異界への道
ここは暁の土地、シャングリア。
太陽の恵みを一心に浴びる土地だ。
町人が一斉に動き始める午前9時。
城から抜け出したこの国の王子―レイン・シャールは町人の格好に身をやつし、市場を歩いていた。
ある場所に来たレインは目深に被っていたフードを外すと「イルアラ〜。スリア〜」と叫んだ。
「あんた、また来たの?」
腰に手を当て、そう言ったのは姉のイルアラ・カート。
「あ、レインだぁ。いらっしゃ〜い」
白兎のぬいぐるみを抱え、気の抜けるような笑みを浮かぶて言ったのは妹のスリア・カート。
「『また』とはご挨拶だなぁ」
レインはそう言うと「今日は〈お客〉として来たのに」と言った。
「客?」
「そう。〈占い師姉妹〉カート姉妹の力を借りたくてね」
レインは妖しく笑った。
†
木々の隙間から太陽の光が入ってくる。
玖瑠深は携帯片手に颯爽と歩いていた。その顔は険しく、まるで般若のようだ。
明らかに不機嫌。腹をたてている。
「あ〜の〜女〜!」
玖瑠深の不機嫌の原因は数分前に遡る。
「大変な事って何?」
『い〜い?心して聞くのよ、玖瑠深』
「さっさと話せ」
『ゴホンッ。ごっめ〜ん、玖瑠深ちゃん。またママの研究失敗しちゃったの』
「また〜〜!?」
玖瑠深の母―奈美はとても研究熱心なのだが、いつもいつもその苦労が徒労に終わってしまう。
家屋破壊も数知れず。とうとうキレた父親が研究室もとい、追い出し部屋を作るくらいだ。
「それで?お母さんの失敗とボクがここにいるのとどう関係があるのさ」
『ママが研究してたモノね。機械だったの。壊れかけの。買い物帰りに拾ってね。見たことない機械だったものだからつい分解しちゃって……。』
「戻せなくなったと」
『そうなのよ〜!しかもその機械、いきなり喋ったの!《セカイ……コワレル。ニエ、ホッス》って』
「ふ〜ん」
玖瑠深は興味がないのか、肩くらいまである茶色の髪に指を絡め、弄りながら答えた。
『その機械、こうも言ったの。《ニエ、キマッテル……。ニエ、ヒノサカ、クル、ミ》って。そう言った途端、機械と同時に玖瑠深ちゃんの部屋から光が溢れてて』
「その〈贄〉にボクが選ばれたって訳か。って信じられるかぁ〜〜!!」
いきなりキレた玖瑠深。無い筈のちゃぶ台をひっくり返している。
「もう切るっ。バイバイッ」
『あ、玖瑠深ちゃ』
ピッ。
と、いう訳だ。
「何が『と、いう訳』じゃあ〜〜!!」
「誰だっ!!」
予期せぬ声に玖瑠深はビクッと体を揺らし、その場に止まった。




