自分の生きる道
「あと、お前様の実家があるじゃろ?あの道場の本当の役割ってお前様は知っておるか?」
いきなりのすみれの質問に慌てて返事をする。
「え・・・っと、役割?地元の人たちに武術を教えるため?」
「まぁ、そのくらいの認識だろうよ・・・、実はの、お前様がその魂を導く者たちの子孫の一族なのじゃよ。それで、お前様の家の流派の技はその者たちの技を結集したものなのじゃ・・・お前様の道場はその昔は全国から門下生がたくさん集まっておったのであろ?その門下生が学んでおったのがその魂を導く術なのじゃよ。その技で全国に魔が蔓延るのを防ぐために国の要請で集められた素質あるものたちなのじゃ・・・お前様がいた世界が平和だったのはその者たちのおかげともいえる、技を全国に広めてくれたおかげでお前様や一般のやつらが生きておるのじゃよ・・・まぁその真相を知るのも今やごく僅かのものになってしもうとるんじゃがの」
「・・・でもそんな歴史があったなんて、親父も学校の勉強にもなかったぞ」
「そりゃ、そんな歴史を一般人に話しても余計な混乱を与えるだけじゃからな。もしもそんな歴史を知ってみよ、お前様みたいな素質のある者は技や術を習えば多少は大丈夫であろうが、それ以外の者らはどうなる?死に怯えながら生活することになろ?生まれてから死ぬまでの間、いつ自分が魔物になるか怯えながら生きないといけないというわけじゃよ・・・そのなの耐えられるか?魔は闇に紛れて人に近づく・・・そして人の心に小さな種を蒔く。その種が芽吹くのには個人差があり、いつ蒔かれたものが変化するかはわからないのじゃよ、いくら素質がある者であってもそれを見抜く術は一朝一夕で身に付くものではない・・・じゃからそんな歴史についてわざわざ教育する意味はなかろ?無駄に不安を煽る意味はなかろ?そんな不安を煽るくらいならそれぞれの才能を磨いていった方がこの国のためになるであろ?じゃからそんな話は表には出ないようになっておるのじゃよ」
「そんな・・・そんな事になっているなんて、そりゃあ何にも知らない方がいいかもしれないけど・・・そんな自分の身の危険がある状態ってことを知らないで生きていたなんて・・・クソッ」
すみれの話を聞いて混乱し、その中で苛立ちを覚える。自分がそんな世界をのうのうと生きていたことへの苛立ちや、自分の家のことを何も知らなかったことへの苛立ちが頭の中を支配する。そんな俺の心に気付いてか、すみれが
「お前様の親父殿は自分の代で道場を畳むつもりであったみたいじゃぞ。お前様の語る進路を聞いて決心したみたいじゃな、身を守る術は教えた・・・あとはあいつが自分自身の力で道を切り開いて生きていってほしい・・・って言っておったわ。じゃから家の事情を話さないようにしたんじゃないかの」
「親父がそんなことを・・・ってか、すみれはどうやって親父のその言葉きいたんだ?それに、俺のいた世界の話も詳しげだったけどさ」
「それはの、お前様の親父殿もワシの声が聞こえたからの、たまに世間話をしてたからの。ワシは刀に封じられてからたくさんの人間を見てきたし、話を聞いてきた。お前様の世界の教育についても話を聞いておったから知っておるだけじゃよ、魂を導く者の子孫の一族の長は代々ワシと共にあった。それにお前様の一族は国の成り立ちに大いに貢献しておるのじゃ、だから国の物事の決定には常に参加しておるのじゃ」
「・・・・・・・・・・」
あまりの衝撃的事実の連続に言葉を失ってしまった。俺のいた世界で俺の家は国を動かすレベルですごい家だったなんて・・・それに、俺の家がその魂を導く者たちの長で、すみれは代々の長と共にあったとか・・・ってあれ?ということは?
「すみれ、ホントはこの世界に来るはずだったのは俺じゃなくて・・・親父だったんじゃないか?今の師範、つまり長は親父のはずだろ」
「確かにの、そうなるとワシも思っておった・・・来るべき時にお前様の親父殿とこの世界に来ると思っておった。間違いなくお前様の親父殿はこれまでの長の中で飛び切りの力を持っておったのじゃから・・・」
「じゃあなんで、こんなことになってるんだ?」
「・・・そのことなのじゃがの、お前様に触れられてワシはワシの予想は間違えていたのだと感じたのじゃよ。お前様は今までの長たちにない力を持っておることに気付いたのじゃ・・・本来、お前様の一族にある力とは浄化と封印なのじゃが、お前様にはその封印した力を使用する力を持っておるみたいなのじゃ。魔の力の使用など今までの者の誰も持っておらなんだ力なのじゃよ・・・恐らくその力に反応してこの世界に跳んでしまったのじゃ、つまりお前様こそこの世界を救うもの・・・救世主になる素質があるということなのじゃよ」
「そう、なんだ・・・俺が救世主」
「あくまで素質の話だからの?お前様の行動によるところがでかい・・・やってくれるか?」
「・・・あぁ、やってやるよ。それが俺の生きる意味ならやるしかないだろ」
少しだけヤケになりながらそう答えた。どうすればいいかなんて分からないけど、こに世界に来てしまって以上は自分の周りが不幸になるような事は避けたいし、できるだけ楽しく生きていきたいから。
そう決心していると、今まで一言も話に入ってこなかった葵さんが話しかけてきた。