すみれ
「・・、お・・、・・・ませ。・・、いつ・・・・・・・・」
朦朧とした意識の中、遠くから声が聞こえる。
「おい、お・・、め・・ませ。・・、いつまで・・・・・・」
段々と聞き取れるようになってきた。鈴を鳴らしたような可愛らしい声が聞こえる。
「おい、お前様、目を覚ませ!」
さっきより鮮明でより大きな声が耳を刺激した。
「うわぁぁ、うるせぇ!」
あまりの刺激に朦朧とした意識は一気に覚醒し飛び起きた。
「やぁっと起きたわい。ずっと起こしておったのにピクリとも動かんからどうしたもんかと思っておったところじゃったわい」
飛び起きてまず視界に入ったのはとても可愛らしい少女の姿だった。小学校低学年くらいの年齢、腰元まで伸びる流麗で艶やかな黒髪、まるで見たものを燃やし尽くさんとするような真紅の瞳、熟して甘い桃のような綺麗なピンク色の唇、透き通るような白い肌、そして巫女のような服装の女の子は少し機嫌が悪そうに俺のことを睨んでいる。
「何をジロジロといやらしい目でみとるんじぁい」
「あ、悪い・・・って君は誰?ってかここはどこ?」
目の前の少女から視線を外し周りを確認してみるが見渡す限り全面が真っ暗な闇の中だった。
「ワシの名は/菫じゃ。そちが蔵で拾った刀があったじゃろ、それがワシじゃ。それからここがどこかという質問には答えられん、というかワシもあまりよく状況が飲み込めておらん・・・」
「え?ってことはここから元いた場所に戻ることができないってこと?」
「まぁ、そういうことじゃな。それよりも、お前様よ、そろそろ自分の名も名乗ったらどうじゃ?」
それもそうだな、この子の言葉を信じるなら少なくてもここから出るまでは一緒に行動しないといけないわけで、まぁ自分のことを刀とか言ってるがとりあえず年長者としてしっかり自己紹介をしないとな。
「俺の名前は薩摩隼人。九州は鹿児島の出身で実家は古くからの剣術・体術の道場をしている。今年高校に入学したばかりの十五歳で趣味は読書と格闘技だ。」
「何、お前様はまだ十五歳なのか、若いのぉワシはこう見えて五百五十歳なんじゃぞ!まぁお前様は我が主様になるわけで、じゃから気は使わず今のままの喋り方で構わんのじゃ。名もすみれと呼び捨てで構わん」
「ありがとう、じゃあすみれって呼ばせてもらうね。・・・って、ちょっと待って!」
「なんじゃ何か不満でもあるのか?」
「いや、不満とかじゃないけど、いつの間に君の主に俺はなってるの」
「いつの間にも何もないわ、お前様がワシを拾ったその瞬間からじゃ」
なんてことだ。たまたま蔵の掃除中に落ちていた刀を拾っただけなのにいきなり主とかこの空間とかどうなってるの・・・。とりあえず少し落ち着こう、まずは状況の把握から、ここは蔵ではない真っ暗な空間。目に映る範囲は闇。足場はしっかりしているからとりあえず落ちたりとかの心配はなさそうだな。光はないが、目の前のすみれはしっかり見えるし触れる。次にこの子の言ってたことについて、自分のことを刀と言ってたな、まぁファンタジー物の小説ならそんな展開はたまにあるけど、そんなリアルはありえなだろっていうことで保留。ただ、蔵で俺が拾ったってことも言ってたな、ってことはホントに?ダメだ判断に苦しむな・・・。
「どうしたのじゃ、いきなり黙り込んで」
「いやさ、今の状況を整理してた。けど、全然まとまらなくてね」
「なら、今はとりあえずでいいんじぁないかの?」
「そうだね、とりあえずは君の主ってのは保留で頼むよ」
「わかった、なら今はそれは考えなくともよいわ、どうせワシはお前様以外にはついていく気はないからの」
「うん、じゃあこれからよろしくね!すみれ」
「うむ、よろしくなのじぁ」
お互いに挨拶を終えると、微かに人の声がきこえるのに気付く。
「聞こえたか?」
「うむ、人の声じゃな。何やら詩をよんどるみたいじゃ」
「すみれ、光が!小さいけど光が見えるよ」
「どうやらこの詩も光の先から聞こえてくるようじゃ。お前様どうする?」
「もちろんあそこに向かおう!」
「了解じゃ。それにしてもこの詩どこかで聞いたことあるの」
「人間五十年、/化天のうちを比ぶれば、/夢幻の如くなり、一度生を享け、滅せぬもののあるべきか、これを/菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ」
光に向かって全力で疾走していくうちに、その光は眩さを増していった。そして光を抜けたと思ったその瞬間、光に包まれてまた意識が遠のくのであった・・・・・
ご朗読ありがとうございました!次はいよいよ異世界に行きます!
こうご期待のほどよろしくお願いします。