評定の間
「話はまとまったかの?だいたいの事情はわかった。隼人が現れた理由もお前があの義元だということもとりあえずは了解した・・・とりあえず今日はこれで解散とする」
それから葵の住んでいる屋敷に今晩は泊めてもらうことになり、初日は終了することとなる・・・・・・・
翌日朝、葵さんとすみれと一緒に葵さんのお城こと清州城に向かうことになった。城門で門番に挨拶をしてその後、葵さんと別れて別室に通された。
「それにしても、お城ってこんなに大きんだな。今までお城とか興味なかったから全く知らなかったな・・・全体的に気品にあふれる感じってのはわかるよ」
「そうかの?ワシのおった城はもっと大きかったぞ!ここよりも品のいい佇まいじゃったわい!」
すみれがささやかな胸を張って自慢げに答える。俺はその仕草の可愛さからすみれを抱き上げて自分のあぐらの上に座らせた。
「おおぅ!どうしたのじゃ?いきなり」
「いやぁ、可愛くてね・・・つい」
あぐらの上に座ったすみれは特に嫌がることもなく、むしろ機嫌よさそうに微笑んでいたのでついでに頭も撫でる。そうやってすみれとじゃれて遊んでいると桜さんが
「失礼いたします。薩摩隼人さま、評定の間へご案内致します」
と部屋の襖を開けて入ってきた。
「はい、わかりました。・・・でも、こういうのって家老である桜さんがわざわざするものなんですか?こういうのってもっと下の人の仕事なんじゃ・・・」
「まぁ普通はそうなんですけどね、今回は少々特別な意味合いがありまして・・・」
そうこうしている間に評定の間という部屋の前に着いた。
「では、行きますよ?」
桜さんはそういうと評定の間の襖を開けた。
「・・・し、失礼します」
緊張で少し声がうわずる。葵さんや桜さんと知っている人もそれなりにいるはずだがこういう場所に出るのは少々気が引けるのだ。
「おぉ隼人か、入れ」
部屋の奥から葵さんの声が飛んでくる。どこか楽しそうな声色に緊張を少しとき評定の間に入る、そして入り口に近いところに腰を下ろそうとすると葵さんが
「おい、隼人よ・・・お前の座るのはそこではないぞ?こっちだ」
「???」
葵さんに言われるがままに葵さんの手招きするところに移動する・・・なぜか家老の桜さんと椿さんの居る位置を越えてさらに奥。葵さんが差しているのは何故か葵さんのすぐ隣・・・隣なのだ。
「えっ・・・あの、葵さん?なんで俺が葵さんの隣なんですか?」
「いいから座れ・・・座ってからわけを話してやろう」
戸惑いながらも恐る恐る葵さんの隣に座る。目の前は複数人の家臣が戸惑い顔で俺のことを見ていて、中には睨みつけている人もいた。
「あの、葵さん。座ったので訳を聞かせて下さいよ」
俺の着席を確認すると葵さんは目の前の家臣たちに叫んだ。
「皆きけ!この者、薩摩隼人をワレの夫とする。この者はワレの見込んだ男だ!存分に引き回してやってくれ」
「・・・・・・・え?何それ、昨日と言ってること違いませんか?俺は家臣になる話はしましたけど、葵さんの夫になるってきいてませんよ」
「なんだ?不服か?ワレのような国持の夫になれるなどこれほど恵まれた地位はないぞ?それにお主の使命を考えればそれ相応の立場にいた方が対応しやすかろう」
家臣の人たちをそっちのけで葵さんと小さい声でやり取りをする、周りはいまだざわついている・・・。
「確かにそうですけど、いいんですか?葵さんってすごく可愛いのにこんなこと宣言したら、今後本当に旦那さんをとるとき困りませんか?」
「バッ・・・可愛いとか言うな」
可愛いに反応して葵さんが真っ赤になる。なんか普段の顔とのギャップに身もだえしそうになりながら言葉を繰り返す。
「えっと・・・もう一度言いますけど、今後本当に旦那をとるとき困りません?」
「・・・あぁ、そのことはお前が心配することじゃない。お前は何も気にせずワレの側に居てくれればよい」
「そういうことなら喜んで葵さんの旦那をやらせていただきます!って痛いよ」
答えた直後、後ろに座っているすみれに腰を蹴られた・・・。嫉妬?
「であるか・・・では、改めて皆に挨拶せよ!」
葵さんの言葉に頷くと大きく息を吸った・・・そして
「ご紹介に上がりました。俺の名前は薩摩隼人、皆さんもご存じ田楽狭間で葵さんに拾われた男です。この度、葵さんの旦那に任命されました!皆々様どうぞお引き回しの程よろしくお願いいたします」
腹から力いっぱい声を張り挨拶をする。すると、
「ふっざけるなー」
と大きな叫び声が返ってくる。この子はさっきからずっと俺のことを睨みつけてきている子だ・・・。立ち上がって言葉を続ける。
「なんで、葵様がこんな弱そうなやつを旦那にしなくちゃいけないんだ!葵様の旦那になる人は、力が強くてそれなりに地位が高い人って決まってるんだ!それなのになんでこんなどこの馬の骨ともわからないやつを旦那にしなくちゃいけないんだ!」
黄土色の髪に真っ赤な瞳、白い着物の袖は動き易く加工されている。活発な印象をうける子だった。燃える闘魂って言葉が似合いそうな雰囲気を纏っている。その女の子が騒ぎ立てていると、椿さんが、
「やめい、/蓮華」
「しかし、椿様。こんな奴が葵様の旦那になってもいいんですか?」
「私は納得している。この者の力は昨夜見せてもらったからな。それに、この者は葵様が選んだ男なのだからな」
「うう・・・でも、でも」
「ならば蓮華よ、お前はどうしたらこやつをワレの旦那と認めるのか?」
二人の問答を聞いていた葵さんが蓮華という子に聞く。
「こいつが私より強ければ認めますよ」
「うむ、ならば仕合をすればよい。・・・庭がいいかの?」
葵さんが俺に聞いてくる。
「いや、葵さん・・・いきなり仕合なんて困りますよ。俺ってそんなに強くないですから、一線級の武将さんたちに比べればまだまだですから」
「そんなことないと思うがな、昨日の戦いぶりを見ていたがお前は強いとワレは思うぞ?それにの、あの蓮華は根が真面目なやつだから一度力を示せば認めてくれるはずだぞ。まぁ気軽に仕合をすればよい」
葵さんの説得に断ることも出来ずに仕合を受けることにした。
「わかりました、その仕合お受けます」
「仕合受けたことを後悔させてやるよ」
俺の言葉に蓮華さんが答える。すると、葵さんがさらに叫ぶ
「皆、他にも仕合したいものは自由に参加すればよい」
その言葉に評定の間全体が揺れた・・・。