子を食べることになるとは思わなかったな」


「大袈裟だな。どこでも似たような味付けだろ」


そうはいうものの、たった今食べただし巻き玉子は何となく直の舌に違和感を残した。

きっと志良も、そんな風に感じているのだろう。


「何あんた、コソコソと自分とこの家庭の味を仕込んでるの?」


「その味付けしか出来ないだけだ」


だから、ドン引きされる謂われはない。


だいたいそれだったら、犬江母からレシピノートを借りている美織はどうなんだと逆に聞きたい直。

志良は『クリスマス料理、なかなか美味かった』と、ご満悦にクリスマス明け直に報告している場合ではない。

外堀が埋められつつある。


「やっぱり、食べ物の力は偉大だな。おかげで色々、話せるようになっただろ」


確かに良いきっかけではあったが、まるで単純に餌付けされてしまったかのようにいうのは止めてあげた方が良いと思う。

志良は妹と年が離れているせいか、やたらと幼い子どものように扱っているような気がする。

彼なりに大事にしているのはわかるが、もう少し考えて発言したらデリカシーがないといわれずにすむだろう。


「受験勉強も結城が教えたって聞いたけど、普段は二人でどんなこと話してる?」

「そうだな…基本的に、愚痴かな?」


ある日、勉強を見ていたときの話題を思い出す。


志良はお調子者でデリカシーに欠けているが、知り合いに頼まれて家庭教師をするぐらい頭も良く説明が上手い。

食事を作る手間賃代わりとして直自身が望んだこととはいえ、兄に頼んだ方が良かったのではないかと思い、聞いてみれば彼女は無表情をほんの少し苦いものにしながら答えてくれた。


曰く、『調子に乗らせると面倒』らしい。

教えてくれるのは有難いし感謝もするが、そこから過剰サービスに移行するそうだ。

例えばテスト勉強だったら、範囲外までひたすら教えてくれるらしい。

予習・復習はいいことだが、他の教科のテスト範囲を終えてないのにそんなことされたら、入った知識が頭から抜けてしまうと憤っていた。

…志良はすでに、実行済みらしい。


「ガキのあいつが愚痴るようなことないだろ!」


美織と直の心の声は、この瞬間一致してたに違いない。

『お前のせいだよ!』と。


「まっ、そうしてたのも、直に新しいカノジョが出来るまでだったけどな」

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