第一章<婚約者>
第1章<婚約者>
ギギギィ…
1人の男が人目を気にしながら母屋の門をくぐる。
そして辺りを見渡しながら素早く母屋の一室へ入った…とその瞬間、部屋にいた使用人のウニが
「お嬢様!お戻りが遅いですよ!先程奥様がいらっしゃって、お嬢様を呼ばれたのでごまかすのが大変だったんですよ!」
と言った。
そう…先程の男の正体は、男装したこの屋敷の娘 ソンイだったのだ。
ソンイは
「えっ!母上が?なぜ?」
と言いながら、急いで着替えはじめた。
ウニはそれを手伝いながら
「分かりません。ですが、旦那様がお戻りになられてしばらく2人でお話された後だったので、何か大切なお話では?」
と言った。
「父上がお帰りなの?なら、尚更急がなきゃ…」
ソンイがそう言うと、ウニは半ば呆れながら
「お嬢様が男装などなされずに、普通にお出かけになられればこんなに急がなくてもいいのでは?」
と言った。
しかしソンイの一族である閔氏は武官の家で、義禁府の判事も数多く排出している。
そして、ソンイの父も義禁府の判事を務めていて、ソンイの2人の兄は、上の兄が義禁府の都事、下の兄が武官の科挙の勉強中だ。
この様な環境で育ったため、慎ましやかになるどころか少しだが武芸をたしなむお転婆な女の子になってしまったのだ。
ソンイは
「そんなの無理よ!母上は私を普通の女の子にしようと、少しでも目を離すまいとしているのに… あんなんじゃせっかくの外出も全然楽しくないわ!だから、わざわざ男装してこっそり出かけてるのよ♪」
と言った。
ウニはため息をつき
「そうですね… でも私はいつ見つかるかとひやひやしてばっかりですよ!…さぁ、出来ました!急いでサランチェに向かいましょう!」
とソンイを急かした。
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「旦那様!お嬢様です。」
キム執事が呼びかける。
「入りなさい。」
父上の声を聞いて部屋に入る。
「父上、母上…遅くなってすみません。」
ソンイがそう言って礼をすると、母上が
「もっと近くに…父上から大切なお話があるから。」
と遅れた事も怒らずに、珍しく微笑んで言った。
すると父上が
「ずっと考えていた事なんだが…お前もそろそろ結婚する歳だ。それに今度世子嬪選びの諫択が始まることもあって、お前の結婚話を進めることにした。」
と言い、母上が
「父上がソンイの婚約者にぴったりなお方を探してきてくれましたよ。」
と嬉しそうに言った。
ソンイが驚いて声を出せないでいると、父上が
「相手は右議政大監のご子息 テジュン様だ。優しい性格で頭脳明晰と名高い方だ。」
と言った。
ソンイはやっと声が出るようになり
「婚約者⁈ 私が結婚⁈」
と叫んだ。
母上はソンイをキッと睨むと
「騒々しいですよ!父上の前だというのに…
とにかく、もう決まった事です。これからはもっと女性らしくしなさい!」
と言って、呆れたようにため息をつき
「もう下がりなさい。」
と言った。
サランチェを出るとウニが待っていて、
「何の話だったのですか?」
と心配そうに聞いた。
ソンイはフラフラしながら母屋に戻ると、へたり込んで
「私…結婚するみたい…」
と言った。
ウニは
「そうですか結婚…ってえーーっ!」
と叫び、すぐに口を押さえて今度は声の音量を落として
「お嬢様、どうするんですか?いつも、結婚は本当に好きな方と…って言ってらしたのに…」
と心配そうに言った。
ソンイは、ハッと顔を上げると
「そうよ!私は顔も見たことない男性と結婚なんてしたくないわ!こうなったら…あの手を使うしかないわね…」
と言い、ニヤリと笑った。
その顔を見たウニは胸騒ぎしかしなかった…
*To be continued*