「え?メグと坂上って付き合ってないの?」「付き合ってないよ―、ただの幼馴染み......」みたいな関係
オッス、オラ悟空!
いや違う。俺は悟空じゃない。坂上モトヤスと言う。
そんなことより俺は明日告白する。隣のクラスの武田さん、色白でちょっと大人びていて、可愛いい女の子、美術部、傍を通り過ぎると可愛い女の子っぽい匂いがする。俺は彼女に思いを伝えようと思う。告白と言ったら高校一年生男子の一大事業、スペクタクルであることは分かってくれるだろうか、わかってくれるだろうね。
というわけで、俺は物理室(物理部に鍵を借りた)で、明日の告白に向けて、綿密なる計画を打ちたて、文言の推敲を行い、入念なリハーサルを行っていた。
「なんかさっきから、テンション高すぎてうざーい」
この目の前で足ブラブラさせてる色黒女は、幼馴染の衛藤めぐ。今回の告白の練習のために呼んだ。ベリーショートでー見男か女かもわからないような奴だが、オレの知り合いで唯一こういうことを相談できる女性だったので呼んだ。
「ていうか、そもそも呼び出して告白するっていうのが、大仰で嫌だよね。もっとさらっとした感じでやった方が良いんじゃない?」
「さらっと告白って......どうすんだよ」
「だからそもそも告白って発想が駄目じゃない? 重いもん」
メグは、したり顔でペラペラとオレに恋愛説教をする。コイツだって誰とも付き合ったことないくせに偉そうに......彼女は、スマホをチラ見しながら喋っていた。スマホ買ってから、コイツはいつもこんな感じだ。
足を組んだり外したり、スカートの中が見えてんぞバカ女が。オレは、彼女のスカートの中が見えない位置の隣の隣の席へ、さりげなく移動した。
「さらっとって言うけど、じゃあどういうタイミングで言えばいいわけ?」
このままだと、メグの恋愛説教が永遠続きそうだ(説教好きなのだコイツは)。オレは彼女の言葉を食い気味に遮り、質問してみた。
オレの問いに、メグはしばし熟考……
……
……
……彼女は俺の顔とスマホを見比べた後、意を決したかのように口を開いた。首の後をかきながら、ほのかに頬を染め、
「そりゃあ、どんなタイミングだってさ、好きな人に言われたら嬉しいと思うよ。あ……あたしだったら、アンタにいつ告白されたって嬉しいけど……」
……
何か妙な間というか、変な雰囲気が、教室にたゆたっていた。オレンジ色の西日に照らされ、メグの表情は、よくわからなかった。
まったくコイツ何かトンチンカンなことを言いやがって
「いや、だからお前に告白するんじゃないから、それにオレと武田さん、まだ好きとかキライとかの間柄じゃないから」
「うん、まあそうかもしれないけど……」
「真面目に考えてくれよ。こっちは、真剣なんだ」
机についたキズを指でいじりながら、メグは何だかブツブツと言っている。コイツは昔からどっか抜けてるというか、的はずれな所があるからな。
「ああ、もうお前じゃ参考にならない。お前、何か他の女子グループとかから浮いてるもんな」
「浮いてない! アタシは皆といるときは女子やってるの。アンタがそういう時見てないだけでしょ!」
「女子やってるって……猫被らなきゃグループに混ざれないじゃ、浮いてるってことだろ?」
「このやろ―!」
「うわ! 危ね―な! 何すんだよ!」
「死ね!」
メグは机の上に転がっていた、でっかいトングみたいなヤツや消しゴムを投げつけてきた。身を躱せば後ろのビーカーとか並んでるガラス棚に当たって、ガラス割れるかも。俺は、黙って耐えた。
「まあ、いいや。とりあえず。そこ立ってて。今から俺が告白する時の台詞言うから。聞いて、一応感想言ってくれよ、な?」
「う……まあ、いいけど」
顔真赤にして怒っているメグをよそに、オレは明日の状況を再現する。部活終わりの6時半、ちょうど今位の時間に武田さんは、教室後ろのドアから入ってくるはずだ。
西日で、横から照らされる位置、前から4番目左から2番目の席の机に、オレは立つ、
「だから、当日武田さんは後から入ってくるから。後から入ってくる感じで歩いてきて。一旦ドアの外行って、入ってくる感じで。あと武田さんは俺の事君付けで呼ぶから」
「何シミュレーションしてんの、馬鹿じゃないの?」
「それじや、行くからな。教室入ってきて」
「は-......ハイハイ」
・
・
・
ガラガラ
「さ……坂上くん、急に呼び出して……何?」
悪態をつきながらも、メグは言うことを聞き、教室の外から入ってきて軽く演技も入れてくれる。何だかんだで、頼むと聞いてくれるのが彼女の良い所だ。
横からは西日が当たる、物理室にオレンジ色の光が注ぐ。ゆっくりと歩いてくる武田さん(の演技をしているメグ)をまっすぐ見据えながら俺は意を決して言った。
「武田さん急に呼び出してゴメンな。でも二人で話したくて」
「はい」
「中学の時からずっと気になってた。部活の時は忙しくてお互い喋れないのがもどかしくて。俺と付き合ってくれないか」
武田さん(の演技をしているメグ)は、手で顔を隠すようにしたかと思うと、少し小走り気味に俺のほうへ寄ってきた。
トン
と俺の胸に強く頭を押し付けるように顔をうずめ、ささやくように俺の告白に答えた。
「ありがとう、アタシもずっとずーーーっとアンタのこと気になってて……もういつからかわからないぐらいずっと好きだった……うれしい……」
……
……
……いやいや、なんかさっきから何なのコイツ? どんだけ演技過剰なんだよ、入り込み過ぎだろ。
「おい! おい! ちょっと大丈夫か?!」
胸の中で、茫然としてたメグの肩を思い切りゆすってやる。しかし、彼女は「あ……アタシも好き……超好き……」と呟くばかりで、何ら応答がなかった。
「しっかりしろ! メグ!」
「イタ! え、何?」
軽く拳で小突いてっやったら、ようやく彼女は気づいてくれた。
「どうだった? 俺の告白?」
「え? あ、うん」
ポーッと俺の顔を見返していたかと思ったら、「ハッ」と気づいたようにメグは俺から身体を離した。
「全然ダメだね! これじゃ断られると思う!」
「え、そう? 何かお前夢見心地だったじゃん、かなりいけてる告白できてたからじゃないの?」
「それはアタシだからなの! 武田さんはアンタの事なんかよく知らないっていうか、アウトオブ眼中なんだから、多少強引に行ったほうがいいの! ほら! こんな感じで!」
「え、いきなり肩に手を回すの? それヤバクない?」
「それぐらい強引に行ったほうが女子は……」
・
・
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結局、俺は振られた。武田さんから言われたのは「メグに悪いから無理」だそうだった。よくわからないが、俺が振られたのはメグのせいのようだ、今度また文句を言ってやらなければ、ったくいつもアイツと一緒にいるとロクな目にあわないんだから……




